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元メガバンク支店長が語る⑤会社では教えてくれないこと/優秀な人ほど会社の言葉を信じない

最近、多くの企業がパーパスやミッションを掲げています。

組織活性化。

エンゲージメント向上。

人的資本経営。

どれも大切な考え方です。

私自身、それらを否定するつもりはありません。

しかし、元メガバンク支店長として30年以上組織の中で働いてきた経験から、あえて言いたいことがあります。

優秀な人ほど、会社の言葉だけを信じてはいません。

彼らが見ているのは別のものです。

それは経営陣であり、人事であり、組織が本当に大切にしている価値観です。


私は銀行員時代、何度も「顧客第一主義」という言葉を聞いてきました。

もちろん素晴らしい考え方です。

銀行はお客様からの信頼があって初めて成り立つ仕事だからです。

しかし、人事評価の場になると違和感を覚えることがありました。

顧客から信頼されている人。

苦情が少ない人。

難しい案件でも最後まで逃げない人、諦めない人。

そうした人が必ずしも高く評価されるわけではありませんでした。

一方で、数字を作る人は強い。

もちろん収益は大切です。

しかし私は何度も考えました。

この会社が本当に大切にしているのは何なのだろう。

と。


別の場面では、こんなこともありました。

会社は人を大切にすると言う。

多様性を大切にすると言う。

しかし経営陣との会話になると、

東大。

京大。

一橋。

有名大学の話が頻繁に出てくる。

私はその度に思いました。

本当に見ているのは人間性ではなく肩書なのではないか。

と。


そして、私が最も強い違和感を覚えた出来事があります。

ある大規模なシステム障害が発生した後のことです。

会社は従業員を大切にしています。

あなたたちがいなければ会社の未来はありません。

そう繰り返し語っていました。

私はその言葉を信じていました。


しかしシステム障害後に示された方針はこうでした。

休日にシステム障害が発生したら、自宅近くの支店やATMへ真っ先に駆けつけること。

一定時間以内に現場へ到着すること。

大規模なシステムメンテナンスが予定される際は、遠方への旅行を控えること。

私はそのこと自体に不満はありませんでした。

私たちも会社に誇りを持っていました。

自分たちの不手際でお客様に迷惑をかけたくありませんでした。

休日に呼び出されても文句はありません。

それが責任ある仕事だと思っていたからです。


そんなシステム障害発生後の経営陣からの説明会で、ある従業員が役員に質問しました。

「役員の皆さんは、その時何をされるのですか?」

勇気ある質問でした。

役員は答えました。

「我々は本部で危機対応プロジェクトを立ち上げます。」
「皆さんの先頭に立って指揮を執ります。」 「逃げません。」

立派な答えです。

誰も間違っているとは思いませんでした。

すると、その従業員は続けて質問しました。

「役員の皆さんは顧客対応はされないのですか?」

役員はこう答えました。

「我々はみなさんとは役割が違います。」


役割が違う。その通りです。

経営陣には経営陣の責任があります。

危機対応本部を運営することも重要です。

私も管理職でしたから、その理屈は理解できます。

しかし、その瞬間、会場の空気が変わったことを今でも覚えています。

私たちが聞きたかったのは役割の説明ではなかったのです。

この人たちは本当にお客様のことを考えているのだろうか。

この人たちは私たちと同じ覚悟を持っているのだろうか。

そのことを知りたかったのです。

その時、私は悟りました。

私はもう、この会社には長くはいられない

と。

そして同時に、かつて退職していった優秀な部下たちの顔が浮かびました。

その時の私の気持ちは怒りではありませんでした。

失望でもありませんでした。

申し訳なかった。

その一言でした。


私は支店長として多くの部下を育成してきました。

仕事に誇りを持つ人たちでした。

お客様のために頑張る人たちでした。

責任感の強い人たちでした。

しかし彼らは、私より先に気づいていたのかもしれません。

この組織が本当に大切にしているものに。

この組織が本当に評価しているものに。

そして経営陣が本当に見ているものに。

私はその時、当時の部下に対して率直に申し訳ないと思いました。

こんな経営陣で申し訳なかった。

こんな組織を信じさせて申し訳なかった。

あなたたちのやる気を失わせてしまって申し訳なかった。


そして退職する側になって初めて、

かつて辞めていった優秀な部下たちの気持ちが分かったのです。


会社は立派な言葉を掲げます。

パーパス。

ミッション。

ビジョン。

しかし社員は言葉を見ているのではありません。

人を見ています。

誰が昇格するのか。

誰が評価されるのか。

どんな人が経営の中枢にいるのか。

そこから組織の本当の価値観を読み取っています。

組織の価値観はパーパスに表れるのではありません。

経営理念に表れるのでもありません。

人事に表れます。

昇格者に表れます。

経営陣の言動に表れます。


優秀な人ほど会社の言葉を信じない。

いや、正確には違います。

言葉を信じないのではありません。

言葉と行動が一致しているかを見ているのです。

会社では教えてくれません。

本当の組織の価値観は経営理念ではなく、

誰を昇格させるかに表れることを。

そして優秀な人ほど、

会社の言葉ではなく、

会社にいる人間を見ていることを。


※この記事は「元メガバンク支店長が語る 会社では教えてくれないこと」シリーズです。

メガバンクで30年以上勤務し、支店長として人事評価、人材育成、昇格推薦、組織運営に携わってきました。

会社では教えてくれないけれど、組織の中で働く上では知っておいた方がよいことがあります。

出世、人事評価、異動、資格、管理職、転職。

実際に評価する側だった経験をもとに、キャリアコンサルタントとなった今の視点も交えながらお伝えしていきます。

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