【ニュース】航空業界全体の純利益が25年比で半減
1. 【ニュースの核心】2026年航空利益の大幅下方修正
IATAが発表した純利益230億ドルの衝撃
国際航空運送協会(IATA)は、2026年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された第82回年次総会において、世界の航空業界の純利益見通しを230億ドル(約3兆7000億円)へと大幅に下方修正した。この数字は、2025年の見込みである450億ドル(約7兆2000億円)からほぼ半減する水準であり、2025年12月時点の予測値であった410億ドルからも大幅な引き下げとなった。純利益率も2025年の4.2パーセントから2.0パーセントへと低下する見通しで、航空業界が薄氷の収益構造の上で運営されている実態が改めて鮮明になっている。
航空業界の収入全体は前年比9.4パーセント増の1兆1650億ドルと拡大を続けており、旅客数も51億人と過去最高を更新する勢いであるものの、それを上回るペースで営業費用が増大している。IATAのウィリー・ウォルシュ事務局長は、今回の下方修正を招いた主要因として、想定を超えたジェット燃料価格の高騰と、ペルシャ湾岸地域における運航混乱という2つの力を挙げた。堅調な需要があるにもかかわらず利益が伴わない現状は、地政学的リスクや燃料費の変動に対して航空業界が極めて脆弱であることを示している。
利益を圧迫する中東情勢と燃油高のダブルパンチ
今回の利益半減の直接的な引き金となったのは、中東での紛争激化である。イラン紛争に端を発した供給途絶への懸念から原油価格が上昇し、ジェット燃料コストの急騰を招いた。また、紛争地周辺の空域が閉鎖された影響で、エミレーツ航空やカタール航空などの大手キャリアは飛行時間を数時間延長する迂回ルートの採用を余儀なくされ、燃料消費量と運航コストが劇的に増大している。地域別で見ると、2026年には中東の航空会社のみが43億ドルの赤字に転落し、世界全体の利益を押し下げる最大の要因となる見込みだ。
燃料費の増大は凄まじく、業界全体の燃料費総額は2026年に約3500億ドル(約56兆1000億円)に達し、前年の約2520億ドルから約40パーセントも急増すると試算されている。これは営業費用のほぼ3分の1を占める規模であり、航空会社の経営陣にとって、運賃の値上げや供給力の抑制以外に収益を守る手段がほとんど残されていない状況だ。航空各社は燃料費上昇分の一部を運賃転嫁で回収しようとしているが、燃油高を完全に相殺するには不十分であり、収益性は大幅に圧縮されている。以下の図を参照してください。

2. 【経営・戦略の背景】供給制約とコスト構造の激変
航空機納入遅延とロシア迂回が招く機材需給の逼迫
利益悪化の背景には、燃料費以外にも深刻な機材供給の制約がある。米航空機大手のボーイング社による品質不正問題や機体事故を受けた規制当局の制裁に加え、エンジン部品の供給制限などにより、世界的に新機材の生産と納入が遅延している。2026年5月時点の航空機発注残は1万8100機に達しており、納入が進まない中で航空各社は旧型で燃費の悪い航空機を予定より長く運航し続けなければならない状況に置かれている。これにより、経年機の整備費が増大し、機材のリース料も過去最高水準まで上昇している。
さらに、ロシアによるウクライナ侵攻の影響でロシア上空の飛行制限が継続しており、欧州線を中心に迂回航路の採用が常態化している。飛行時間の長期化は、同一路線の運航を維持するためにより多くの機材と乗員を必要とすることを意味し、人件費や機材運用の非効率化を招いている。例えば、欧州からアジア太平洋への路線では、中東紛争による空域制限も重なり、搭載重量の制限や燃料消費のさらなる増加という三重苦に直面している。このような物理的な制約が、航空各社の固定費を押し上げ、利益を捻出することを困難にしている。
燃料費40パーセント増が蝕む営業利益と旅客1人あたりの純利
航空業界のコスト構造において、燃料費の激増は致命的なダメージを与えている。2026年のジェット燃料価格は1バレル平均152ドルと、2025年の90ドルから約70パーセントも上昇する予測である。航空会社は燃料消費量の約3分の1をヘッジして価格変動の平準化を図っているものの、原油価格と燃料価格の差を示すクラックスプレッドが過去最高水準にあるため、その防衛策も限界を迎えている。燃料費の急増により、旅客1人あたりの純利益は2025年の9.10ドルから、2026年にはわずか4.50ドル(約720円)へと半減する見通しだ。
ウォルシュ事務局長は、この「旅客1人あたり4.50ドル」という利益について、FIFAワールドカップの会場ではホットドッグさえ買えないほどの低額であり、航空業界の余力が極めて乏しいことを象徴する数字であると指摘した。今後の追加的な税負担やコスト上昇を吸収するバッファーはほとんど残されておらず、少しの経済的ショックで業界全体が赤字に転落しかねない危うい状況にある。需要自体は堅調で旅客収入は8390億ドルに達すると予測されているが、増収分がそのままコスト増によって飲み込まれる構図となっており、航空会社の健全な再投資能力を奪っている。以下の図を参照してください。

