まるでルフィ? 中国の大学相手に裁判へ~私はお金も受け取っていいと自分に許可した日~
来月末で、十年近く勤めた大学を辞める。
日本語科が正式になくなることが決まり、私は雇い止めになった。
経済補償請求の権利があることがわかったものの、学校は「再雇用を検討」と支払い回避。同意せず引き続き請求するも無視。返答期限も過ぎた。そこで私は労働仲裁に行くことに。
ここで大活躍したのが、一人の卒業生だった。
法律家ドストエフスキー
彼はかつて作文の読書感想文でただ一人ドストエフスキーの小説について書いていた。文法の間違いは多かったものの、私は彼の知性を感じて、その時から一目置いている。
このドストエフスキー(以下ドス)は私の経済補償問題どころか、もう一つ大学に大きな問題があることを指摘。その二つの点をまとめた労働仲裁申請書を秒で作成。
それを元に卒業生女子ゆいたんが労働仲裁に電話。
最初は権利はないとするも、一度電話を切った後、判断が覆る。
ドスの法的根拠に基づく主張はすべて正しかった。
そんなわけで必要材料を提出に来るよう言われ、せっせと作る。

あとは銀行の給料明細証明があればいい。
そして今朝銀行に行ったが、そこでまた驚きの事実を知る。
銀行のカード問題
私は銀行に行き、「労働仲裁に行くから給料の振込記録を印刷してほしい」と書いた中国語を窓口で見せるが、外国人が珍しい棗荘では毎度のことながら戸惑われる。
そこに、前回も助けてくれた女性が現れ今回も親身になってくれた。
そして彼女がふと気づく。
「銀行カードが今月末で期限切れるよ」
なんてこった!
来月も最後の給料が入る予定。さらに日本に戻ったら全額引き落とすつもりだった。
知らなければ、銀行に給料入ったところで私はおろせなかっただろうし、日本に帰ってしまったらもうどうしようもなかった。
しかしこの時はとりあえず午前中に労働仲裁行く必要があった。
なぜなら、前述のゆいたんが電話通訳してくれることになってたから。彼女の日本語は日本人並み。
なので、まず銀行の女性にはこれまでの振込金額の印刷を手伝ってもらった。
その収入を見て彼女が一言……
「こんなにお給料少なかったの?」
憐みの目……。
そして労働仲裁行く私を応援してくれた。
よし、必要資料はすべてそろった!……と思ったら……
労働許可証がない
労働仲裁は、大学の帰り道にある。
二年半何度も前を通った。
まさか立ち寄る日が来るとは!
労働仲裁の建物の中には他にも色々入っているようだった。
とりあえず入り口の受付にいた警備のおじさんたちに話しかける。
その一人に私があらかじめ書いてきた紙を見せる。
すると、そのおじさんもじっくりと紙に目を通し、事情を知ると、私の代わりに受付の必要事項まで書いてくれた。
大学の住所わからんと言うと、勤務先「日本」と書かれた。
雑!www
そして労働仲裁に行ったのだが……
なんか思ったよりカジュアルな上になぜか若者が多い。
聞けばそのうち二人は大学生で実習で働いているという。
彼らが私の通訳(中国語を中国語にしてくれる)をやってくれた。
待たされてる間もその学生男女と話してて、すっかり仲良くなった。
「30代かと思った」と言われて、私が「红包(お小遣い)あげよか?」と言うとその場は爆笑……あれ? 自分、法律の手続きに来たんじゃなかったっけ?
実習生たちは私のために一生懸命になってくれて、受付の人も親身になってくれた。
しかし、提出書類はほぼ完ぺきだったものの、ただ一つだけ足りないものがあった。
それは、中国労働許可証である。
それも若者たちが中心となり、アプリでダウンロードできないかと自分の携帯を使ったり色々してくれた。
しかしできない。
本来外国人労働者は社会保障カードをもらうらしいが、何しろ私は保険すらまともに入れてもらってないし、授業中怪我したのに全額自費治療。完治一年。
その時、私はひらめいた!
さんざん苦労したビザ手続きの時、必要だったのは確か労働許可証だ。
「ちょっと一回家帰ってパソコン見てくるわ」
あった!
印刷して戻る。
今度は受理。
裁判の日も決まる。
私がここを去る二日前。
私の都合に合わせて日にちを早めてくれた。
本来、裁判まで起こしたくなかった。
でもこの時も仲裁の人が国際部に電話したけど、取り合ってくれない。
そうやって踢皮球(たらいまわし)だから、私は仲裁まで来たがまた同じ。
仲裁の人曰く、裁判にすることで和解交渉しやすくなるということ。
「裁判になると大学も面子あるだろうし、その前に解決すりゃいいんだけど」
私がそう言うと、実習生の一人が「大学に気をつかうことなんてない」と吐き捨てるように言う。この子らも学校で嫌な目にあったことあるのかな。
成績や評価がすべての学生にとって、大学は逆らえない権力だ。事務は無駄に偉そうだし、どこも似たようなもんなのかも……。
私は彼らに言った。
「一人一人はいい人でも組織になると急にやな感じになるよね。それは日本も同じだよ」
若者たちは私の話を真剣に聞いていた。
