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大人になったので、今日は「どっちも」を選んだ

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大人になったので、今日は「どっちも」を選んだ

鉄板が運ばれてきたとき
さきに届いたのは音だった。

じゅうじゅう。
じゅうじゅう、と。

茶色い紙のガードにぐるりと囲まれ
肝心の中身はまだ見えない。

それなのに、音だけがさきにごちそうを始めている。
期待ばかりが、ふくらんでいく。

物語みたいだ、と思った。
姿を見せるまえに、気配だけで心をつかむ。

書き手としては
少し悔しくなるほど、見事な「つかみ」だった。

そっと紙を外す。

湯気の向こうから現れたのは
デミグラスソースの海で
ぐつぐつと泡を立てるふたつのハンバーグ。

その隣には、もやしの上に並んだ牛タンと
こんもり盛られたねぎ塩の山。

⁠熱と、じゅうじゅうという音も一緒に届けたい……!⁠


ハンバーグか。
それとも、牛タンか。

わたしは、選ばなかった。

「どっちも」にした。

このところ、うれしい知らせと
急いで返したい言葉が、同じ速さで積み重なっていた。

何かを選ぶたび、別の何かを後回しにする
そんな毎日。

だから、せめて今夜くらいは
どちらも諦めないことにした。

大人になってよかったことのひとつは
こうして迷いなく
「どっちも」と言えるようになったことだ。

がんばった日くらい、少し欲張ってもいい。

ナイフを入れると
ハンバーグから肉汁がじゅわりとあふれた。

ねぎ塩をたっぷりまとわせた牛タンは
噛むほどにうまみが広がり、思わずふっと目を閉じる。

にんじんも。
じゃがいもも。
ブロッコリーも。

鉄板の上では、いつもの野菜まで
ちゃんとごちそうの顔をしていた。

夏の夕べに、あつあつを、はふはふと食べる。
額にうっすら汗をにじませながら
味わうのも、悪くない。

目の前で湯気を上げる鉄板は
ちいさな灯りのようだった。

じゅうじゅうという音は
灯りのはぜる音に、どこか似ている。

今日を終えるための灯り。
もう一度、言葉の前に座るための灯り。

おなかも心も、すっかり満たされた。
今夜もまた、机に向かう。

鉄板でもらった、ちいさな熱を、こんどは言葉に。
みーくんには、ないしょのごちそうだった🌙

本物のみーくん♪

雪綴ゆき


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