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【下書き再生工場】 出口入り口、開いて扉

向こうから男が手をあげて近付いてくる。50歳くらいだろうか。白髪混じりのツーブロックに、太めの黒縁眼鏡。12月だというのにコートは着ていない。鮮やかな青地に白いストライプの入ったスーツ姿で、肌は程よく日焼けしている。清潔感はあるのに生理的に受け付けないのは、この若作りのせいだろう。

男と目が合った。周りには自分しかいない。ということは、今日の客はあの男に違いない。

(ハズレ)

心の中で舌打ちする。そんな気持ちとは裏腹に満面の営業スマイルで男を出迎える。

「寒いね」

「俺、手があったかいってよく言われるんだよ」

強引に手を繋がれて、思わず振り払いたい衝動と戦う。男は私の髪の毛から膝の辺りまでを舐めるように見ている。

(はぁ……ほんと大ハズレだ)

客はだいたい2パターンに分かれる。恥ずかしがってこちらを見ないタイプと、この男のように商品を値踏みするかのように見てくるタイプ。

同業者の中にはあからさまに派手で露出の高い服を着ている子もいるけど、私は違う。今だって全身黒のワンピースにしっかりコートを羽織っている。短いスカートでこの視線には耐えられない。

「確かにあったかいね」

「だろ?  でも風邪ひくと良くないから早く行こう」

男は近くのコンビニで買ってきた酒やつまみの入った白いビニール袋をカシャカシャいわせながら、つまらない仕事の自慢話をしているようだ。適当に頷いたり、そうなんだーとか相槌をうってやり過ごす。歩いてものの数分でホテルに着いた。

南国リゾートがテーマのホテルには、それっぽい葉のやたら大きな植物が植えられ、なにも出ていない噴水の周りには澱んだ水溜まりができている。ここに訪れる客の中で、この安っぽい演出を好むものはどれだけいるのだろうか。イミテーション──不意にそんなワードが頭に浮かび、まるで私にぴったりじゃないか、なんて笑えてくる。その間も男は何か一生懸命に私に話しかけ、少しでも自分を大きく見せようと必死だ。この男もまさにイミテーション。なるほどね。確かにこれで、ちゃんと素敵なホテルだと入りたくなくなるものね。そう考えると、隣に並ぶ壁がピンクのホテルも、向こうに見えるミラーボールみたいなホテルもちゃぁんと意味があるのだと分かった。

「君みたいな綺麗な子で俺はラッキーだよ」

(はい。そのセリフもう100人以上聞いてるから)

辟易としながら、「やっぱり見た目が大事なのね」と私が返すと、一瞬狼狽えた様子の男は、「ごめん。君があまりに綺麗だから口が滑った」と、調子がいい。

ちょうどそのタイミングで、ホテルのエントランスから1組の男女が出てきた。
冷めた様子の女と、ひどく馴れ馴れしい感じの男。一目で自分と同じシチュエーションだと分かる。

ホテルの入口では、まだ味わっていないフルーツを前に期待感と食らいつきたい欲望を見せてくる男たち。

一転して、出口では、まるでおれの物になったとでも言うかのように満足気で、その所有欲を満たされた男たち。

私はどちらの男も嫌いだ。だのに、毎日こうして決まった入口から入って、出口を通り抜ける。

これまで数え切れないくらいの男とこの扉をくぐってきた。その度に自分の身が少しずつ削られていく。手に入れた幾ばくかの金と引替えに、確かに失っていく何か。もはやそれが何だったのかも分からないくらいに私の中身は澱んでいる。

噴水の横にいる、作り物の天使が微笑んでいる。

あぁ、どうか。

この終わりなきループから抜け出せる扉が現れますように。

そんなことを思いながらも、また今日も嫌いな男に身を削られていく。






久しぶりの工員としての仕事です。
路地裏回収期間に間に合わせたくて急いで書きました🥹


今回は、亜麻布みゆさんからのお題を選びました。


⇒間違ってました😅chimoさんでした。みゆさん、ご指摘ありがとうございます🥹


こちらで納品いたしますので、工場長、検品よろしくお願いします😊



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