自分を抱きしめる、ということ
この記事は、自分を後回しにしてしまう人へ向けて書いている。 特に、精神科疾患を抱えながら毎日を生きている人に、届いてほしい。
はじめに
このシリーズを読んでくださった方は、こう思っているかもしれない。
「この人、自分にずいぶん厳しそうだな」と。
否定はしない。かつては確かにそうだった。目的を定め、達成するために動く。自分にも他人にも、それなりに厳しい人間だったと思う。
ただ、今は変わろうとしているし、ある程度は「自分に甘くなった」気がする。これは怠惰とは少し違う。意識的に、自分を許し、自分をいたわることを、少しずつ学んできた——という話をしたい。
時間軸で考える
「自分に甘くなる」と言っても、何から始めれば良いかわからない人は多いと思う。
私が役に立ったのは、時間軸を分けて考えることだった。過去の自分、今の自分、未来の自分——それぞれに対して、少しずつ甘くなる。
過去の自分を、抱きしめる
過去の自分に対して厳しい人は多い。
「あのときこうしていれば」「なぜあんな選択をしたのか」。過去の失敗や後悔を、何度も掘り返してしまう。
しかし今の自分から見れば、あのときの自分はいかに必死だったか。もがいていた。転んでいた。それでも何とか、翌日も立ち上がっていた。
責めるより先に、そのことに気づいてあげてほしい。
私はまだ、完全にはできていない。大昔の幼過ぎた自分を抱きしめてあげられるかといえば、まだそこまでではない。でも、「そうか、あのとき大変だったんだな」と、少し距離を置いて見られるようにはなってきた。
それで十分だと思っている。一気に抱きしめなくていい。少しずつ、近づいていけばいい。
今の自分を、いたわる
以前の私は、できなかった日を責めていた。つまり、ほぼ毎日自分を責めていた。
今は違う。うまくいかない日があって当然だと思えるようになった。「それでいい」と、自分に言えるようになった。これは諦めではない。今の自分を出発点として受け入れることで、初めて次の一歩が踏み出せると、経験から思っている。
過去と未来の自分へは、精神的に関わることができる。今の自分には、物質的・身体的にも関わることができる。むしろそちらの方が、すぐに始められる。
朝日を浴びる。好きな音楽を聴く。手触りの良いものに触れる。好きな香りを嗅ぐ。甘いものを食べる。興味を惹かれる映画や漫画、アニメをみる。よく寝る。五感を通じて、今の自分をいたわる時間を意識的に作る。
「目標達成」とは無関係なことに、時間を使う。それ自体に意味がある。
効率や生産性とは関係のない時間を持つことが、自分を甘やかすことの入口になると思っている。難しく考えなくていい。今日、自分が少し喜ぶことを一つだけやってみる——それだけでいい。
これが、今の自分をいたわるということだと思っている。
未来の自分へ、贈り物を
未来は、今の積み重ねだ。
いま私たちが行っていること、感じていること、選んでいること——それがそのまま、未来の自分への贈り物になる。変えるべきは、遠い将来ではなく「今」だと思っている。いまの幸福が、将来の贈り物となる。
目的達成型の思考を、一度脇に置いてみる。「〇〇を達成したい」「〇〇にならなければ」という思考は、裏返すと「今の自分はまだ足りない」という前提を含んでいる。それが積み重なると、今この瞬間が常に「通過点」になってしまう。今を丁寧に生きること——それ自体が、未来の自分への贈り物になる。だから、先を急がなくていい。
それが、未来の自分を信頼するということだと、今は思っている。
私はどう変わったか
変化は、一度に訪れたわけではない。
時間がかかった。中村天風先生やウィリアム・グラッサー先生の言葉との出会い、ジャーナリングを通じた内省、そして他者との関係性——それらが少しずつ、私の中の何かを変えていった。
今は、昨日より今日、以前より今、少しずつ成長しているという事実だけで、小さな達成感を得られるようになった。習慣を育て、複利のように積み重ねていく。その過程そのものに満足できるようになった。
少なくとも今の私は、昔とは比べるまでもなく、自分に「甘々」だと感じている。
おわりに
自分を抱きしめるとは、過去を許し、今をいたわり、未来を信頼することだと、今は思っている。
すぐには変われない。それは私自身がよく知っている。
ただ、きっかけと時間、そして小さな継続が、人を変えていく。
この記事が、そのきっかけの一つになれば幸いだ。
自分を後回しにしてきた人へ。今日だけでいい。自分のために、何か一つだけやってみてほしい。
医師として。そして、自分に甘くなることを学んでいる一人の人間として。
