台湾の行政院(内閣に相当)「ジェンダー平等会」に訊く、アジアNo.1ジェンダー平等実現への取り組み
2025年11月、白河桃子さんが主催された日本からの視察団「台湾のジェンダー平等を学ぶ旅」が来台され、私はそのコーディネートを担当させていただきました。なかでも行政院ジェンダー平等会への訪問レポートを、視察団の皆さま、行政院ジェンダー平等会の許可を得て、日本語版と台湾華語版の二言語で公開します。許可をくださった皆さま、ありがとうございました。
行政院のジェンダー平等会を訪問
「台湾のジェンダー平等を学ぶ旅」のハイライトが、台湾の行政院(内閣に相当)に設置されている「ジェンダー平等会」への訪問でした。
オードリー・タンさんに教えていただいて以来、私自身もずっと日本に向けてご紹介してきた組織ですが、実際の訪問は今回が初めてでした。
日本から視察に参加された皆様
◼現地でのご参加(50音順)
・白河桃子さん(昭和女子大学・千里金蘭大学客員教授)
・高山健司さん(一般社団法人WE-Next共同代表、西部ガス・カスタマーサービス株式会社 顧問)
・塚本薫さん(株式会社 きらり.コーポレーション代表取締役)
◼オンラインでのご参加(50音順)
・岩田智子さん(熊本県議会議員)
・森澤恭子さん(品川区長)
行政院ジェンダー平等会からのプレゼンテーションーー台湾におけるジェンダー平等推進の取り組み
「行政院ジェンダー平等会」は、関係省庁、非政府組織(NGO)、専門家、学者らを招いてジェンダー平等について議論する場で、行政院内に組織された「ジェンダー平等処」により運営されています。(「会」と「処」の違いにご注目ください。)「ジェンダー平等処」のメンバーは、行政院に所属する公務員。異なる省庁が連携し、中央および地方自治体におけるジェンダー主流化の実施状況のモニタリングを行い、政府全体の政策にジェンダーの視点が取り入れられ、ジェンダー平等が実施されることを促すための組織です。
今回訪問した行政院内の会議室では、「ジェンダー平等処」の皆さんが出迎えてくださいました。副処長ほか、ジェンダー主流化、ジェンダーの多様性と人権、女性の職場関連、APECなどの国際交流など、担当者の方々です。

