見出し画像

小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(34)池の底で

Chapter34


『ともかく、釣り上げた斧はまた、池の中に沈めてありますので』

 聞き覚えのある声とその会話の内容から、レナの心に抜け落ちていたパズルのピースがはまった。

「釣り上げた斧って⋯⋯この声は『釣り竿さん』? やっぱりこの池のどこかにいるんだ! でも⋯⋯何かがおかしいような」

 光の差す水面を見上げようとしたレナは、逆に足元からも強い光が放たれていることに気づいた。彼女は驚きを感じながらも、再び視線を水底へと向けた。

「あれって⋯⋯あの輝きは! 『金色の斧』ね!?」

 レナは姿勢を変えて、自ら底に沈んだ斧に向かって泳ぎ始めた。身にまとった水色のワンピースは水中での抵抗を感じさせず、彼女の動きをスムーズにサポートした。子供の自分の姿を巧みに操りながら、レナは輝く金色の斧に手を伸ばした。その瞬間、先ほどの男性の声が頭をよぎった。

「斧はまた、池の中に『沈めてある』って、何か変ね。⋯⋯これ、あの時私が池に放り込んだのよね? トムを助けるために、無我夢中で。それにあの男性の声、どこか動揺しているようだった」

 思い巡らすレナの耳に、再び男性の声が届いた。

『ち⋯⋯違います! これは本当に偶然で!! 私はただ、祖父のために自分の落とした斧を探していただけで⋯⋯彼女は何もしていません! き、金色の斧を池に戻したのは私自身です!!」

 男性は何故かレナを庇うように話していた。彼女が池に投げ入れた斧を、あたかも自分が元に戻したかのように振る舞っている。なぜそんな必要があるのだろうか? その疑問がレナの「自慢の好奇心」を刺激し、手を伸ばしていた金色の斧への動きがピタリと止まってしまった。


──そこに落ちている、その茶色い物体は何だ? その娘の手から離れたように、側に転がり落ちているように見えるが?──


 突然、威圧的で低い声がレナの耳を突き抜けた。彼女は思わずその小さな手で両耳を塞いだ。


──お前のその動揺ぶり、何か嘘をついているな? この小娘に、余計な知識を与えたのではないか? 私のストーリーに、余計な「設定」を加えてしまったか?──


『わ、私はあなたの「設定」通りに、この釣り竿を使って、この池で探し物をしているだけの「ただのキャラクター」です! ダン様!!』

 レナはその会話から釣り竿男性の危機的な状況を感じ取り、ためらうことなく金色の斧に手を伸ばし、その古めかしい柄をしっかりと掴んだ。

「釣り竿さんが危ない!! 何とか助けないと!!」

 レナは決意を固め、太陽の光がきらめく水面に向かって力強く泳ぎ出した。水中の無数の小さな泡が光に照らされ、彼女はそれに導かれるように素早く進んでいった。金色の斧を片手に掴み、もう一方の手を水面に向かって伸ばしながら、彼女は必死に足を掻いて浮上を始めた。その斧は予想に反して軽く、不思議な浮力で彼女をスムーズに水面へと引き上げた。

「ぷはっ!!」

 水中では呼吸ができたものの、口の中には水が溜まっていた。その水を吐き出しながらレナは水面から顔を出し、池のほとりに立つ二人の男性の姿を見た。一人は彼女の探していた釣り竿の男性で、後退りをしながら明らかにうろたえていた。浮き輪のように浮力のある金色の斧につかまりながら、もう一人の男性に目を向けた瞬間──


──そこで何をしている? そして、それは何だ? お前が掴んでいるその「光っているモノ」は?──


 突然の問いかけに、レナはその男性の冷酷な瞳をはっきりと視界に捉えた。彼の脅すような声は遠くから聞こえているにもかかわらず、直接脳内に響き渡り、その視線は距離の概念を無視して、まるで近くで睨みつけているかのように彼女を突き刺していた。


Is that... that shine! It's the "Golden Axe"!?


第33話     第35話

いいなと思ったら応援しよう!