3. 【業界構造・競合】再編の波と日本市場の苦境
中小エアラインの破綻リスクと鈴与による第3極再構築
収益性の急激な悪化は、財務基盤の弱い航空会社の存続を脅かしている。2026年にかけて、コスト上昇の影響を耐えきれない小規模な航空会社が破綻するか、大手による買収が進む業界再編の波が加速すると予想されている。実際に米国では、中東紛争の経済的影響に関連した初の破綻事例として、格安航空会社(LCC)のスピリット航空が運航を停止した。このように、利幅の小さいLCCや地方専業の航空会社ほど、燃油高と需要減退の直撃を受けやすい構造となっている。
日本国内においても再編の動きが表面化している。静岡を拠点とする鈴与ホールディングスがスカイマークの株式を追加取得し、保有比率を25パーセント超まで引き上げて筆頭株主となった。鈴与は傘下にフジドリームエアラインズ(FDA)を擁しており、スカイマークの羽田発着枠とFDAの地方ネットワークを組み合わせることで、ANAやJALに対抗できる「第3極」の再構築を狙っているとの見方が強い。スカイマーク自体も2026年3月期決算で減益を記録しており、三輪徳泰新社長の下で進められる電撃的な改革が日本の航空市場の勢力図を塗り替える可能性がある。
国内線赤字転落と国交省による2026年5月の対策とりまとめ
日本の航空各社が直面している課題は深刻だ。旅客数はコロナ禍前の水準まで回復しているものの、燃油費や整備費といった外貨建てコストの増大、さらには公租公課の軽減効果を除いた実質的な営業損益において、国内主要6社の国内線事業が赤字に転落している。特にANAは、新幹線の発展や人口減少による総需要の縮小を踏まえ、国内線事業がビジネスの転換期を迎えていると強い危機感を表明している。国内専業の中堅エアライン4社に至っては、営業利益率がコロナ前の半分程度に低迷し、厳しい経営状況が続いている。
国土交通省は、国民生活を支える国内航空ネットワークが維持できなくなる恐れがあるとして、2026年5月を目安に対策を取りまとめる計画だ。検討されている対策の一つとして、欧州での事例を参考に、航空会社と新幹線などの高速鉄道が協業する「コードシェア」の導入が挙げられている。また、2030年にはパイロットが大量退職する「航空業界2030年問題」も控えており、人手不足の解消と不採算路線の維持を両立させるための抜本的な構造改革が求められている。政府による空港使用料の減免や燃料税の軽減といった支援策の延長も含め、2026年は日本の空の守り方を決める重要な1年となる。
4. 【今後の展開・注目点】脱炭素と持続可能なネットワーク構築
持続可能な航空燃料導入の加速と環境規制の重石
航空業界にとって中長期的な最大の課題は、2050年までの温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロ達成に向けた脱炭素化である。この実現に向けた切り札とされるのが、持続可能な航空燃料(SAF)の導入だ。EUでは2025年から域内空港でのSAF混合が義務化され、日本でも2030年までに石油元売りに対してSAF混合を義務付ける規制強化が進んでいる。2026年に利用可能なSAFは世界全体で240万トンと予測されており、総燃料消費の0.8パーセントに相当するが、依然として供給量は圧倒的に不足している。
SAFの導入は環境面では不可欠だが、経営面では大きなコスト増要因となる。2026年のSAF追加購入コストは43億ドルに達する見込みで、従来燃料との価格差は航空会社の収益をさらに圧迫するだろう。国内では、コスモエネルギーホールディングスが2025年4月に日本初のSAF量産プラントを稼働させるなど供給体制の整備が始まっているが、安定的な価格での調達は依然として困難である。排出権クレジットの利用も含め、脱炭素対応の負担をどのように利用者や他業種と分担していくかが、今後の業界の持続可能性を左右する争点となる。
航空・鉄道協業とデジタル技術による2030年問題への挑戦
今後の航空業界が直面するもう一つの注目点は、異業種連携とテクノロジーによる効率化である。国交省が検討している航空と高速鉄道の協業は、短距離路線を鉄道に委ね、航空リソースを中長距離や国際線に集中させる「モーダルシフト」を促進する可能性がある。フランスでは、列車で2時間半以内の都市間フライトを禁止した例もあり、日本においても環境負荷低減と利便性向上の観点から、JALやANAがJR各社とどのような提携を打ち出すかに注目が集まる。
さらに、深刻化する人手不足への対応として、デジタル技術の活用が加速している。AIによる需要予測の精度向上や、空港地上業務の自動化、さらにはマイルを活用した非航空領域での収益拡大など、旅客運賃だけに頼らない多角的な経営モデルへの転換が急務となっている。2030年に向けたパイロット不足という時間制限がある中で、2026年に打ち出される新政権の成長戦略や国交省の対策が、日本の航空業界を再生させる契機となるかが問われている。燃料高と地政学リスクという逆風の中で、各社がどのようなネットワーク再編とコスト削減を断行できるかが、生き残りの鍵を握っている。

