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とある人事担当者のキャリアパス作り失敗を分析してみた

むかーし昔、あるところに人事担当者がいました。

その人は、とても真面目でした。

社員の成長を支援したい。
キャリアを見える化したい。
人材育成を体系化したい。

そんな熱い思いから、キャリアパス作りに取り組みました。

ところが・・・あっさり挫折します。

今回は、その失敗事例を取り上げてみたいと思います。


壮大な計画

その人事担当者が勤める組織には、約40の部署がありました。

・人事
・広報
・経理
・システム
・企画
・その他いろいろ

しかも、総合職採用ですので、定期的にジョブローテーションがあります。

そこで、その人事担当者は考えました。

「どの部署に異動しても使えるキャリアパスを作れないだろうか?」



なぜ作れなかったのか?

最初は順調でした。
チームメンバーと一緒に、いろんな企業の事例を調べる。

人事に必要な能力を書いてみる。
すると経理には当てはまらない。

経理の視点を追加する。
すると広報が抜ける。

広報を書き加える。
するとシステムが気になる。

修正する。

また気になる。

さらに修正する。

完成へ向かっているはずなのに、なぜかゴールが遠ざかる。

キャリアパスを作っているはずなのに、迷子になっていたのは本人とチームメンバーの方でした。


仮説① 能力不足説

最初に考えられるのはこれです。

・知識不足
・経験不足
・もっと優秀な人事担当者なら作れた?

もし能力不足が原因なら、勉強すれば解決するはずです。

でも少し不思議なことに、
学んでも学んでも、
情報があればあるほど、
万能なキャリアパスの姿は見えてきませんでした。


仮説② 問題設定ミス説

ここで少し研究者モードになってみます。

もしかすると、
失敗したのは作り方ではなく、問いの方だったのではないか?

その人事担当者はずっと、「どうすれば作れるか?」を考えていました。

でも本当に考えるべきだったのは、
「そもそも作れるのか?」
だったのかもしれません。


No Free Lunchとの出会い

この人事担当者たちがぶち当たった壁を説明できる用語があります。

No Free Lunch(ノー フリー ランチ) です。

直訳すると、「タダ飯はない」

なんともお遊び感がある名前ですよね(笑)
でも、実は歴とした用語なのです。

由来は、アメリカの酒場では、お酒を頼んだ客に「無料のランチ」を出していました。
ですが、結局はお酒代に上乗せされて、ちゃんと回収されてたそうです。

タダに見えるけど、どこかで必ずコストを払っている——。 

内容をかなり乱暴に要約すると、万能な方法は存在しない

ある問題で優れた方法が、別の問題でも優れているとは限らない という意味になります。


違和感の正体

この用語を知った時、なぜか昔のキャリアパス作りを思い出しました。

人事に最適化されたものは、広報には最適ではない。
経理に最適化されたものは、システムには最適ではない。
逆に全員に適用できるようにすると、誰にとっても抽象的になる。

つまり、

専門性を高めると汎用性を失う。

汎用性を高めると実用性を失う。

その人事担当者が探していたのは、キャリアパスではありませんでした。

実際には、「全員に効く万能なキャリアパス」だったのです。


種明かし

さて、ここまで読んでくださった方はお気づきでしょうか?

この事例に出てくる「人事担当者」。

それは”私”です。

長い間、私はキャリアパス作りに失敗したと思っていました。

もっと知識があれば。
もっと経験があれば。
もっと優秀なら。

そう考えていました。

でも、今は少し違います。

失敗したのではなく、存在しないものを探していただけだったのかもしれません。


では、どうするか?

では、人事は万能解を諦めるべきなのでしょうか?

私はそうは思いません。
むしろ逆です。

万能解がないからこそ、設計する価値があります。

全員に同じ道を示すのではなく、共通部分と専門部分を分けて考える。

一本道のキャリアパスではなく、複数の選択肢を示す。

社員の未来を決めるのではなく、選べる状態をつくる。

そんな発想の方が現実的かもしれません。


人に関する仕事をしていると、つい正解を探したくなります。

・万能な評価制度
・万能な研修
・万能なキャリアパス

でも組織には、違う仕事をする人がいて、違う価値観を持つ人がいます。

だからこそ、私たちの仕事は、

”正解を見つけることではなく、
その組織に合う答えを設計すること”

No Free Lunch。

「タダ飯はない」という定理です。

あの時作れなかったキャリアパスは、私にとって少し高価な昼食でした。

でも、その昼食代は無駄ではなかったようです。

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