『恋のバス停』と、ウォークマンの音色 ※空想地名祭
バスがゆるやかに坂道を上る。窓の外には、『なないろ町』の桜並木が過ぎて行く。
芹香はワンピースのすそを整えながら、ひざ元に猫のぬいぐるみを座らせると、首もとにかけたウォークマンのヘッドフォンをそっと耳に着けた。
『恋のバス停』という曲が流れている。
♪ ♪ ♬ ♪ 今日も会えたね ハッピー (はっぴ~♪)…
そのメロディは、学生時代の淡い恋をそっと引き寄せた。
通学の途中、毎朝同じバス停で並んでいたあの人。話すことはなかったけれど、桜の花びらが肩に落ちたとき、お互い照れくさそうに微笑んだ。それだけで、十分だった。
トムトムが芹香の膝の上で、耳をぴこぴこさせながら言う。
「セリカ、きゅんってしてるでしょ。あの日の思い出に、ちょっと魔法をかけよかニャ?」
やがて、バスが停まり『恋のバス停』の標識がゆっくり視界に入る。
今、聞いていた曲と同じなまえのバス停だ。
降りた瞬間、懐かしい香りが鼻をくすぐった。
ふと見ると、ベンチには一冊の古いノートが置かれていた。芹香が開くと、旅人たちが書き残した「恋の足あと」が並んでいた。
「待ち続けた彼女は来なかったけど、……ここで笑った僕の気持ちはほんものだった!!」
「ふたりで撮った写真は風に飛ばされた。でも、帰り道ずっと手を握ってた」
芹香は自分のページを開くと、そっとペンを取った。
「あの人のとなりじゃなくても、恋の記憶は、ずっと宝物になる」
風がやさしくページをめくると、バス停の標識に、虹色のリボンがふわりと結ばれていた。
それは誰かの忘れ物か、トムトムの魔法か。
芹香は、微笑みながらバス停をあとにした。
「ふんふんふふんふ ふんふふん~。この曲、何気に鼻歌のところ好き、すっと感情移入しちゃて自分も鼻歌うたってる。はっぴー、はっぴ~♪もいいね」
「わかるわかる、このサビのとこ……耳に残ってついつい口ずさみたくなるニャ。にゃぴーにゃぴー♪」
遠ざかるバスの中、ウォークマンから流れる曲の最後のフレーズがやさしく響く。♪♪♪♬ また バスが動きだすわ 恋も動き続ける ~ ~♪

この話の、前編はこちらです ↓
※ 文章中に出てくる歌詞は、『恋のバス停』より引用させて頂きました。
作詞 ソラノイロ様、作曲 くえす様。
ハッピーな気持ちになれる素敵な曲です。歌い手の羽根宮様のお声も、すっごくかわいい~。おすすめです ↓