2012年に設置された「行政院ジェンダー平等会」
◼設立:2012年
◼前身:行政院婦女権益促進委員会(1997-2011年)
◼主なミッション:
・ジェンダー平等に関する基本的な政策、法案、計画、報告書および関連する施策について統合、調整、協議および審議。
・ジェンダー主流化に関する政策、計画、戦略について協議・検討する。
・国連で定められた「女子差別撤廃条約(CEDAW)」の国内施行法、及び関連措置を推進・モニタリングする。
・各機関・機構におけるジェンダー平等メカニズム促進を調整・モニタリングする。
・主要なジェンダー平等問題に関する議題の統合、調整、改善について議論する。
◼組織体制:
・行政院長が召集人
・行政院副院長が副召集人
・政務委員 1名(執行秘書)
・機関首長 10〜14名
・社会専門スタッフ 7〜9名(外部スタッフ)
・ジェンダーや婦女団体 7〜9名(外部スタッフ)
※任期は2年、任期満了後も継続可能。
※外部スタッフの合計は18名。
※「行政院ジェンダー平等会」全体のうち、特定のジェンダーが占める比率が1/3を超えてはならない。
「行政院ジェンダー平等会」はタスクフォース、事前協議会議、委員会会議という、三つのレベルによって運営されています。
会議は4ヶ月ごとに開催され、提案はまずタスクフォースで審議・検討され、可決された場合には上のレベルで審議されます。
タスクフォースはジェンダーの議題によって下記の6つに分かれています。
①就業・経済グループ(労働部)
②教育・メディア・文化グループ(教育部≒日本の文科省に相当)
③衛生・福祉・家庭グループ(衛生福利部≒日本の厚労省に相当)
④人身の安全グループ(内政部)
⑤国際・公共参加グループ(外交部)
⑥環境・エネルギーとテクノロジーグループ(国家科学と技術委員会 National Science and Technology Council)
「女性の権益回復」から「ジェンダー平等」へ
※会議では年表が紹介されたのみでしたが、筆者が補足しています。
◼1997年
・行政院婦女権益促進委員会の設立
・「性侵害犯罪防治法」の交付(1月22日)
◼1998年
・「家庭暴力防治法」の交付(6月24日)
◼1999年
・財団法人婦女権益促進発展基金会が登録され運用開始(3月6日)
◼2002年
・「兩性工作平等法(ジェンダー労働平等法)」の施行
◼2005年
・「性騷擾防治法(セクハラ防止・取り締まり法)」の交付(2月5日)
・行政院が「ジェンダー主流化実施計画」を開始
・憲法の改正により、比例代表の国会議員の女性比率を明文化(クオータ制導入)
◼2007年
・「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約 Convention on the Elimination of all forms of Discrimination Against Women、CEDAW(セダウ)」に加盟(2月9日に総統が加入書にサイン)
◼2011年
・CEDAWの施行法(台湾が独自に定めた台湾の法律「消除對婦女一切形式歧視公約施行法」(女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約の実施法といった意味、2011年6月8日制定・公布、2012年1月1日施行))
・「ジェンダー平等政策ガイドライン(性別平等政策綱領)」制定(12月19日)
◼2012年
・「行政院ジェンダー平等会」及び「行政院ジェンダー平等処」の設立(1月1日)
◼2019年
・「司法院釈字第748号解釈施行法」施行(5月24日)により、アジア初の同性婚姻が合法化された
◼2022年
・“性暴力犯罪を防止する4つの法律”ーー刑法、「兒童及少年性剝削防制條例(児童・青少年性的搾取防止条例)」、「犯罪被害人權益保障法(犯罪被害者等の権利利益の保護に関する法律)」「性侵害犯罪防治法(性暴力犯罪防止・取り締まり法)」ーーの改正案が立法院を通過(3月10日)。デジタル性暴力事件の頻発を抑制し、被害者の権利を守る内容(参考:台北地方検察署)。
・「跟蹤騷擾防制法(ストーカー行為および嫌がらせ防止法)」施行(6月1日)
◼2024年
・“ジェンダー平等三法”ーー「性騷擾防治法(セクハラ防止・取り締まり法)」「性別平等工作法(職場での性や性的指向による差別を禁止する法律)」「性別平等教育法(教育の場に性教育、ジェンダー教育、感情教育を導入する法律)」ーーが改正され、全面施行(3月8日)。
◼2025年
・「ジェンダー暴力防止・取り締まり国家行動計画(性別暴力防治國家行動計畫2025-27年)」の制定(3月6日)
台湾におけるジェンダー平等の重要政策
1.「ジェンダー平等政策ガイドライン」(2011年)
2011年に制定された「ジェンダー平等政策ガイドライン(性別平等政策綱領)」の説明がありました。以下、説明された内容は実際のガイドラインに掲載されているものです。
◼政策目標
(一)意思決定への参加におけるジェンダー平等の促進
女性のエンパワーメントと発展を促進し、リーダーシップを強化し、政治、国政、公共の分野における女性の参加の道筋を拡大し、ジェンダー平等の意思決定参加メカニズムを確立し、恵まれない層の参加機会を増やすことで、権力、意思決定、影響力におけるジェンダー平等を推進する。
(二)就業と福祉の両面から女性の経済的エンパワーメントの促進
雇用と福祉の資源を統合し、女性の労働力参加を促進し、ジェンダーに配慮した職場を創出し、職場におけるジェンダーによる分離や賃金格差を縮小し、労働力における女性の尊厳と価値を守り、混合式経済体制を推進し、女性の起業と技能構築を支援することにより、女性の経済的エンパワーメントを強化し、女性の経済的安全を保障する。
(三)ジェンダー平等な社会文化の構築
全国的にジェンダー平等と多文化尊重の意識を醸成し、ジェンダー平等の価値を認識して積極的に行動し、あらゆる分野におけるジェンダーの固定観念、偏見、差別を排除し、ジェンダー平等教育制度を整備し、教育や職業におけるジェンダーの分離を避け、多様な家族の権利を重視し、ジェンダー平等な社会文化を構築する。
