食を通じた社員の応援――企業事例に学ぶ、人を大切にする経営
これまで、会社訪問やフォーラム、書籍、講演などを通じて、いくつかの企業事例に触れてきました。
企業事例から学べることは、制度や仕組みだけではありません。
経営者の言葉、社内の空気、社員の表情、休憩室や食堂の様子。
そうした日常の場面にも、その会社が何を大切にしているのかが表れているように感じます。
今回は、その中でも「食」にまつわる取り組みを横断的に考えてみたいと思います。
会社が社員を大切にする方法は、制度や給与だけではありません。
もちろんそれらは土台として欠かせませんが、それ以外の日々の小さな場面にも、会社の姿勢は表れます。
その一つが社員の「食」へのまなざしではないでしょうか。
伊那食品工業がまだ小さな会社だったころ、夏場に厳しい暑さになる工場で働く社員の健康を考えて、毎日牛乳を配り始めたという話を聞いたことがあります。
会社に余裕ができてから福利厚生を整えたのではなく、自然に社員の体を気にかけていた。
そこに、人を大切にする経営の原点のようなものを感じます。
昨年、北陸地方のある企業を2社視察をした際にも、印象に残ったことがありました。
2社視察で、どちらの企業も、社員食堂を新設したり、リニューアルされていたのです。
食堂は、経営側から見れば設備投資です。
食材費、人件費、スペース、衛生管理など、数字だけを見れば、手間やコストと考える方もいるかもしれません。
でも、社員にとって昼食は、1日のうちの大切な1食です。
どこで食べるのか。何を食べるのか。誰と過ごすのか。
昼休みの時間を、落ち着いて過ごせるのか。
昼休みは1時間足らずとはいえ、社員の生活の一部です。
横浜のある製造業の会社では、社員数がまだそれほど多くなかったころ、昼休みに白いご飯を炊いていたそうです。
1人暮らしの社員の食事事情を気遣い、ランチタイムに一升釜で白飯を炊きます。社員はおかずだけ持ってくればよいとのこと。
あたたかいご飯があるだけで、きっと昼休みの感じ方は変わりますよね。
中国地方にある醤油醸造会社では、社長が月に1回まかないをつくる取り組みがあります。
自社商品を使うことはもちろんですが、一部の社員が炊事を手伝います。
食事の提供であると同時に、コミュニケーションの場にもなっているのです。
仕事中とは少し違う会話が生まれる。
自社の商品を、社員自身が味わう機会にもなる。
会社の中に、ゆるやかなつながりが生まれる。
こうして見ると、食を通じた社員支援には、いくつかの役割があります。
一つ目は、体を支えることです。
栄養、体調、暑さ寒さへの配慮です。
二つ目は、時間を支えることです。
昼休みを落ち着いて過ごせるようにすることで、
午後の仕事にも影響します。
三つ目は、関係を支えることです。
一緒に食べる、手伝う、「美味しいですね」と声をかける。
そうした何気ないやり取りは、社員同士や経営者との距離を少し近づけます。
四つ目は、会社の価値観を伝えることです。
「社員の生活も大切にしたい」という姿勢は、言葉だけで伝わるわけではありません。
日々の行動や、小さな気づかいから伝わります。
すべての会社が社員食堂を持てるわけではありません。
むしろ、そこまで大きな取り組みは難しいことのほうが多いです。
でも、食を通じた応援は、規模の大小だけではありません。
白いご飯を炊く。
夏場に冷たいものを用意する。
繁忙期に軽食を置く。
月に一度、みんなで同じものを食べる時間をつくる。
地元のお店のお弁当を頼む。
昼休みの過ごし方について、社員の声を聴いてみる。
できることは、会社の規模や業種によって違います。
大切なのは、社員の1日を具体的に想像することではないでしょうか。
会社以外の生活。その生活の一部に、会社が少しだけ心を寄せる。
食を通じた社員の応援には、そんな意味があるように思います。
人を大切にする経営は、理念だけで成り立つものではありません。
社員を思いやる小さな活動に、会社のやさしさは表れます。
〈このnoteを書いた人〉
有村知里(Chisato Arimura)

アイパス経営コンサルティング株式会社 代表取締役
中小企業診断士/人本経営学修士(EMBA)
横浜を拠点に、中小企業の経営計画づくりと実行、チーム力向上を支援する中小企業診断士。1997年創業、2021年法人化。
「小さくても強くてやさしい会社づくり」を掲げ、「人を大切にする経営」「五方良し経営」を軸に、利益と品格を両立する経営を大切にしている。
経営者の想いを言葉にし、社員と共有できる形に整えながら、現場で動く経営計画、相談しやすい組織、対話が生まれる仕組みづくりを伴走支援している。