「私はお金のためというより、自分の権利を守りたい。自分のために自分ができるかぎりの努力はしたいんだ。わかる?」
女子はこの言葉に深くうなずいた。
男子はまだ19の可愛い坊ちゃんで、「がんばって勉強しなー」と言うとその場で一生懸命私のケースについて調べていた。
なんかまさにこれぞ活きた実習だなーと思った笑
そして無事手続きは終了。
大学が話し合いに応じてくれればいいが、それでも応じないならば、13日私は出廷する。
問題は通訳である。
仲裁の人は学生でもいいと言ったが、私は現役の学生は絶対に巻き込みたくない。あと地元の人間とかも。何らかのしがらみあるかもしれないし、もうすぐここを去る私とはちがう。だからこそ私はなるべく一人でと思ったし、今日通訳をお願いしたゆいたんのことも卒業生とは言わず、私の友だちの日本語教師と言った。
ドスの名前も絶対に言わないと約束した。
しかしそうなると、私の代理の弁護士の出廷が必要になる。
費用はおそらく数千元で、地元の弁護士ならそこまで高くないと言われた。
ところが……
通訳候補の言葉に泣く
ドスの紹介で地元弁護士に連絡すると、費用はなんと一万元!
私の月給より多い。
でも私の場合、ドスに申請書作ってもらってるし、アドバイスをもとに提出材料も自分で作ってる。
ただ代理で出廷するだけでそんなにするのか?と交渉。
するとまず資料を見せてくれというのでそれを送る。
まだ返事はない。
ただ、私の中で、わざわざ私がいる日にずらして早めた裁判なら、自分が行くべきじゃないかという考えが出てきた。
しかしそうなると通訳がいる。
ゆいたんはその日無理。最近会いに来た鼻毛(あだ名)に頼むが、法律用語わからないとおじけづく。
別に日本語の法律用語は必要ない。ただ中国語の法律用語での質問を私がわかる日本語で言ってくれればいい。
さらには私の中国語を中国語に訂正してくれればいい。
しかしそうなると私とかなり交流のある学生じゃなければならない。
鼻毛は一方通行ポエマーだから無理。
私の意図が読めて、私と交流慣れしてて、物事動じないタイプといえば……
私はダメもとでこれから日本の大学院に行く予定の卒業生に聞いてみた。すると、運よくその日ちょうど棗荘にいると言う。
そして二つ返事でOK。
しかし、次に私が心配したのは、今後彼が大学院行くにあたり、推薦状とか必要にならないか、大学から嫌がらせされないか。
そこで仲裁の人に連絡。通訳の個人情報を保護してくれと。
するとその約束は守ってくれるということに。学校には絶対に名前は知らせないと。
ただ通訳も出廷するから、姿は見られることになる。
だから今、本気で女装させようかと思っている。
彼自身は地味だから、大学の偉い人の記憶に残ることもなさそうだし、名前さえばれなければ何とかなりそうだが……。
でも私の中で葛藤はある。リスクがまったくないとは言い切れない。というか予想できない。
AI曰く、日本の大学院に行くなら、むしろ法廷で通訳やった経験はプラス評価になるということだが、大事なのは本人の気持ち。
私は本当は喉から手が出るほどやってほしい通訳だが、そこは堪えてこう言った。
「無理しなくていいんだよ。少しでも心理的負担を感じるなら断ってもいいからね。一番大事なのは君の将来だから」
でも彼は言う。
「でも先生を助けることも大事だから」
感動……😭😭😭😭😭😭
そういや彼が日本の大学院の受験料を払うために私は二度ほど自分のクレカを使わせている。中国のカードじゃだめだから。
情けは人のためならずとはこのことか。
でもできれば彼が私と一緒に出廷しなくていいように、裁判前の和解を望む。
増えてく味方のありがたさ
思えば、今日一日だけでも、私は棗荘のルフィかよってぐらいに色んな人が味方になって助けてくれた。
特に若者、仲裁のところにいた実習生たち。
なんか上司らしい年配女性が来た時も何言ってるかわからんかったけど、若者たちの中国語はわかりやすかったし、彼らが熱心なんで、受付の人、さらにはその上司まで、けっこう親身になってくれた。
そんなわけで、人生初の裁判と出廷は中国となる可能性大。
どうなるかはわからない。
なにせこんなことは前代未聞なのだ。
大学では日本語科はかなり冷遇されてきた。
クラスは減らされ、新入生もとらなくなった。
英語科と差をつけられ、学生が悔し泣きするのも見てきた。
私だって英語の外教とはだいぶ扱われ方違うし同志だ。
でも今回、外教で初めて権利を主張したのが日本人の私であることで、彼らはさらに卑屈な思いをさせられないだろうか。
心配だ。
今度四年生になる学生たちに害はないだろうか。
そのことも非常に心配だったが、労働仲裁ではこう言われた。
「裁判になったのはあなたのせいじゃありません。大学の耽误(無駄な時間の引き延ばし)です」
まあ、確かにその通り。
私はもうすぐ帰国だし、引き延ばせば何もできやしないと思ったのか、それとも夏休みだから無視なのか。
いずれにしても私には頼りになる味方が多く、大学の引き延ばしを許さなかった。
大学はドスの有能さも見抜けず、私の性格もわかっちゃいない。

