難しい経営を、わかる言葉に変える― ある会社の「ひらがな経営」から考える
これまで、会社訪問やフォーラム、書籍、講演などを通じて、いくつかの企業事例に触れてきました。
その中には、制度や仕組みとして学ぶこともあれば、経営者の言葉や社内の空気から学ぶこともあります。
今回取り上げたいのは、以前訪問した、ある製造業の会社で印象に残った「言葉」の使い方です。
ある会社で印象に残った「ひらがな経営」
その会社は、社員数でいえば小規模企業というより、
すでに一定の規模を持つ会社でした。
経営計画書、短いスピーチ、会議の進め方、目的と目標の共有など、
さまざまな仕組みが整えられていました。
その一つひとつに学びがありましたが、私が特に印象に残ったのは、
難しい経営の言葉を、社員に伝わりやすい言葉に置き換えていたことです。
その会社では、それを「ひらがな経営」と表現していました。
もちろん、本当にすべてをひらがなで書くという意味ではありません。
経営に関わる考え方や仕組みを、
限られた人だけが理解する専門用語にせず、
社員が身近に感じられる言葉に変えていくことを意味します。
経営者だけがわかっている言葉ではなく、
現場で働く人たちが、自分たちの行動につなげられる言葉にしていくという
その姿勢が、とても印象に残りました。
仕組みがあるだけでは、会社は動かない
企業事例を見るとき、私たちはつい
「どのような制度があるのか」
「どのような仕組みを導入しているのか」
に目が向きます。
経営計画書、全員が話をする会議のルール、福利厚生制度など
どれも大事です。
けれども、仕組みがあるだけでは、会社は動きません。
その仕組みが、社員にとって意味のあるものとして伝わっているか。自分たちの仕事とつながる言葉になっているか。
そこが、とても大切なのだと思います。
たとえば、「経営計画」と聞くと、
少し難しく感じる人もいるかもしれません。
経営者や幹部が考えるもの。
数字が並んでいるもの。
自分の日々の仕事とは少し距離があるもの。
そんなふうに、受け止められてしまうこともあります。
けれども、経営計画は「会社の未来をみんなで考えるためのもの」
だと伝われば、受け止め方は変わります。
自分の仕事がどこにつながっているのか。
自分たちは何を大切にしながら働くのか。
今年、何に力を入れるのか。
そうしたことを共有するための言葉になれば、
経営計画は経営者だけのものではなくなります。
言葉を変えることは、経営への参加を促すこと
難しい言葉を使うことが、悪いわけではありません。
専門的な言葉が必要な場面もあります。
けれども、その言葉が、一部の人にしかわからないものになってしまうと、経営は共有されにくくなります。
大切なことだからこそ、伝わる言葉にする。
社員に関係のない話として遠ざけるのではなく、
社員が参加できる言葉に変えていく。
そこに、この会社の経営姿勢が表れているように感じました。
小さな会社ほど、日常の言葉が会社の空気をつくる
これは、小さな会社にとっても大切な視点であり、
むしろ、小さな会社ほど日常の言葉の影響は大きいように思います。
社長が何気なく使っている言葉。
会議で繰り返される言葉。
朝礼で伝えている言葉。
社員に任せるときの言葉。
お客様や取引先に向き合うときの言葉。
そうした言葉が、会社の空気をつくっていきます。
たとえば、「目標」という言葉一つをとっても、
会社によって受け止め方は違います。
達成できなければ責められるものなのか。
みんなで近づいていく方向なのか。
日々の行動を考えるための目印なのか。
同じ言葉でも、意味づけが違えば、社員の受け止め方も変わります。
「会議」も同じです。
報告するだけの場なのか。
責任を追及される場なのか。
知恵を出し合い、次の一歩を考える場なのか。
名前は同じでも、その場に込められた意味が違えば、
参加する人の姿勢も変わります。
まずは、自社の言葉を見直してみる
小さな会社でできることは、決して大がかりな制度づくりだけではありません。
まずは、自社でよく使っている言葉を見直してみてください。
・その言葉は、社員に伝わっているでしょうか。
・皆が同じ意味として使っているでしょうか。
・経営者だけがわかっている言葉になっていないでしょうか。
難しい言葉を、やさしい言葉に変える。
専門的な言葉を、現場で使える言葉に変える。
経営者の頭の中にある思いを、社員が行動に移せる言葉に変える。
それは、経営を簡単にすることではありませんが、
経営をみんなで扱えるものにすることです。
相手が受け取りやすい言葉を選び、
相手にわかるように伝え、
言葉を通じて、経営への参加の道を開くこと。
その積み重ねが、会社の信頼や一体感につながっていき
「人を大切にする経営」へと導いていくように思います。
今日の問い
今回の企業事例から学んだことは、
仕組みそのものよりも、その仕組みを伝える言葉の大切さでした。
経営計画書も、会議も、制度も
経営者だけが管理するためのものではなく、
会社に関わる人たちが同じ方向を見て進むための道具です。
どのような言葉で伝え、関わる人に届いているのか。
そこを丁寧に見直すことが、
小さくても強くてやさしい会社づくりにつながるのだと思います。
皆さまの会社では、
経営の言葉は、どのように使われているでしょうか。
社員に伝わる言葉になっているでしょうか。
そして、お客様や取引先にも、誠実に届く言葉になっているでしょうか。関わる人が一緒に考え、動き出せる言葉になっているでしょうか。
〈このnoteを書いた人〉
有村知里(Chisato Arimura)

アイパス経営コンサルティング株式会社 代表取締役
中小企業診断士/人本経営学修士(EMBA)
横浜を拠点に、中小企業の経営計画づくりと実行、チーム力向上を支援する中小企業診断士。1997年創業、2021年法人化。
「小さくても強くてやさしい会社づくり」を掲げ、「人を大切にする経営」「五方良し経営」を軸に、利益と品格を両立する経営を大切にしている。
経営者の想いを言葉にし、社員と共有できる形に整えながら、現場で動く経営計画、相談しやすい組織、対話が生まれる仕組みづくりを伴走支援している。
