見出し画像

仕事を分けることで生まれる、新しい可能性――分身ロボットカフェで考えたこと

分身ロボットカフェ DAWN ver.βを訪れました。

病気や障害、介護など、さまざまな事情によって外出が難しい人が、
自宅などから分身ロボット「OriHime」を操作し、接客を行っているカフェです。

以前から関心がありましたが、訪れるのは初めてでした。

最初は、どのように会話を始めたらよいのか、
どのくらい話しかけてよいのか分からず、少し戸惑いました。

しかし、会話を進めるうちに、単に新しいロボットを体験する場所ではないですし、ましてやZoom会議なんでものでもない、と感じるようになりました。

各テーブルにOrihimeがいて、パイロットが配置されます

接客デビューを、先輩が支える

この日、私たちの席を担当してくださったのは、接客デビューの日を迎えたパイロットさんでした。

本来、テーブルには分身ロボット「OriHime」が1台なのですが、先輩パイロットさんが見守るために、私のテーブルには2台あり、先輩のパイロットさんが必要に応じてフォローしてくださいました。

ロボットを操作する技術だけでなく、話しかけるタイミング、
会話の続け方、食事を提供する際の距離の取り方など、
接客にはさまざまな判断が必要です。

新人を一人にせず、先輩が見守りながら経験を重ねてもらう。

画面の向こう側にいる人同士にも、一般の職場と同じように、
育成や協力の関係があることが伝わってきました。

飲み物を運ぶOrihime。こちらにもパイロットの方がいてお話できます。

場所と時間の制約を越える働き方

先輩パイロットの方は、ご自宅で家族の介護を担いながら、
1時間単位で働いているとのことでした。

また、担当してくださったパイロットの方も、
外出して働けないため、店舗から遠く離れたご自宅から接客をされていました。

飲食店の接客は、
「決められた時間に、その場所へ行かなければできない仕事」でした。客とスタッフが同じ時間と場所を共有することで成立するサービスだからです。

しかし、分身ロボットを使うことで、
「同じ場所にいなければならない」という制約が取り払われています。

技術が、人に仕事を合わせるのではなく、
仕事のあり方を人に合わせて組み直していると感じました。

技術だけでは成り立たない

当日は、機器の調子が整わず、音声が立ち上がらなかったり、
再接続が必要になったりする場面もありました。

そのたびに、現地スタッフがすぐに状況を確認し、
パイロットの方を支えていました。

遠隔での接客を実現するには、ロボットだけでなく、
通信環境、現地スタッフ、パイロット同士の支援など、
複数の仕組みが必要です。

新しい働き方を支えているのは、先端技術だけではないのです。
不具合が起きたときに誰が対応するのか。お客様への説明をどう行うのか。遠隔で働く人が孤立しないように、どのように支えるのか。

そうした現場の連携があって、初めてサービスとしてが成立しています。

人とロボットの連携のように見えて、実は人と人が連携しあう場所だった

「すべて自分で行う」ことを手放す

今回、特に考えさせられたのは、仕事の分け方でした。

接客は基本的にはOriHimeが行い、
食事をテーブルまで運ぶのは現地スタッフ、
飲み物はサーブ専用のOriHimeが運んでくれました。
こちらのOrihimeにもパイロットがいます。

もしかすると、現地スタッフが接客も
あるいは、食事も飲み物もまとめて運ぶほうが
短時間で済むかもしれません。

現場が忙しくなればなるほど、
「自分でやったほうが早い」と考えやすくなります。

それでも、現地スタッフがすべてを担うのではなく、
仕事を分け、パイロットの方が飲み物を届ける役割を担っています。

仕事を分けることは、簡単そうで案外難しいものです。

誰かが一通りの仕事をできるようにしたほうが、教育もしやすいですし、
急な欠勤にも対応しやすい。
これまで、多くの職場でマルチタスクが評価されてきたのには、
それなりの理由があります。

しかし、すべての仕事を一人で行えることを前提にすると、
働ける人が限られてしまいます。

移動が難しい人、長時間勤務が難しい人、体力に制約のある人、家庭の事情で決まった時間に働けない人は、能力があっても仕事に参加しにくくなります。

仕事を小さく分け、それぞれの得意な部分を担当できるようにする。

そのように仕事を設計すれば、
これまで働くことが難しかった人にも、力を発揮できる場が生まれます。

効率のための分業から、人を生かすための分業へ

経営における分業は、これまで主として、効率を高めるために考えられてきました。

例えば、同じ作業を繰り返すことで習熟し、生産性を上げる。
業務を標準化し、短い時間で多くの仕事を進める、というものでした。

もちろん、それも大切です。
しかし、DAWNで見た分業には、もう一つの意味がありました。

それは、さまざまな条件を持つ人が、それぞれの能力を発揮できるようにするための分業です。

一人の人に多くの能力を求めるのではなく、複数の人が得意なことを持ち寄って、一つのサービスをつくる。

この考え方は、人手不足に悩む中小企業にとっても、
大きなヒントになるのではないでしょうか。

採用できる人を探すだけでなく、今ある仕事を見直す。

その仕事は、本当に一人が最初から最後まで担当しなければならないのか。出社しなければできないのか。長時間連続して働かなければならないのか。

仕事の側を少し変えることで、働ける人の幅は広がるかもしれません。

人を大切にする経営とは

DAWNを訪れる前、私はこの店舗を「働くことが難しい人を、技術によって支援する場所」と捉えていた部分ありました。。

しかし、実際に訪問して感じたことは、一方的に誰かを助ける場所ではないということでした。

パイロットの方は、客に話しかけ、飲み物を届け、楽しい時間をつくってくれます。
現地スタッフは、パイロットの方が接客しやすいように環境を整えます。先輩は新人を見守り、新人は新しい役割に挑戦します。
そして客も、会話を通して、その場を一緒につくっています。
それぞれが、できることを持ち寄っているのです。

DAWNで感じた「人を大切にする経営」とは、
人を一方的に助けることではありません。

一人ひとりが能力を発揮できる場所と役割をつくり、
それぞれが力を発揮し合い、必要なときには互いに支え合うこと。

人が仕事に合わせるのではなく、
人が力を発揮できるように仕事を組み直すこと。

それが、小さくても強くてやさしい会社をつくるための、大切な視点なのだと思います。

〈このnoteを書いた人〉
有村知里(Chisato Arimura)

アイパス経営コンサルティング株式会社 代表取締役
中小企業診断士/人本経営学修士(EMBA)
横浜を拠点に、中小企業の経営計画づくりと実行、チーム力向上を支援する中小企業診断士。1997年創業、2021年法人化。
「小さくても強くてやさしい会社づくり」を掲げ、「人を大切にする経営」「五方良し経営」を軸に、利益と品格を両立する経営を大切にしている。

経営者の想いを言葉にし、社員と共有できる形に整えながら、現場で動く経営計画、相談しやすい組織、対話が生まれる仕組みづくりを伴走支援している。

会社HP:http://www.arimura-c.com/

いいなと思ったら応援しよう!