#未来のためにできること。
「帰りたい。」
デイサービスでは毎日のように耳にする言葉。認知症の利用者様が不安そうに口にするその一言に、私は何度も無力さを感じています。管理者として何ができるのか。答えを探し続ける中で、忘れられない出来事があります。
ある九十代の男性は、来所しても表情は乏しく、「帰る」の繰り返しだった。ある日、ご家族様から「若い頃は大工で、仕事に誇りを持っていた」と聞いた私は、木片と紙やすりを用意し、「教えていただけますか」と声を掛けて見た。
すると、その方は木を手にした瞬間、目の輝きを取り戻されました。木目を確かめる指先は迷いがなく、「木は嘘をつかない」と静かに語られました。その日から、ほかの利用者様や職員に作業を教える姿が見られるようになり、自然と笑顔が増えていきました。
認知症は治っていない。それでも、その人らしさは確かに戻ってきたと感じました。
この経験から、私は介護とは「できないことを支える仕事」ではなく、「その人が生きてきた証を未来へつなぐ仕事」だと考えるようになりました。
高齢者は支えられるだけの存在ではない。長い人生で培った知恵や技術、人を思いやる心は、今を生きる私たちが受け継ぐべき財産である。だから私は職員に「利用者様を見るのではなく、その人の人生を見よう」と伝えています。その言葉は職員の関わり方を変え、介護される人と介護する人という関係を、人と人との学び合いへと変えてくれました。
超高齢社会の未来をつくるのは、最新の機械や制度だけではない。一人ひとりの人生に敬意を払い、その人の価値を信じ続ける姿勢である。
未来のためにできること。それは、目の前の一人を大切にすること。その小さな積み重ねが、年齢を重ねても「自分は誰かの役に立てる」と誰もが思える社会をつくる。その未来は、今日の介護の現場から始まっている。

