子どもと家族に寄り添い、地域を支える医療へ
小児科医・向江先生インタビュー
「小児科って、ただ診て治すだけじゃない。子どもを想う親御さんの気持ちと、医療がまっすぐにつながる、そんな場所なんです」
温かな口調でそう話してくれたのは、当クリニックで小児科を担当する向江先生。
その言葉の背景には、ご自身の医師としての経験はもちろん、家族との別れ、父親としての目線、そして地域の医療の現場に向き合い続ける中で育まれた、深い想いがありました。
「治せたらよかった」──原点は、家族の死と向き合った中学時代
小児科医を志す前、そもそも向江先生が医師の道を選んだのは、中学生のときに祖母を癌で亡くしたことがきっかけだったそうです。
「中学1年のときに祖母が癌で亡くなって、どうして治せないんだろうって子どもながらに思ったんです。それが最初の“医療”への興味でした」
高校時代には、今度はお父様が癌で他界。「今度は父親を救えなかった」という無力感が、逆に医師を目指す覚悟へと変わっていったといいます。
小児科との出会い──“ただ診る”だけじゃない、寄り添う診療の実感
医学部では外科志望だった向江先生。しかし、実習や研修を経て、現場での厳しさと自分の適性を見つめ直し、最終的には内科の道へ。
その後、初期研修で赴任した三島の病院で、当直中に急病の子どもを診察する場面がありました。
内科しか対応していなかった病院で、子どもを診る不安と向き合いながら、「小児科も診られたほうが、地域のためにも自分のためにもなる」と感じたのが、小児科との出会いだったそうです。
「実際に小児科で研修を受けてみたら、すごくおもしろかった。治療に対して親御さんが真剣で、“治療が届く”っていう実感があるんです。子どもは回復も早いし、元気になった姿を一緒に喜べる。それが何よりのやりがいでした」
父親の目線で見つめる「親の不安」と医療の役割
向江先生自身もお子さんを育てるお父さん。
だからこそ、保護者としての視点と、医師としての視点、その両方を持ちながら診療に向き合っています。
「初めての子育てって、不安だらけなんですよね。発熱ひとつとっても、どう判断していいか分からない。自分もそうだったからこそ、親御さんが不安になる気持ちはよく分かります」
だからこそ先生は、症状の軽重にかかわらず、「安心して相談できる場所」であることをクリニックに求めています。
「“大丈夫ですよ”って、根拠を持って伝えること。それが一番の医療になることもあるんです」
医療と地域をつなぐ“翻訳者”として
向江先生が地域医療の現場で感じているのは、「医療だけでは解決できない課題の多さ」です。
たとえば保育園や学校から「とりあえず病院へ」「検査してきて」と言われるケース。
「その子にとって本当に必要かどうかを考えずに、とにかく病院へ、検査へ、と促されることがある。結果として、親御さんが不安になり、不要な医療行為につながることもあります」
こうした“過剰な受診”は、地域医療リソースを限界に近づけるだけでなく、保護者の心身の負担にもつながります。
先生は、医療と教育・保育の現場をつなぐ“翻訳者”としての役割も大切にしています。
「保育園や行政の先生たちや管理者の方にも、もっと医療的な基礎知識や判断軸を持ってもらえたら、お互いにとって良い環境になると思います」
時代とともに変わる診察のかたち
テクノロジーの進化も、日々の診療に大きな変化をもたらしています。
「最近は、お子さんの便や湿疹をスマホで撮影して持ってきてくださる親御さんが増えました。リアルタイムで見られなくても、写真があるだけで判断がぐっとしやすくなるんです」
デジタル問診やオンライン相談など、新しい手段を取り入れることも、患者さんの安心感につながっています。
「困っている人に、次の一歩を示す」それがクリニックの役割
診療を通して、向江先生がいま特に必要だと感じているのは、「発達の悩み」や「心の問題」にどう対応するかという視点です。
「たとえば『言葉が遅い』『落ち着きがない』といった相談は増えています。でも、それに対応できる専門機関が限られていて、どこに行ったらいいか分からない。相談先が曖昧なままだと、親御さんも不安ですし、医療としても対応が難しい」
そのため先生は、通常の診療とは別に**“相談の時間”や“発達外来的な枠”**をつくることで、子育ての悩みに丁寧に向き合える体制を作ることはできないか?とも考えています。
「全部をうちで抱え込むことはできません。でも、どこと連携すればいいか、どんなステップを踏めばいいかを示せる存在ではありたい。クリニックの役割は、そこだと思うんです」
最後に──目の前の一人に、誠実に
「僕にしかできない特別な医療があるとは思っていません。でも、“その人にとっての最適解”を一緒に探すこと、それが医療だと思っています」
向江先生の診療スタイルは、決して派手ではありません。
でも、話を聞き、必要な検査・治療・紹介の判断を丁寧に重ねていくその姿勢こそ、親御さんたちにとっての「安心」そのものです。
地域の中で、子どもたちの健やかな育ちと、家族の笑顔を支えるために。
今日も向江先生は、診察室でそっと話に耳を傾けています。
医療機関:森本耳鼻咽喉科・小児科
静岡県袋井市上山梨1-8-6
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