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懐かしい店の、あの香り。『カフェーの帰り道』島津輝

昔のカフェーといえば、かわいい着物に白いエプロンで、ちょっとレトロなおしゃれなイメージ。この小説は、カフェーの女給さんの話らしくて、しかも着物のことがちょっとわかるようになる(かもしれない)小説と聞いて、手に取りました。

確かに読みながら、銘仙とか着物関連の単語をたくさん調べながら、読みました。勉強になったかどうかはあやしいですが、着物だけじゃなく、髪型とかもスマホ検索しながら確認しました。束髪(そくはつ)もわかりませんでしたが、二百三高地って髪型があったなんて驚き。

あとは、昇降機ガールってエレベーター・ガールのことですね。かっこいい洋装の制服は、朝ドラの『カーネーション』で見た気がします。

上野黒門町と池之端仲町の繁華街を過ぎてちょっといったところ……もし、私に東京の地名とか、土地勘があったら、こういうさりげない描写にいろんなイメージがわくんでしょうけれど、そのあたりは仕方ないですね。

物語の舞台は、東京上野の「カフェー西行」。ちょっと繁華街を外れた場所にあって、時代の最先端を行くわけではないけれど、1階の窓の内側にはカフェらしい白いレースのカーテンが掛かっていて、2階のマドは色ガラス。女給さんも3人雇えるくらいなので、それなりに常連さんもいます。

主人公は、このカフェー西行の女給さんたち3人。当時としても若くはない、ワケアリの彼女たちをめぐる物語が、入れ子のようになっていて、昭和の時代を彩っていきます。日常的なようで、ちょっとだけ非日常。でも、穏やかな物語。

女手一つで息子を育てているタイ子と、女学校の教師をしている男性の奥さんの話。嘘をつくのが好きな美登里と、それ以上に嘘をついてまわりを驚かせた園子の話。学校を出ているのが自慢で、小説を書いてみたかったセイ。存在感はないけれど、でも、彼女たちを懐広く迎えてくれるマスター夫婦。

シスターフッド未満だけれど、同じカフェー西行で働く女性同士、ほどよい距離感で助け合ったり、認め合ったり。若くない女性が一人でやっていくには、はなにかと大変だったはずの時代。でも、淡々と生きていく、地に足のついた感じがとても良かったです。

自分の年齢からいけば、多分、彼女たちは明治41(1908)年生まれの父方の祖母くらい? 青春時代が、第一次世界大戦、「満州事変」、そして日中戦争から第二次世界大戦へ。10年毎に戦争があった、文字通り激動の時代。

祖母は、穏やかで古風で、山の主みたいないいおばあちゃんでしたが、若い頃に夫を病気で亡くして、息子2人を連れて出戻って、また家を出て、女手一つで息子たちを育てた強い人でもあります。自分が祖母と同じ年齢で同じことをやれと言われたら、ちょっと絶望してしまいそう。

いや、でも、よく考えたら母方の祖母も戦争未亡人で、女手一つで娘と息子を育てていたのでした。すごいですね。祖母たちは強し。そう思うと、私も娘のためなら、どんな状況でもがんばれるかもしれません。

もとい。そんなふうに、ふと人生の大先輩にも思いをはせてしまうような本書。きつい描写はないので、さらっとよめばよめますが、想像の余地も、余韻もたくさんある。そんな小説です。少し、心がカサカサしたときに、おすすめ。着物とか、髪型とか、レトロな小説が好きな人にもいいかもしれません。

余談ですが、いつものお店がずっとあるって本当にうれしいこと。うちの近所にも、ご近所さんが顔を合わせるちょっとした社交場的な喫茶店があります。毎週末、家族で行くお店は、いまのマスター&ママさんが元気なうちは通って行きたいです。

作者が参考にしたという、こちらも気になります。

猫ちゃんと素敵なカフェのお話はこちら。


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