小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(26)自分を信じて
Chapter26
「まだトムに⋯⋯伝えなくちゃいけない事がいっぱいあるのに⋯⋯! 言われるままに逃げ出してしまったけど⋯⋯!」
この道はあの場所へ繋がっている。そこには以前、釣り竿スーツの男性がいた、あの広い池だ。衝撃的な体験で気を失い、意識が戻った時には彼はいなくなっていた。池に落としたという斧は見つかったのだろうか?
私がそこで目の当たりにした信じがたい光景は、疑う余地のない事実だった。自分がイメージして生成したスマホは粘土細工のように不格好で使い物にならなかったので、それをそこに置いてきてしまった。
「あの男性⋯⋯釣り竿さんに会えれば、トムを助けてくれるかも! それと、置いていってくれたこのメモ⋯⋯」
ずっと走ってきたせいで息が切れてきた。ブランコからだいぶ距離を取れたから、ここで少しペースを落としても大丈夫だろう。こんな時こそ、深く考え込まずに楽しむことが大切だ。イメージするのは苦手だけど、持ち前の明るさで何とか対処できる。今までだってそれで乗り越えてきた。
「シンプルなメモ書き⋯⋯『疑わずに信じる』そのままトムに言っちゃったけど」
その一枚のメモのおかげで、この世界の仕組みが少し理解できたような気がする。ここでは決してネガティブになってはいけない、ただひたすらに楽しむことが求められている。それが強制された支配的な世界だ。少しでもその枠を外れた感情を持ったら、私の精神は恐ろしい闇に呑まれてしまうかもしれない。トムはもっと繊細だから、果たしてこの世界を受け入れられるだろうか。いや、それすらも信じなければならない、疑わずに。
視界に池が見えてきたが、釣り竿を持った男性の姿はどこにもない。もう一度会えることを期待していたが、そう上手くはいかないようだ。
この世界には時間という概念が存在しないらしく、また公園の外に出ることもできない。毎回見るたびに変わる時計台の針、昼夜も定まらない、追えば逃げる永遠に続く景色。そして私は、考えるのをやめてイメージを具現化する「AI──Artistic Illusion(芸術的幻影)」と呼ばれる技術を思い出した。それを身につければ、元の世界へ帰れるかもしれないとも思った。
「トムの想像力だったらきっと、この世界から抜け出せるヒントが掴めるはず。私が頑張ってイメージするよりも、彼が覚えて創造できれば」
池の辺りに近づくと、私が作った茶褐色の、あまりにもスマートでないスマホが地面に転がっていた。それを再び手に取り、画面を覗いてみる。
「これ、恥ずかしくってトムに見せられないわね。もう一度作り直せるかな⋯⋯あれ?」
わずかに振動している。まるで着信があった時のような定期的なリズム。試しに耳を当てて喋ってみた。
「もしもし⋯⋯? 誰か聞こえますか⋯⋯?」
『FO⋯⋯LL⋯⋯』
何かが聞こえた。それは私の聞き覚えのある声だったが、誰だかはわからない。画面を見ると、そこに赤い文字が浮かび上がってきた。
「何これ⋯⋯エフオー、エルエル⋯⋯『FOLLOW ME』って読めるかも?」