(四)ジェンダーに基づく暴力の根絶
ジェンダーに基づく暴力の予防と取り締まりのための効果的なネットワークを構築し、ジェンダーに基づく暴力の予防と取り締まりに対する意識啓発を強化し、被害者に対する差別をなくし、被害者の権利と利益の保障を実施し、ジェンダーに配慮した社会と司法環境を積極的に構築し、新たなジェンダーに基づく暴力を予防および取り締まるための法律と措置を研究・改善し、安全で安心な生活環境を創出する。
(五)ジェンダー平等なヘルスケアの提供
ジェンダーに配慮した公平な健康、医療、ケア政策を制定し、ジェンダーフレンドリーな医療・ケア環境を積極的に推進し、ジェンダーに対する固定観念が心身の健康に及ぼす影響を排除し、女性が普遍的に生殖に関する健康権を享受できるようにし、医療・ケアのプロセスにおける自主性を重視し、ライフサイクルの各段階におけるさまざまなジェンダー向けの統合的な心身の健康情報とサービスを開発して、ジェンダーに配慮した保健医療および家族支援サービスを提供する。
(六)ジェンダーに基づいた環境、エネルギー、テクノロジー発展の実施
環境、エネルギー、テクノロジー分野における女性の参入と発展を促進し、ジェンダー格差を縮小し、意思決定への女性の参加を確保する。ジェンダーに基づくイノベーションを推進し、科学研究、技術製品開発、気候変動適応・緩和策、都市空間・交通計画設計へのジェンダー視点の取り入れを強化し、さまざまなジェンダーの人々の基本的ニーズに応え、資源の公正な配分と社会の持続可能な発展を促進する。
◼六大核心領域
(一)権力、意思決定、影響力
(二)就業、経済、福祉
(三)教育、メディア、文化
(四)人身安全と司法
(五)健康、医療、ケア
(六)環境、エネルギー、テクノロジー
2.ジェンダー主流化の6大ツール
ジェンダー主流化のために実施されていることが紹介されました。
ジェンダー主流化(Gender Mainstreaming)とは
「ジェンダー主流化」は、国際社会で過去20年以上推進されてきました。ジェンダー主流化は戦略であると同時に価値観でもあり、台湾ではあらゆる政府の計画や法律にジェンダーの視点が取り入れられ、意思決定前に異なるジェンダーへの潜在的な影響が分析されることを目指しています。これにより、政府のリソースの配分において、異なるジェンダーの人々が社会参加、パブリックアフェアーズ、そしてリソースへの平等なアクセスを確保することが可能となり、最終的には実質的なジェンダー平等が達成されます。
以下が、紹介された内容です。
ジェンダー平等メカニズム
ジェンダーの視点を業務に取り入れるのをサポートするため、外部からジェンダー平等の専門家を招いて委員会を結成する。
ジェンダー統計
ジェンダーを軸にした統計指標は、政策のあらゆる側面において、異なるジェンダーの人々が置かれた状況を適切に反映し、意思決定を支援することができる。
ジェンダー影響評価
ジェンダー影響評価(Gender Impact Assessment、GIA)は、ジェンダー主流化を実施するためのツールの一つ。政策立案者が様々なジェンダーの人々の状況をより明確に把握し、期待される成果を設定することで、ジェンダー格差を改善するとともに、政策や計画、法案がその立案から実施、モニタリングと評価、事後レビューとアドバイスといったあらゆる段階において、ジェンダーの視点が組み込まれることを目的に用いられる。
ジェンダー意識の養成
ジェンダー主流化研修を通じて、公務員は様々な分野の政策面に関わるジェンダー問題を理解し、特定することができ、ジェンダーに対する感受性を高めることができる。
ジェンダー分析
異なるジェンダーの人々の間の地位、立場、役割、責任の違いを示し、リソースの使用とコントロールの状況を理解することで、政府の政策が異なるジェンダーの人々に対する影響を理解することができる。
ジェンダー予算
政府の予算編成プロセスにジェンダーの視点を取り入れることで、資源の合理的な配分を促進する。
3.台湾におけるCEDAW
「行政院ジェンダー平等会」がかなり力を入れているものとして、国際条約CEDAWの実施というものがあります。
1979年に国連で採択された「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(CEDAW)は、女性の人権に関する重要な条約であり、189カ国が締約しています。台湾は2011年に「消除對婦女一切形式歧視公約施行法」(女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約の実施法)」を制定することでCEDAWを国内法として成文化し、2012年1月1日に施行しました。
台湾は2009年にCEDAW国家報告書の国際審査を初めて実施して以来、両条約、子どもの権利条約(CRC)、障害者権利条約(CRPD)といった人権に関する条約の国際審査を受けてきました。台湾は国連の審査形式や基準を学ぶだけでなく、独自のローカル審査体制を構築し、国際的な専門家を招いてCEDAW国家報告書の審査を行い、同時に台湾のNGOたちが参加できる空間を広げてきました。
CEDAWからは2026年に5回目の国家報告書の国際審査を受ける予定であり、これで台湾はこれまでで最も多くの国際審査を実施した条約締結国になります。3回目の国家報告書の発表後には、中間審査会議が設けられ、学者、専門家、民間団体が共同でプレビューと意見交換を行いました。官民の対話の場が設けられ、そこで出た結論を効果的に追跡することができています。
2009年から4年ごとに作成された国家報告は、すべて「行政院ジェンダー平等会」のウェブサイトで公開されています。
4.2023年「ジェンダー平等三法」の改正
2023年5月に再熱した#MeToo運動によって後押しされ、ジェンダー平等三法が改正され、2024年3月8日に全面施行されました。これによって暮らしのさまざまなシーンにおけるセクハラや性差別、性暴力を法律で明確に防ぎ、取り締まることができるようになったとの説明でした。

