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夏の夜の、三十秒

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夏の夜の、三十秒

蝉の声が、いつのまにか止んでいた。

にぎやかな日々が、ひと区切りついた夜。

浴衣を着る予定なんて、ほんとうはなかった。
たんすの奥から朝顔柄が出てきて……
なんとなく、袖を通してみたくなって。

縁側にしゃがんで、線香花火に火をつける。

庭の隅には、咲きのこりの紫陽花。
提灯の灯りをすこしだけ受けて、青くにじんでいる。

線香花火には、四つの名前があるらしい。

ぷっくりとふくらむ、蕾。
はじけるように咲く、牡丹。
細い光が四方へ散る、松葉。
力尽きるみたいに垂れていく、散り菊。

咲いて、散るまで。
たったの三十秒くらい。

手がふるえたら、落ちてしまう。
だから息をひそめて、そっと持つ。

なんだか、書くことに似ている。

灯した火を、急かさない。
落としてしまわないように、ただ、そっと。

最後まで咲いた一本も、
火をつけたそばから落ちた一本もあった。

それでも、袋のなかには
まだ何本か、残っている。

雪綴ゆき


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