小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(21)トンネルをくぐって
Chapter21
「あのトンネルをくぐれば、レナに会える」
くり抜かれたキリンの内部は、成長した今のトムの体格でも楽々と這って進むことができた。中央付近に進んだあたりで、再び彼を呼ぶ声が聞こえた。
「こっちこっち! 早く滑ってこっち来て!」
それはレナの声に間違いなかったが、普段よりも甲高いものだったので、彼はトンネルの反響によるものだと解釈した。光の出口に差し掛かると、前方にはお馴染みのブランコが見えた。誰も乗っていない無人のブランコだったが、それよりも注意を引くものが目に映った。
「あれ? 隣にある、あの小さいブランコは⋯⋯撤去されたはずなのに、なんでまたあるんだろう?」
トムは目をパチパチさせて、よく目を凝らした。そこでまたしても透明な物体の、怪しい挙動を確認した。それは小さなブランコに乗り始め、元気よく漕ぎ出した。
「早く! 早く!」
言われるまま、思わずトムはスロープを滑り降りたが、着地地点で靴が脱げてしまった。慌てて靴を履き直すが、サイズが合わない。両足ともに、ブカブカだった。
「もう! 遅いからこれもらっちゃうよ! ♪真っ赤なマント! ヒーローマント!」
赤い布切れをブンブン振り回しながら現れた、そのぼんやりとした姿は徐々に鮮明になり、ついには一人の小さな女の子の形へと落ち着いた。水色のワンピースを身に纏い、肩にかかる長さの綺麗なブロンドヘアを輝かせている彼女は、ブランコを漕ぎながら自分の履いていた白い靴を脱ぎ、勢いよくこちらへ向かって蹴り飛ばした。それは宙を舞い、見上げたトムの目の前にぽとりと落ちた。
「え? これって⋯⋯え?」
トムは自分の着ている学生服が、ブカブカになっているのに気づいた。いつの間にか両手は袖口に隠れ、服の重たさも増していた。手が出ないほど服が大きくなっているので、彼は慌てて袖を手首まで捲り上げ、上着のブレザーのボタンを外そうとした。
「何だ急に!? このサイズは僕の服じゃないぞ?? ズボンもだ! 裾を踏んでしまってる!?」
トムが困惑しながらも衣服を調整しようとする中、彼の目の前に突如としてブランコの女の子が立っていた。それは一緒に砂遊びをしていた頃の、幼児期のレナの姿だった。彼女はトムの慌てふためく様を見て大笑いをした。
「きゃはは!! 何その格好!? それって悪者の役? ヒーローレナにやられて、くっぱみじんになっちゃった? ん? こっぱだっけ?」
笑顔で彼をからかうレナの口調は、この頃から何も変わっておらず、その懐かしい響きにトムも思わず笑みをこぼした。彼女はそのまま続けて言った。
<<いつものお洋服がいいな。それじゃ遊べないもん>>
レナの声が辺りに反響し、トムはそれが耳ではなく頭の中で鳴っているのだと理解した。そして次の瞬間体が軽くなったのを感じ、何とも言えない安堵感に包まれた。この不可思議な状況に疑問を抱くのをやめて、彼の本能はありのままを受け入れた。
「お着替え終わった? それじゃ、一緒にブランコ乗ろう?」
子供のレナがそう言うと、トムは一瞬めまいを感じた。そして、気がつくと彼のブカブカの学生服はどこかへ消えており、子供の頃にお気に入りだった牛柄のTシャツと赤いズボンが身についていた。

