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変わらない世の中と少しの希望。『台北裁判(八尺門的弁護人)』唐福睿(よしだかおり訳)

評判どおり、読み応えたっぷりの法廷ミステリーで、一気読み。読後の余韻もすごいです。

物語は、漁港の殺人から始まります。1つは、主人公の佟寳駒(台湾原住民・アミ族の名前はタカラ)の父親の事件。そして、佟寳駒が公設弁護人になって引き受けた、アミ族の一家殺害事件。犯人は、事件直後に逮捕された、インドネシア人の青年アブドゥル・アドルでほぼ間違いない状況。

佟寳駒は、すごく興味深いキャラクターです。10歳のとき、漁師だった父親が殺人未遂で服役。残された母親は貧困の中で亡くなり、佟少年は貧しすぎて絶望的な地元コミュニティに見切りをつけ、カトリック教会を頼って超絶苦学して法学部に入り、公設弁護人になります。

そんなに苦労して、公設弁護人になった佟寳駒。しかも、弁護士としての再就職先まで決まっている。できる限り無難で、波風たてないような仕事をしそうなものですが、佟寳駒の反骨精神というか、ひねくれ具合というか、一筋縄ではいきません。

不真面目に見える佟寳駒は、いざアドル事件の法廷に立つと、インドネシア語の通訳のおかしさを指摘して、周囲を驚かせます。外国人労働者の単純な殺人事件の背後には、大手船会社の人身売買や違法就労、虐待、密漁など多くの犯罪が隠れていました。

教会に救ってもらったのに、佟寳駒の口癖は「ホーリー媽祖!」。恩返しに副司祭の教会でボランティアをしていますが、「俺は神を信じていない」と率直すぎる本音をいいます。副司祭も、佟寳駒を助けただけのことはある人物。「ご加護を与えてくれない神なんて、信じるに値しない」は名言です。

佟寳駒をサポートする連晉平は、父親が裁判官のエリートです。理由があって兵役を免除された台湾の青年人は、短期間の兵役訓練と政府機関の仕事をする「代替役」を課されます。司法官と弁護人の資格を持っている連晉平は、高等法院公設弁護人室に配属され、佟寳駒と出会います。

息子を心配して、なにかと世話をやく父親。でも、連晉平は父親の敷いたレールにのることに、漠然とした不満を抱えています。そんな彼は、自分の父親にも大手船会社にも忖度しない佟寳駒の魅力に惹かれ、若者らしい理想主義で、アドルの事件にのめり込み、凸凹コンビになっていきます。

もう一人の魅力的な主役は、インドネシア人のリーナです。母国で父親が亡くなり、学校をやめて、台湾に介護師として出稼ぎに来ました。世話をする許おばあちゃんは優しいものの、雇い主の息子のセクハラや業務外の労働の強制など、問題は山積み。佟寳駒と知り合って、裁判の通訳も引き受けるようになります。

台湾の法律について、リーナに教える連晉平との淡い恋心の芽生え。母国の親友が参加する学生運動。介護をしながら、専門用語の通訳をするのは大変です。ましてや死刑になるかもしれない被告の裁判は、精神的な負担も大きいです。それでも、支え合い、励まし合って新しい知識を得ていく若い世代は希望です。

裁判の通訳は責任がおもすぎて耐えられないと嘆くリーナに、インドネシアの大学で学ぶヌルは、こんな風に励まします。「あなたは今とても大切なことをしているの」「コーランは言っているわ。…誰かを救う者はすべての者を救うのと同じである」「アッラーは私たちを守ってくださるわ」

とはいえ、政治の世界は清々しくはいきません。台湾の死刑制度を廃止したい法務大臣は、アドルの事件を利用しようと、佟寳駒をサポートしますし、死刑制度を選挙に利用したい台湾の総統(大統領)とその選挙対策本部責任者。船会社も、当然ながら自分たちを守るために総統に働きかけます。

船会社は、八尺門に住んでいる佟寳駒の父親と、その友人たちにも圧力をかけます。佟寳駒が思い通りにならないとなると、今度はメディアへのリーク攻撃。こういうドロドロは、本当に台湾らしい。

それでも自分を曲げない佟寳駒、自分にできることをやろうとするリーナと連晉平。理想をあきらめない法務大臣。おきた事実は変えられず、事件の結末は辛いですが、希望の見える物語は読む側にもエネルギーをくれます。

台湾のこの土地に暮らすには、ちょっとした幸運が必要なのだ。

唐福睿『台北裁判』

作者の唐福睿さんは元弁護士。台湾社会の漁業の立ち位置とか、少数民族の問題とか、外国人労働者の環境とか、以前聞いた台湾の弁護士さんの話そのままにシリアスなのに、エンタメとしても群像劇としても秀逸。法廷ミステリー好きな方、台湾好きな方には絶対オススメです。

そして、主人公の佟寳駒以上におもしろいのが作者の唐福睿さん。弁護士として5年間働いた後、奨学金をもらってアメリカ留学して映画製作を学び、ご自分の作品をドラマ化されているとか。この本もドラマ化されてので、かなり見てみたいです。


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