謎めいたサンタクロース【短編小説】追記あり
前から気になっていた、ゼミの先輩。
自分の卒業式の直前で海外へ飛び立ち、一か月も経たずに帰ってきたという、謎めいた人。
スマートフォンもパソコンも持たない彼に、思いきって手紙を出したのに。
全く返事が来ないまま、夏が過ぎ、秋も過ぎ。
クリスマスイブがやってきた。
毎年、私のゼミではこの日、教授室に3年生が集められ、ささやかなクリスマスパーティが開かれる。
なぜ3年生だけかというと、これから就職活動や卒業論文で忙しくなる前の壮行会を兼ねているから、らしい。あと、単純に教授室の広さと教授のポケットマネーの事情によるんだと思うけど。
午後3時すぎ、教授室に招かれたゼミ長の私と、同期の女子2人、男子1人。
大きな丸テーブルの上には、教授が用意してくれた様々なお菓子が紙皿の上に並んでいる。
ポップコーン、ポテトチップス、ブロックチョコレート、おせんべい、クッキー……
私たちはそれぞれ、紙コップに自分の飲みたい飲み物を注ぎ、席に着いた教授にもウーロン茶をお渡しし、ささやかに乾杯。
家ではお菓子を禁止されているという教授が、ここぞとばかりにあれこれとお菓子を食べるのが可愛らしい。体型からすれば、そりゃご家族に心配されるのは分かるけど。
私も一応ゼミ長として、適当に教授や他の3人に話を振りつつ、お菓子をありがたく頂く。他のみんなはもしかしたら、このあと恋人と会う約束でもあるのかもしれない。女子2人はいつもより化粧やネイルが決まってるし、男子1人も普段見たことが無いオシャレなシャツを着ている。
私はアルバイトに行く。バイト先の居酒屋はいつも以上に忙しいに違いない。あーもう嫌だな。
なんてボーッとしながら、キャラメルポップコーンをかじっていたとき。
ゼミ室のドアをノックする音がして、ドアが開いた。
そこに現れた顔を見て、急に私の心臓はドクドクと波を打ち始めた。
あの、謎めいた先輩。
「やっぱりやってた!クリスマスパーティ!」
ニコニコしながら彼は、丸テーブルの空いた席に遠慮なく座る。
相変わらずだ。取っ手の片方が外れているボロボロのリュック。ダウンコートを着ているけれど、年季が入っているのが一目でわかる。
「またアポなしか。ビックリさせるなぁ」
教授が一口、お茶を飲んでからぼやく。
「パーティやってんだろうなって、来ちゃいました」
彼は全く悪びれもせず答える。
すると、彼は急にキョロキョロして「今のゼミ長って誰?」と尋ねた。
「あ、私ですけど」
手を挙げると、彼はまっすぐな目で私を見た。
「手紙くれたよね?」
「手紙?」
女子のひとりが、私に尋ねる。
「ゼミ長になったとき、ご挨拶のお手紙を送ったの。そのことですよね?」
彼に尋ねる。
「うん。たぶん、それ。ありがとう、嬉しかったよ」
え?
彼の言葉が、あまりに不意打ちで反応できなかった。
「返事しようにも、俺、パソコンもスマホも持ってないからさ。いつか会ったらお礼を言おうと思ってたんだ」
彼はニコニコの笑顔を私に向ける。
だったら、アナログの手紙でも良かったんだけどな。
もうひとりの女子が彼にウーロン茶を渡し、彼はゴクゴクと飲んでいく。そして、目の前にあるお菓子を次々とつまんでいく。
「お前、今、何やってんだ?仕事とかしてんのか?」
教授の質問に、彼は「まぁいろいろ」と答える。
具体的には何をやってるのか分かりづらい回答だなぁ。
「俺、そろそろ行きます」
彼はウーロン茶をグイっと飲み干すと、一気に立ち上がった。
「もう行くのか?」
教授の質問に、彼はうなずいた。
「俺は回遊魚だから、動いてないと落ち着かないんですよ」
そう言い放った後、彼は真顔になった。
「みんな、これから就活とか卒論とか、頑張ってね」
私たち3年生全員に言ってるはずなのに、なんだか嬉しかった。
「俺みたいにならない方がいいよ、なんちゃって」
なんておどけて、さっさと教授室から去っていった。
彼が手紙を受け取ってくれたこと、「ありがとう」と言ってくれたこと。
それだけで、なんだかすごく嬉しくて。
これから待ち構えている就職活動も、論文の執筆も、やってみなきゃ分かんないけど、頑張れる気がした。
また、逢えたらいいな。
謎めいたサンタクロースに。
灯火さん主催、「灯火杯5th Re:クリスマス」への参加作品です。
ご自身の過去作品からの続編、スピンオフ作品などでご参加いただけるとメチャメチャうれしいです。
というわけで、過去に発表した短編小説の続編を、季節テーマ「クリスマス」、共通テーマ「エール」と掛け合わせて書きました(もとになっている小説はこちら👇)。
【追記】2025.12.22
ナルさんの企画「片想い文芸部」にも参加します!
(灯火さんには「他の企画と重複応募OK」と確認済みです)
期間限定とはいえども復活してくださって嬉しい!
お題:「聖夜(クリスマス)」で始まる(もしくは終わる)片想いに特化した恋愛小説・エッセイなど。詩・短歌なども歓迎。
あ、当小説ってクリスマスイブのお話かつ、以前に「片想い文芸部」に投稿した作品の続編だけど。
「聖夜(クリスマス)」で始まっても終わってもなかった!
うーん、えっと、まぁ2段落目の冒頭が「クリスマスイブ」なので、それでもお許しいただければ幸いです。
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