ジェンダー平等三法
・「性騷擾防治法(セクハラ防止・取り締まり法)」
=公共の場所など
・「性別平等工作法(職場での性や性的指向による差別を禁止する法律)」
=職場
・「性別平等教育法(教育の場に性教育、ジェンダー教育、感情教育を導入する法律)」=学校キャンパスなど、教育の場
その他、(時間がない中で)言及されたトピック
女性の労働参加率は安定して成長中、ジェンダー格差は徐々に縮小中
2023年の段階でのデータ
・男性の労働参加率は67.05%で、2013年と比較して0.31pp上昇
・女性の労働参加率は51.82%で、2013年と比較して1.36pp上昇
女性と男性の労働参加率の差は2013年の16.28ppから2023年には15.23ppに縮小するなど、年々縮小している。

過去20年間、中高年女性の労働参加率は大幅に上昇
過去20年間、女性の労働力参加率は、15~19歳と20~24歳で教育水準の上昇に伴う就学期間の長期化によって低下または微増した以外、すべての年齢層で大幅に上昇傾向を示した。
・50~54歳は22.17pp、45~49歳は20.8ppと、最も高い上昇率
・中高年女性の労働参加率は大幅に上昇
・30~34歳でも20pp上昇
・女性の労働参加率は30歳以降徐々に低下するが、低下率は鈍化傾向

平均男女賃金格差は、米国、日本、韓国よりも低い
・2023年の男女賃金格差は15.1%で、2022年の16.3%から1.2pp減少
・OECDの発表によれば、台湾の男女賃金格差は中程度で、米国、日本、韓国よりも低いものの、ベルギー、ノルウェー、デンマークなどの北欧諸国、ニュージーランド、オーストラリア、英国よりも高い
・台湾では、2025年の男女同一賃金達成日は2月27日
(男性と同等の賃金を得るために、女性はさらに58日多く働く必要があるということを示す)

子育てしやすい職場環境づくり
・2009年5月から、父母を問わず申請できる育児休暇手当が各種社会保険に導入され始めた。
・2021年7月1日から、育児休暇の最短申請期間が30日(従来は6ヶ月)に緩和され、父親の申請が促進された。また、6ヶ月間の育児休暇手当は、被保険者の給与の60%から80%に引き上げられた。
・育児休暇中も給与の20%が支給され、育児休暇手当と合わせると被保険者の給与の最大80%までがカバーできる。
・2022年「産前検診有給休暇」、「産前検診立会い、出産立会い有給休暇」の日数が増加。
・2025年9月に導入が決定された「フレックスタイム育児休業制度」が2026年1月1日から実施され、日単位で申請できる育児休暇(二年間で30日以内、両親で合計60日以内の申請ができる。うち6ヶ月間は給与の8割を支給)、時間単位で申請できる家庭ケア休暇(年間56時間)が認められるようになったほか、従来の私用休暇も時間単位で柔軟に申請できるようになった。(年間56時間)→詳細

このほか、公立の託児施設の増設も進めている。
ジェンダー平等三法の改正に対する市民の意識調査
2024年度に実施された電話による市民調査の結果、89.1%の市民が「政府が2023年にジェンダー平等三法を大幅に改正し、加害者の処罰を強化し、被害者の権利保障とサービスを完備し、専門的なセクハラ防止体制を確立し、セクハラの発生を減らしている」に対して同意を示した。

(行政院「2024年性別平等觀念電話民意調查」調查報告(調查日期:2024/4/19-4/23))
同性婚についての調査
・2019年5月24日に台湾が同性婚を合法化して以来、2024年末までに全国で3万2千126組の同性パートナーが婚姻届を提出(男性9,796人、女性22,330人)
・2023年1月19日以降、パートナーの出身国が同性婚を認めていない場合でも、台湾で婚姻届を提出できるようになった。2024年度の統計では外国籍と台湾籍の同性婚姻は504人が登記を提出(男性203人、女性301人)。2022年の128人と比較すると4倍に成長した

