医療機器ソフトウェア開発の実践ガイド 第3回「最小チームで回せる Lean-QMS とは?」
はじめに
前回は、医療機器ソフトウェアにおけるリスクマネジメント(ISO 14971)をテーマに解説しました。
そこで強調したのは、
「リスクを適切に管理する仕組みが、ソフトウェア単体の開発だけでなく、組織としての品質マネジメントシステム(QMS)の中に位置づけられている」
という点です。
今回のテーマは、
その QMS を最小チームでも運用できるように設計する方法
――いわゆる Lean-QMS です。
Lean-QMS とは何か?
Lean-QMS は
「Lean(無駄を削ぎ落した)」+「QMS(品質マネジメントシステム)」
を意味します。

大企業のように多数の部門・人員が分担する体制ではなく、数名のチームでも持続可能な品質システムを実現するのが Lean-QMS の狙いです。
実務イメージ

設計管理を Lean にするには
IEC 62304 や ISO 13485 は
「設計入力(要求仕様)と設計出力(設計文書)の対応づけ」
を求めています。
大企業では専用のトレーサビリティ管理ツールを導入する例も多いですが、小規模チームでは次の方法が有効です。
Excelやスプレッドシートの1行管理
レビューは兼務可能(責任の明記が必要)
段階的なトレーサビリティ(まずはリンク表、必要に応じて強化)
CAPA(是正予防措置)の Lean 化
CAPAは本来、不具合や逸脱を是正し、再発を防ぐための仕組みです。
ただし、すべての事象をCAPAにすると記録と手順が膨れ上がり、スタートアップでは運用困難になります。
そこで Lean-QMS では次の工夫をします。
不具合管理ツールを流用する
リスクで仕分け(重大性が低いものは不具合管理で完結、重大性が高いものだけCAPAに昇格)
定期レビュー(月1回のチームミーティングでCAPA進捗を確認)
☆CAPAの仕分けの簡易フロー

市販後監視(PMS)を Lean に運用する
市販後監視(Post-Market Surveillance)は、製品を市場に出した後の安全性情報を収集・評価する仕組みです。
Lean-QMS では以下のように運用できます。
情報源を明確化する(苦情窓口、ユーザーサポート、ログ)
シンプルなリスク評価フロー(対応不要/修正/規制当局報告)
国内外の同時対応(PMDA、MDR、EU Vigilance)
Lean-QMS 導入の心得
目的は「規制要求を満たしつつ、開発を止めない」こと
完璧主義を避け、最小限から始めて監査で強化
国内外を同時に設計しておくと、後の手戻りが少ない
5分セルフチェック

👉 3つ以上「Yes」であれば、Lean-QMS の基本が整っています。
まとめ
Lean-QMS とは、最小限の文書・手順で規制要求を満たす仕組み
設計管理・CAPA・市販後監視は「軽量に」「共通化して」運用するのが鍵
国内外の規制要求を同時に意識することで、効率的にグローバル対応が可能
次回予告
次回(第4回)は「要求仕様のつくり方」をテーマに、ユーザー要求、規制要求、設計入力の違いと、実際に使える要求仕様の書き方について解説します。
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👤 執筆・監修:酒井 由夫(さかい よしお)
医療機器ソフトウェア開発コンサルタント/xCAREエキスパート
医療機器メーカーでのソフトウェア開発、規格対応支援経験を経て、外資系企業・医療スタートアップにて医療機器ソフトウェア(SaMD)の製品企画・規制対応・QMS運用の支援をはじめる。
クラスII・III機器の開発~市販後に関するISO 13485、IEC 62304、ISO 14971、FDA対応、薬機法承認申請などの支援を専門とする。
現在は医療機器ソフトウェア専門のコンサルタントとして独立し、国内外のスタートアップ・製販企業に対して、開発プロセス設計やチーム育成、技術文書の作成支援など、実行支援を提供中。
2025年よりxCAREエキスパートとしても活動を開始。
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