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いまだからこそ、読みたい。親愛なる物語『マイ・ディア』氷室冴子

2度と戻りたくない中・高生時代を救ってくれた恩人、氷室冴子さん。彼女の作品もエッセイも、ほとんど読んだと思っていたのですが、最近復刊されたこの本、見逃していました。初版が1990年。かなり前の本ですが、全然内容が古くないのがすごいです。

1957年生まれの氷室さんや、それより一世代前の読書好きのお姉様がた(中には、私設図書館をつくって読書会してしまうようなツワモノも)が愛読していた<家庭小説>。それが、すっかり絶版になっていることを嘆いた氷室さんが、復刊の企画を働きかけ、ついでのように推薦文(入門編エッセイ)を書いたのが、この本の元になっているそうです。

モンゴメリの『赤毛のアン』は、さすがに超有名作品なので絶版ということはないですが、エッセイ集の起点として要所、要所で言及されます。あと、ウェブスターの『あしながおじさん』もあちこちで比較の対象として、引用されています。

でも、他は読んだことがないどころか、名前も知らない作品ばかり。例えば、ジーン・ポーター著『リンバロストの乙女』。調べてみたら、『赤毛のアン』の翻訳で有名な村岡花子さんが訳されているんですね。しかも、作者のポーターは、有名な博物学者。蝶や蛾を研究されていたとのこと。

だから、自然描写がずば抜けていて、同時代の女性作家さんたちのようにお説教くささやシニカルさがなくて、自由で風通しがいいと氷室さんは紹介しています。読んでみたいゾ!

しかも、ポーターは愛するだんなさんが力強い味方になってくれて、仕事を休んでフィールドワークや取材につきあってくれるという、21世紀の現代からみても、すごくうらやましい環境だったそうです。

このエッセイ集は、氷室さんの個人的な読書体験や、家族にまつわるお話が、そもそも家庭小説みたい。それに、海外の女性作家さんたちの執筆環境までわかるところも楽しいです。さりげなく、アガサ・クリスティーなんかのエピソードも出てくるし。

ちょっと話はそれますが、氷室さんのお母様については、結婚を迫って困る時代錯誤な話の通じないお母さんのイメージが強くて、それは多分に氷室さんのエッセイ『母子草』のせいです。でも、このエッセイを読むと、氷室さんが若い頃のお母様は知識豊富で、頼りがいがあったのがわかって、いろんな意味でうちの母そっくりなのに驚きました。当たり前ですが、人は老いるんですね。自戒を込めて。

『若草物語』が有名なオルコット。ここで紹介されるのは、『八人のいとこ』や『花盛りのローズ』。青い鳥文庫だと、最近のハーレムものみたいな表紙で驚きますが、原作はこんな昔だったとは。

オルコットは、日本でいえば明治維新の頃の人。アメリカには、こんな昔から職業作家の婦人がいたんですね。とはいえ、苦労がなかったはずもない。彼女の作風が、若干お説教臭いのは「よき家庭人」「よい信仰を持っている」ことが、女性が作家をしても批判されない、免罪符みたいなものだったようです。

しかも、オルコットは南北戦争で篤志看護婦として働き、熱病にかかってしまったので、その後は死ぬまで健康な身体にはもどれなかったけれど、執筆活動を続けたとか。そういう背景を知ると、物語を読むときにまた違った感想を持ちそうです。

それから、『赤毛のアン』シリーズが有名なモンゴメリですが、氷室さんによれば中年女性の嫉妬や恋愛、退屈な日常にふと殺意を見せるようによぎる苛立ちを書いた短編がすごく冴えているのだとか。例えば、『続アンの村の人々』の「ありふれた女」。

そういう作家さんたちに比べて、ネズビット著『若草の祈り』の物語が軽く感じるのは、実はストーリーテリングが元になっているから。今で言う、「読み聞かせ」です。エレナ・ポーター著『少女パレアナ』の作風も軽いワルツのような感じだけれど、それは著者が中年になって、初めて文章を書き始めたからだと氷室さんは指摘します。

若い頃から、世間と自分の違いに悩んだことのある人は、だいたい、世間と自分のスキマを埋めるように文章を書いて、何度も挫折を経験して作家になる。そういうモンゴメリやオルコットに比べると、ポーターは文体が軽やかだそうです。そういうものか……

私が読んだことがあったのは、バーネットの『秘密の花園』だけ。すっごくわくわくした記憶があります。あと、食べ物もおいしそうだった記憶も。

というわけで、私の知らない世代のお姉様たちの読書物語や、日本で言う明治前後に活躍した海外の女性作家さんたちのお話、海外生活やおいしそうな食べ物へのあこがれなんかを散りばめたエッセイ集。そして、洋服は買うものでなく、仕立てるものだった世代のお話。懐かしくて、新鮮。

眠れない夜とか、気の向く話題を少しづつ読んだりできそうでうれしいです。おすすめ。

いまどき女子の物語はこちら。ベストセラーなのもうなづけます。


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