謎めいた人への手紙【短編小説】 #片想い文芸部
どうせ返事なんか来るわけがない。
なんて分かってるのに。
あの人に手紙を出した。
「元気ですか?」って。
同じゼミの先輩だったあの人は、常に謎めいた人だった。
スマートフォンも持たず、服はよれよれのTシャツと洗いざらしのジーンズ。
あちこち擦り切れたリュックを背負ってフラッとゼミに現れ、みんなの発表を隅っこの席でニコニコしながら聞いていた。
飲み会には、誰がどう誘おうと「お酒が飲めないから」と断っていた。
ちゃんとお話するチャンスなんて一度もないまま、彼は卒業し、海外へ旅立った。
はずなのに。
ゼミの教授によると、彼は早々と帰国し、今は実家に戻ってるとか。
卒業式にも出席せず海外へ向かったと聞いたのに、それからまだ1か月も経っていない。
3年生になってゼミ長に就任した私は、興味本位と挨拶を兼ね、彼に手紙を書いた。
教授から彼の住所を教えてもらい、その旨も明記した上で。
以来、1か月が経過して、手紙は返送されてない。
だから、たぶん届いてるんだろう。
でも、返事は一向にない。
念のため、私のメールアドレスと携帯電話の番号も書いて送ったのに。
ちょっとの下心もあるってことが、バレてしまったんだろうか。
彼から警戒されてしまったのかもしれない。
もしかしたら、嫌われたのかも。
教授に相談したら、ゲラゲラと大声で笑われた。
「あいつは元々そういう奴だ。誰とも親密になりたがらないから放っておけ」
って、励まされたけど。
ちょっとさみしいことに変わりはない。
恋心とまではいかないけど。
あなたのことが気になってます。一度、ちゃんとお話をしてみたいです。
なんて、直球で書く勇気もなかったけど。
いつまで私は、彼を心のどこかで気にかけ続けるんだろう。
すべてが謎に満ちていたからこそ、彼の存在を忘れることができないのかもしれない。
本当は返事が欲しいけど。
彼がどこかで元気でいるなら、それでいい。
便りがないのは良い便り、ってどこかで聞いたっけ。
どうか、笑顔でありますように。幸せでありますように。
どこまでも捉えどころのなかった彼の姿を思い浮かべ、私は祈る。
ナルさんの「片想い文芸部」への参加作品です。
今回のテーマは「花びら」もしくは「片便り」(=手紙を出しても返事が返ってこないこと)です。
そして今回も、あえて「片便り」をテーマに書きました。
ちなみに当作品は、以前に書いた作品の続編です。
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