別にヤンキーじゃないんだが、確かに私は子どもの頃から相手が誰でも「それおかしいだろ!」と一人でも言うタイプではあった。
そして元来素直なので、納得できる答えが得られれば、わりとあっさり引き下がる。
その答えをくれなかったのは大学だ。
でも今も裁判前に納得できる形で終結するならば、それが一番とは思う。リスクも顧みず通訳を買って出てくれた学生を晒したくはない。
ほんとこの日だけでも翻訳こんにゃくがあれば……。
弁護士に頼んだ方が、勝率高いのかもしれないけど、私は闘いたいんじゃない。やるだけやったと自分で自分に言えるかどうか、それだけだ。
だから、法廷に立つなら、せめて自分の言葉で、自分の権利を主張したい。
最後に大学に報復したいからじゃない。
これこそがこの10年の私の集大成であり、自分を大事にすること、自分に受け取る許可を与えること、そのテストだって思ってる。
お金も時間もどっちも大事
本来高額な書類作成をしてくれたドスだが、私のお礼も受け取らない。
私としては、ドスが法律の知識を身につけてきた時間や労力を無償で利用させてもらうような真似ができないってことで書類作成費用を支払いたかっただけなんだが、ドスは「友だちとしてできることをしたかった」と言う。
ゆいたんも同じ。鼻毛も鼻毛なりにAI駆使して色々調べてくれた。
結局金銭的なお礼を受け取らないなら、私も彼らに時間をかけよう。
とりあえず、ドスとは羊数える約束。


ゆいたんも今の仕事で悩みは多い。

鼻毛はポエムの合間にたまにおもしろいことも言う。

くだらない話も含め、私が学生たちとの交流に使ってきた時間は、思わぬ形で返ってきた。私は人という豊かな財産を築いてきたのだ。
でもさらにもう一歩と思っているのは、「私はお金で価値を受け取ってもいい」ということだ。
どうしても、直接的なお金より、物や労力や時間のほうが受け取りやすかったり与えやすいってブロックがあったように思う。
でもお金も時間も本当に同価値なのだとしたら、それを受け取ることへのブロックもはずすべきだ。
だからこその訴訟である。
結果はともかく、私自身が私はお金を受け取っていいと宣言するために。
あとは大学がどう出るかだ。
人事を尽くして天命を待つ。
やるだけやったら果報は寝て待て。
今まさにそんな心境。
追記
仲裁のあと、また銀行に行った。
心配していた係の女性に「書類は無事受理された」と伝え、カードの期限切れと、日本から引き落とした時に銀行凍結しない手続きがしたいと相談。
結局窓口のお兄ちゃんが何言ってるかわからなかったが、録音させてもらったし、そのお兄ちゃんも個人連絡先くれた。
銀行カードは一ケ月延長手続きしてくれるらしい。
8月には別の卒業生たちが会いにくるから、その時銀行も一緒に行ってくれるという。
なんかほんといい人ばかりで助かる。
そういう人が困ったときにすぐ助けになることしたいし、大判振る舞いしたりもしたい。
だから、やっぱりお金はあっていいものだ。
銀行、仲裁、裁判と、関係ないようでテーマが一つのような気がしている。
「私は豊かさをお金でも受け取っていい」
私が闘う相手は大学というより自分自身ということだ。
アイスと雷雨
自分を労うためにアイスを食べてたら雷雨。

近所だったので少し濡れる。
局地的な雷雨だったらしい。
長い一日の終わり。
本当はもっと心落ち着かなくなってもいいはずの裁判決定なのに、色々な人の優しさに対して感謝が溢れている。
ありがとう。
