WHO東京事務所開設──なぜ多くの日本人は不安を感じるのか
WHOが東京事務所を開設し、「世界中のすべての人が保健医療サービスを受けることができる『ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)』の実現に向け、日本との連携を加速させる」というニュースが報じられた。
しかし、SNSなどを見ると歓迎の声よりも、警戒や拒否感を示す意見が目立つ。
この反応を「国際協力に反対する人が多い」という理由だけで片付けるのは、少し違うように思う。
多くの人が感じているのは、「説明不足」に対する不信感なのではないだろうか。
「なぜ今なのか」が見えない
まず最初に浮かぶ疑問は、単純だ。
なぜ、今なのか。
アメリカはWHOとの距離を置く姿勢を示し、資金面でも大きな変化が起きている。
その一方で、日本では新たにWHO東京事務所が設置され、「日本との連携を加速する」と発表された。
このタイミングを見れば、
「アメリカが担っていた役割の一部を日本に期待しているのではないか。」
と考える人がいても不思議ではない。
もちろん、現時点でそのような公式説明があるわけではない。
しかし、なぜ今なのかについて十分な説明がないことが、人々に推測を生ませている。
「日本との連携」とは何を意味するのか
記事には、
「日本との連携を加速させる」
とある。
しかし、その「連携」とは何を指すのだろう。
人材育成なのか
研究協力なのか
財政支援なのか
日本企業との連携なのか
具体的な内容はほとんど見えてこない。
さらに、
「世界中のすべての人が保健医療サービスを受けられるようにする」
という理念だけが前面に出ている。
日本では現在、
社会保険料の上昇
医療財政への不安
地域医療の維持
現役世代の負担増
といった課題が山積している。
その状況で「世界中」という言葉を見れば、
「まず国内ではないのか。」
という反応になるのは自然だろう。
日本は何を得るのか
国際協力そのものを否定する必要はない。
しかし、国家が行う以上、
日本にはどのようなメリットがあるのか。
という説明は必要だ。
例えば、
日本の医療技術の国際展開
製薬・医療機器産業へのメリット
外交上の利益
感染症対策の強化
こうした具体的な利益が示されれば、受け止め方も変わる。
しかし今回の記事では、
「世界のため」
という理念が中心で、
「日本にとって何が得られるのか」
という説明がほとんど見当たらない。
WHOへの信頼という問題
もう一つ無視できないのが、WHOそのものへの評価だ。
新型コロナ対応では、
初動対応
情報発信
中国との関係
組織運営
などを巡り、世界各国から厳しい批判を受けた。
テドロス事務局長の辞任を求めるオンライン署名運動まで起きたことは、多くの人の記憶に残っている。
もちろん、WHOには感染症対策などで重要な役割もある。
しかし少なくとも、コロナ以前のように「WHOだから安心」と受け止める空気ではなくなったことも事実だろう。
そのため、
「まず組織改革や信頼回復が先ではないのか。」
という疑問が生まれる。
一番足りないもの
今回のニュースで一番不足しているのは、理念ではない。
説明である。
例えば、
なぜ日本なのか。
なぜ今なのか。
日本は何を負担するのか。
日本は何を得るのか。
事務所はどのような役割を担うのか。
運営費は誰が負担するのか。
こうした情報がほとんど示されていない。
だから、人々は過去の経験や現在の状況をもとに推測する。
アメリカがWHOから距離を置いた。
WHOは資金面で厳しいと言われている。
日本は協力を強める。
「世界中の人々のため」という理念が語られる。
これらが重なると、
「日本が新たな負担を期待されているのではないか。」
という見方が生まれるのも理解できる。
不信感は一日では生まれない
今回のニュースへの反応は、WHOだけに向けられたものではない。
政府が近年進めてきたさまざまな政策で、
「理念は語られるが、具体的な説明が後回しになる。」
という印象を持った人が少なくない。
その積み重ねがあるからこそ、
「また説明がない。」
という反応になる。
信頼は、「説明しなくても信じてもらえる」ことで成り立つものではない。
むしろ、不安や疑問が生まれる政策ほど、
なぜ必要なのか。
誰が何を負担するのか。
日本にどのような利益があるのか。
こうした点を具体的に説明し、国民の理解を得る努力が求められる。
今回、多くの人が感じている違和感は、「国際協力」そのものへの拒否ではなく、説明のないまま物事が進んでいくことへの警戒感なのではないだろうか。
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