経営理念は、会社のガードレールである
― 掲げる理念から、判断に使う理念へ ―
経営理念は、会社にとって何のためにあるのでしょうか。
会社案内やホームページに載せるため。
来客スペースの壁に飾るため。
もちろん、それも経営理念の一つの表れです。
けれども、本当に大切なのは、
経営理念が日々の判断に使われているかどうかです。
以前、ある経営者の方が、経営理念について
「理念は、会社にとってのガードレールのようなものだ」
と話されていたことがありました。
とてもわかりやすい表現だと思います。
ガードレールは、車の進む方向を細かく指示するものではありません。
けれども、危険な方向へ大きく外れそうになったとき、
そこから先へ行かないように守ってくれます。
経営理念も、同じではないでしょうか。
経営理念は、北極星であり、ガードレールでもある
経営理念は、よく「北極星」や「羅針盤」にたとえられます。
北極星や羅針盤は、進むべき方向を示してくれるものです。
会社が目先の売上や短期的な成果に流されそうになったとき、
「自社はどこへ向かうのか」
を思い出させてくれます。
一方で、経営理念にはもう一つの役割があります。
それが、ガードレールとしての役割です。
北極星や羅針盤が「進む方向」を示すものだとすれば、
ガードレールは「進んではいけない方向」を示すものです。
日々の経営では、迷う場面がたくさんあります。
・売上につながる仕事であっても、自社らしくない仕事を受けるべきか。
・社員に無理をお願いすれば納期に間に合うが、本当にそれでよいのか。
・価格を下げれば受注できるが、自社の価値を損なわないか。
・お客様の要望にどこまで応えるべきか。
・取引先に対して、どのような姿勢で向き合うべきか。
こうした場面で、経営理念は判断のよりどころになります。
経営理念は、すべての行動を細かく決めるマニュアルではありません。
けれども、会社として越えてはいけない一線を示してくれるものです。
壁に掛かっているだけでは、理念は機能しない
以前、ある会社のチームづくりの支援に入ったときのことです。
その会社にも、立派な経営理念が掲げられていました。
そこで私は、チームリーダーの方に
「一度、会社の経営理念を声に出して読んでみていただけますか」
とお願いしました。
すると、その中にある漢字を読むことができませんでした。
私はそのこと自体を責めるわけではありません。
むしろ、驚いたのは、そこに至る背景です。
おそらく、その社員は
経営者から経営理念について、
日常的に語られたことがなかったのだと思います。
だから、声に出して読むことができないのです。
そして、理念が、日々の仕事や判断と結びついていないのです。
壁には掛かっている。
けれども、読まれていない。
読まれていても、意味が共有されていない。
意味が共有されていなければ、
判断の場面で使われることもありません。
そのとき私は、経営理念は「掲げる」だけでは不十分なのだと、
改めて感じました。
経営理念は、額縁に入れて飾るものではありません。
社員が迷ったときに戻れる言葉であり、
リーダーが判断に使える言葉であり、
経営者が繰り返し語り続ける言葉です。
ガードレールがあっても、
そこにあることを誰も知らなければ機能しません。
ガードレールの意味が共有されていなければ、
危険な方向に進んでも止まることができません。
経営理念も同じです。
存在しているだけでは、会社を守る力にはなりません。
日々の会話、判断、行動の中で使われて初めて、
理念は会社を支える力になります。
経営理念が問われるのは、迷ったとき
経営理念は、順調なときよりも、迷ったときにこそ問われます。
きれいごとだけでは経営はできません。
だからこそ、経営理念が必要なのだと思います。
理念は、現実から離れた理想論ではありません。
現実の中で、会社が大切なものを見失わないための基準です。
もちろん、理念があればすべてが簡単に決まるわけではありません。
経営には、利益も、効率も必要ですし、時には厳しい判断も必要です。
しかし、その判断は何のためか、
誰にしわ寄せがいっているのか。
自社が大切にすると言ってきたことと矛盾していないか。
それを確認するために、経営理念があります。
人を大切にする経営における理念の役割
「人を大切にする経営」における理念は、
単に社員にやさしくするための言葉ではありません。
ここでいう「人」とは、社員だけを指すものではありません。
従業員とその家族、外注先・仕入先、顧客、地域社会、株主など、
会社に関わる人々を広く含みます。
会社は、多くの人との関係の中で成り立っています。
だからこそ、経営理念は
「誰を大切にするのか」
「どのような関係をつくりたいのか」
「利益を出しながら、どのような品格を保つのか」
を確認する言葉でもあります。
人を大切にする経営は、甘い経営ではありません。
利益を出さなくてよい経営でもありません。
むしろ、利益を出しながら、会社としての品格を保つ経営です。
そのためには、経営理念が判断の場面で使われている必要があります。
社員に対して。
取引先に対して。
お客様に対して。
地域社会に対して。
そして、会社を継続させる責任に対して。
経営理念がガードレールとして機能していれば、
会社は短期的な都合だけで判断しにくくなります。
「この判断は、人を大切にしていると言えるだろうか」
「このやり方は、利益を出しながら品格を保っているだろうか」
「このまま進むことは、自社らしいだろうか」
そう問い直すことができます。
自社の理念は、判断に使われているか
経営理念をつくることは大切です。
けれども、それ以上に大切なのは、経営理念を使うことです。
自社の経営理念は、次のような場面で判断基準になっているでしょうか。
採用するとき。
社員を育てるとき。
価格を決めるとき。
新しい仕事を受けるとき。
クレームに対応するとき。
社員に負荷をかける判断をするとき。
取引先との関係を見直すとき。
経営が苦しいとき。
売上を優先したくなるとき。
もし、これらの場面で理念が一度も出てこないとしたら、
理念はまだ「掲げている言葉」にとどまっているのかもしれません。
反対に、迷ったときに
「うちの理念から考えると、どうだろう」
という言葉が出てくる会社では、理念が少しずつ使われ始めています。
大切なのは、完璧な理念をつくることではありません。
経営者が語ること。
リーダーが自分の言葉で説明できること。
社員が日々の仕事と結びつけて考えられること。
判断に迷ったときに、立ち戻る言葉になっていること。
その積み重ねによって、経営理念は会社の中で生きた言葉になります。
経営理念は、迷ったときに戻る場所である
経営理念は、会社の北極星として、進む方向を示してくれます。
そして、経営理念は会社のガードレールとして、
進んではいけない方向から、会社を守ってくれます。
ただし、どちらの役割も、理念が使われていなければ機能しません。
経営者が語る。
リーダーが受け止める。
さらに、社員が日々の仕事の中で意味を考える。
その繰り返しの中で、理念は少しずつ会社の文化になっていきます。
経営理念とは、きれいな言葉ではなく、迷ったときに戻る場所です。
そして、会社が大切なものから外れそうになったとき、
「そこから先へ行ってはいけない」
とそっと知らせてくれるガードレールなのだと思います。
〈このnoteを書いた人〉
有村知里(Chisato Arimura)

アイパス経営コンサルティング株式会社 代表取締役
中小企業診断士/人本経営学修士(EMBA)
横浜を拠点に、中小企業の経営計画づくりと実行、チーム力向上を支援する中小企業診断士。1997年創業、2021年法人化。
「小さくても強くてやさしい会社づくり」を掲げ、「人を大切にする経営」「五方良し経営」を軸に、利益と品格を両立する経営を大切にしている。
経営者の想いを言葉にし、社員と共有できる形に整えながら、現場で動く経営計画、相談しやすい組織、対話が生まれる仕組みづくりを伴走支援している。
