未完の夏と、自転車のステップ
ユキの何気ない一言で、
しまい込んでいた記憶が、ふいに顔を出した。
「そういえば、こないだノブにバッタリ会ったのよ」
当時、私が片思いしていた人。
同じ部活で、みんな仲が良くて、
夏休みは、来る日も来る日も練習に明け暮れた。
部活終わり、何人かで行った花火大会。
女の子はみんな浴衣を着て、
帰り道は自転車の二人乗り。
今なら叱られるけれど、
あの頃は、それが青春の正解みたいだった。
自転車のステップに足を乗せ、ノブの肩にそっと手をかける。
カゴの荷物に手を伸ばして、
そのままほんの少しだけ、体を預けていた。
夜風と、花火の残り香と。
何も起きないことを期待しながら、
何かが起きてほしいと願っていた時間。
ノブはそのあと後輩と付き合って、
私の恋は、何も始まらないまま終わった。
それでも、この記憶は色あせない。
実らなかったからこそ、
夏の一場面としてきれいに残っている。
あの頃の私に教えてあげたい。
空っぽだったはずの手のひらには、
案外、一生モノの夏の匂いが
こびりついてるもんだよって。
ふふっ…青いな。
Written in response to
https://note.com/happy_otter803/n/nab8af2a714ce
https://note.com/nozominnote/n/n08dfa83cf5f5
