心霊食堂 旅立ちは 思い出の味で 第25話
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第3章 さよならの、オムライス
9 美優ちゃんを迎えに
店を出たその足で、二人は香奈が働く新宿のキャバクラへ向かった。
そろそろ開店時間ということもあってか、女の子たちが次々と店に入って行く。一樹は出勤してきた女性の一人を呼び止めた。
「すみません」
いきなり声をかけられたことに不審に思ったのだろうその女性は、手にしていたスマホから面倒くさそうに視線を上げた。
「なに?」
つっけんどんな態度と口調で、眉根を寄せ一樹を見上げた女性だが、その目が大きく見開かれた。おまけに口をぽかんと開けている。
一樹の顔を見た途端、女性はころりと態度を変えた。
「え? やだ、ちょーイケメン!」
一樹は首を傾げ、にこりと人好きのする微笑みを浮かべる。その色男っぷりに女性は頬を赤らめる。
やはりイケメンは得だ。
「はい、なんでしょう?」
先程とはうって変わって、女性も極上スマイルで答えてきた。
「東山香奈さんって方はこのお店で働いていらっしゃいますか?」
「香奈? あ、ええ、いますけどぉ」
「申し訳ないのですが、香奈さんを呼んでいただけないでしょうか」
「香奈を? あなた香奈の何?」
「私は小料理屋『想』の九重一樹です」
「『想』の九重さんね。今呼んできまーす。ねえ、お店に寄って行かないの?」
「申し訳ございません」
一樹は心底申し訳なさそうに、眉を八の字にして丁寧にお断りをする。
「うーん、残念。あなたみたいないい男と一緒に過ごしたかったのに」
「是非、今度寄らせていただきます」
「うふふ、約束よ」
と、言って女性は名刺を手渡してきた。店に入っていった女性と入れ替わりに、東山香奈がやってきた。
八尋はよし! と手を握りしめる。
間違いなく、この間店にやってきた女性だ。
やはり、今日も疲れた顔をしていた。
荒れた肌にファンデーションをのせているせいで、肌に馴染まずファンデが粉っぽく浮き上がっている。唇もかさかさで艶がない。
現れた女性香奈は、訊ねてきた相手が、以前立ち寄った小料理屋の店主だということにすぐに気づいたようだ。
そりゃ、一樹さんみたいないい男、一度見たら忘れられないだろう。
「どうしてここに?」
驚きに香奈は目を丸くする。
「すみません。調べさせていただきました」
「香奈さんのことが心配だったんです!」
調べたと言うとまるでストーカーのようで、怪しまれるのではと思い、八尋は慌てて付け加えた。
「私のことを心配して、わざわざ訪ねて来てくださったんですか?」
思いもよらない一樹の言葉に、香奈の目に涙がにじむ。
「香奈さん、行きましょう」
え? という顔で香奈は一樹を見上げた。
「美優ちゃんを迎えに行きましょう」
「どうして娘の名前を知っているのですか?」
なぜ知っているのかと不思議に思うのは当然である。香奈は娘の名前を一樹には一言も言わなかったのだから。
八尋はくいっと一樹の袖を引いた。
つま先立ちになって、背の高い一樹の耳元に唇を近づけ声をひそめて言う。
「でも、一樹さん、美優ちゃんは」
美優はすでに亡くなっている現実を香奈は知ることになる。
いずれは知ることになるにしても、その瞬間を考えると胸が痛い。だから、美優が亡くなっていることをまず初めに伝えるべきでは? と言おうとしたが、八尋は出かかった言葉を飲み込んだ。
そんなことは自分が言わなくても、一樹なら分かっているはず。
一樹には一樹の考えがあるのだ。そのやり方に自分が口を挟むのは余計なことだと思った。
「美優ちゃんが私の元に来たのです」
「え?」
「あなたに会いたがっています。だから、行きましょう」
しばし、香奈は不安そうな顔で一樹を見つめた。けれど、真剣な顔でそう言う一樹が、決してふざけているわけではないということが、分かったようだ。
香奈はそれ以上のことは問うこともなく、はいと答えて頷いた。
ー 第26話に続くー
