心霊食堂 旅立ちは 思い出の味で 第24話
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第3章 さよならの、オムライス
8 見つかった女性
「早速だけど、本題に入るわね」
夕子はA4サイズの茶色い封筒をテーブルに置き、一樹の前にすっと差し出した。
一樹はその封筒を手にとり中を確かめる。
八尋も軽く首を伸ばして封筒の中に何が入っているのか覗きこんだ。
数枚の紙が入っていた。
その紙に女性の名前と、店名のようなものが書かれている。
「一樹が探している女性だけれど、名前は東山香奈。現在は新宿のキャバクラで働いているわ。お店の名前はそこに書いてある通りよ。ご主人と幼い子どもが一人いるようね。でも、自分のことをあまり喋らないらしいの。けれど、彼女の同僚の女の子から聞いた話によると、時々身体中に痣をつくって出勤してくるらしいわ」
「そうですか」
一樹はため息をつく。
「この人、この間お店に来た女性ですよね?」
「これからこの人のところへ行こうと思いますが、八尋くんも来てくれますか?」
「もちろんです!」
八尋はぐっと手を握り、力一杯答えた。
ついてくるなと言われても、ついていくつもりだ。
一樹は立ち上がった。
「ありがとうございます。お忙しいにもかかわらず、私の頼みを聞いてくださって助かりました」
「ふふ、困った時はお互い様よ。むしろ私を頼ってくれて嬉しかったわ。それに、それほど時間をかけずに探せたから気にしないで」
一樹は深く頭を下げた。つられて八尋もぺこりと頭を下げる。
「夕子さんならもしかしたらと思ったのですが、こんなにも早く見つけてくださるとはさすがです」
八尋はなるほど、と頷く。
この世界で働く夕子なら当然、顔も広いし人脈もある。他の店をあたってみれば、同じ世界で働く香奈という人物を見つけだすことも可能だ。
「申し訳ございません。今日はこれで失礼いたします。お礼は改めて後日させてください」
「お礼なんていいわよ。一樹のお願いですもの。でもそうねえ。どうしてもお礼をしていただけるなら、また一樹の料理を食べたいわ」
「そんなことでしたらお安いご用です。いつでもいらしてください」
店の入り口まで夕子に見送られ、一樹と八尋はもう一度頭を下げ礼を言う。
「彼女、娘さんと再会できるといいわね」
余計なことはいっさい口にせず、一樹はそうですね、とだけ答えた。その横で八尋は沈んだ顔で口をつぐむ。
「八尋くんも」
突然、夕子に話を振られて八尋はびくっと肩を跳ね上げた。
「早く見つかるといいわね」
「え? はい! 頑張って早く次の仕事を見つけたいです。それから住む家も!」
夕子はふふふ、口元に手を当て笑った。
「一樹、とても素直な子ね」
「ええ、彼のおかげでとても助かっています」
夕子の言葉に一樹も笑った。
いえ、助かっているのは僕の方なんです。
何から何まで一樹さんにお世話になりっぱなしで、一樹さんがいなかったら僕は雪の降る寒空の下で行き倒れていたかもしれないのだから。
それにしても、一樹さんがこんな高級クラブのママと知り合いとは驚いた。本当に一樹さんは何者なんだろう。
実は昔、夜の町でホストとして働いていたとか? うん、あり得るぞ。
一樹の容姿なら、女性客がひっきりなしにやってきたに違いない。しかし、八尋はうーんと心の中で唸って首を傾げる。
でも、一樹さんはホストっていう雰囲気とは違うんだよな。
「どうしました?」
「いいえ。教えてもらった店に行くんですか?」
「早く二人を再会させてあげたいですからね」
再会とはいっても、娘である美優もすでにこの世にいない。
香奈にとっては残酷な運命を突きつけられることになる。
それが耐えられるか。
だが、いつまでも事実を知らないままでは、あまりにも気の毒だ。それに、いつかは知らなければならない現実でもある。
「それに美優ちゃんも、あの世へ行けず、現世に止まったままではかわいそうですから」
「はい……」
美優は自分の死を素直に受け止められるだろうか。
以前一樹が言ったように、いきなり、あなたは死んでいると言われて納得するのは難しい。
自分が同じ立場なら、なかなか受け入れることはできないと思う。
浮かない顔をする八尋の肩に一樹の手が置かれた。
「八尋くんはやはり行くのはやめておきますか?」
「え?」
「確かに香奈さんにとっても、美優ちゃんにとっても、辛い現実を突きつけてしまうことになるのだから、それを見るのは辛いでしょう。私だけで行ってきますよ」
八尋は首を振った。「大丈夫です。僕だって関わっているのだから、見届けたいです」
一樹は笑って八尋の頭にぽんと手を置いた。
ー 第25話に続くー
