博士課程で連続的に成長する
博士課程では、とにかく「前に進んでいない感覚」と付き合い続けることになる。毎日研究はしている。論文も読んでいるし、データもいじっている。でも、何かが劇的に変わるわけではない。昨日と今日の差はほとんどないし、今月と先月を比べても、そこまで大きな違いはない。
前回の記事でも書いたが、博士課程にいると周りがやたら優秀に見える。ただ、冷静に考えると、彼らが急に非連続なジャンプをしているわけではない。優秀な人は、毎年少しずつ、連続的に伸びている。気づいたら差が開いているだけで、ある日突然覚醒しているわけではない。
だから逆に言えば、今優秀でなくてもそこまで悲観する必要はない。奨学金に応募する。論文を投稿する。学会で発表する。その一つ一つを淡々とこなしていく中で、少しずつ伸びていくしかない。
自分では、その伸びはほとんど実感できない。
私はD2の秋まで論文が一本もなかった。そもそも、M2の時点で1本もなくて博士進学する人間の時点で珍しい。周りが業績を積み上げていく中で、正直かなり焦っていた。D3でようやくスパートをかけて、結果的に論文2本分の内容を追加できたが、あれがなければ確実に留年していたと思う。
奨学金も、一度不採択になったあと、繰り上げで合格した。それ以外の奨学金は全部落ちた。研究インターンもかなり応募したが、ほとんど通らなかった。当時の自分を優秀とはとても言えない。
一方で、振り返ってみると、一つずつやっていたことが積み重なっていたのは確かだと思う。落ちた奨学金の申請書も、次に書くときには少しだけマシになっている。リジェクトされた論文も、修正を重ねるうちに質が上がっている。学会発表も、回数を重ねるごとに説明はスムーズになる。
博士課程では、いきなり特大ホームランを出すよりも、数をこなすほうが大事なのではないかと思っている。
一つ実績を出すと、自分のCV(履歴書)に書ける項目が一つ増える。発表が一件増える。投稿が一件増える。受賞がなくても、応募歴は残る。CVの行が一行ずつ増えていく。この厚みをまずは作るしかない。
最初からトップジャーナル一本で勝負する、というより、とにかく投稿する。最初から倍率の高い奨学金一本に賭ける、というより、出せるものは全部出す。量をこなしているうちに、自然と質が上がっていく。
不思議なもので、数を打っていると、自分でも気づかないうちに基準が上がる。申請書の構成が洗練される。研究の問いがクリアになる。レビューへの対応が早くなる。これは意識的に成長しようと思って得られるものというより、回数の副産物だと思う。
博士課程では、劇的な成長はあまり起きない。毎日の小さな改善が、あとから振り返ったときに「あれ、結構伸びてるな」となるだけだと思う。
だからまずは、CVの量を厚くする。クオリティは一旦考えなくていい。完璧な一本を狙うより、まずは一本出す。その積み重ねの中で、無意識に連続的な成長が起きる。
前に進んでいない感覚は、たぶん最後まで消えない。でも、淡々と数を重ねていけば、あとから振り返ったときに、ちゃんと距離は伸びている。博士課程は、その確認が数年遅れでやってくるゲームなのだと思う。
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