行政院が実施している電話での年次民意調査によると、同性婚法の施行以来、同性婚者の権利に対する市民の理解度は大幅に向上していることが分かっている。

上記資料、グラフ左から:
・「同性パートナーには合法に婚姻する権利がある」と答えた人の割合
2018年 37.4% → 2024年 69.1% 31.7pp上昇
・「同性パートナーらも養子を迎える権利がある」と答えた人の割合
2018年 53.8% → 2024年 76.9% 23.1pp上昇
・「トランスジェンダーも自らの心地よい格好で学校に行ったり職場で仕事することができる」と答えた人の割合
2018年 58.6% → 2024年 77.2% 18.6pp上昇
台湾のジェンダー平等における今後の課題
最後にシェアされたのは、台湾のジェンダー平等の六大核心領域において、今後の課題にどういったものがあるかということでした。
(一)権力、意思決定、影響力
・閣僚、政務人員、大法官といった公共部門の主要な意思決定職におけるジェンダーバランスは、依然として改善の余地がある。
・上場企業における女性取締役、ならびに農業・漁業協会における女性理事・監事の女性割合は、男性に比べて著しく低い。
(二)就業、経済、福祉
・女性の労働参加率と平均給与は男性と比べて著しい格差がある。
・育児休暇の申請は女性が多い。
・家事におけるジェンダーの役割分担が固定化している。
(三)教育、メディア、文化
・「男性は理系、女性は文系」といった学術分野におけるジェンダー分離は徐々に改善されつつある。
・修士号および博士号取得における女性割合は年々増加しているが、さらなる増加の余地がある。
・オンラインメディアや文化的儀式においては、ジェンダーのステレオタイプが依然として存在する。
(四)人身安全と司法
・デジタルにも実社会にも、ジェンダーに基づく暴力の事例は増加し続けている。
・セクハラや性的暴行の被害者の大多数は女性である。
(五)健康、医療、ケア
・新生児のジェンダー比の不均衡。
・女性の平均寿命は男性より長く、健康状態が悪い場合でも男性より長生きする。
・妊産婦死亡率の上昇。
・人工生殖法と代理出産をめぐる論争。
(六)環境、エネルギー、テクノロジー
・職業におけるジェンダー分離が、賃金格差の重要な原因である。
・環境や公共空間におけるジェンダーフレンドリーな環境は、依然として改善や最適化の余地がある。
・ジェンダーに特化したイノベーションを活用し、ジェンダー視点を強化するための研究開発を奨励すべき。
意見交流
残り時間では日本側の皆さまから質問が投げかけられました。
(熊本県議会議員の岩田智子さんは所用のため退席)

写真左側:行政院ジェンダー平等処の副処長。
白河桃子さん(昭和女子大学・千里金蘭大学客員教授)からのご質問
白河さん「私は日本で内閣府男女共同参画局の委員を務めたことがありますが、日本では男女のことと、LGBTQの方々のことが別々に扱われています。台湾では一緒に扱われているのが良いなと思ったのですが、どうやったら一緒に扱えるか、アドバイスはありますか」
回答①「台湾でも、ジェンダー平等を推進する以前は、女性の権利に重点が置かれていました。そこで私たちが気付いたのは、”女性の権利の多くがそもそも認識されていない”ということでした。例えば、家事労働の多くを女性が担っていたり、女性の就業率という課題もそうです。女性が家庭で育児や介護を負担することが就業に影響していましたし、職を得た後も、就業定着率や昇進に課題がありました。
そうした権利を主張するとき、女性が女性の権利を主張するだけでは、他の多くの人々が参加することができないことに気が付いたのです。そこで2012年にこの『行政院ジェンダー平等会』が設立された際、女性の権利回復からジェンダー平等にテーマを拡大し、複数のジェンダーを包含することで、さまざまな人々が参加できるようにしました。
今日ご紹介したように、職場や学校における人身の安全は、女性だけが抱える問題ではありません。より広い視野で多様なジェンダーをインクルージョンしていくことを目指しています」
回答②「私からも補足させていただきます。ジェンダー平等における政府の各省庁の連携について、台湾では主に2つのアプローチを採用しています。
一つ目は制度的なものです。この『行政院ジェンダー平等会』は、実際にはワーキンググループレベル、事前会議レベル、委員会レベルの3つのレベルに分かれています。異なるレベルの会議に異なる複数の省庁が参加します。この仕組みにより、政府内の省庁横断的な業務を調整することができています。
二つ目は、ジェンダー平等における重要議題を設定することです。これらの課題は複数の省庁にまたがる事項であり、私たちはより上位の政策の枠組みを用いることでこれら重要議題を整理し、公表しています。その後、各省庁が重要議題に対して自分たちの省庁での取り組みを決めていきます。
このようにして縦割りの省庁の組織を超えてジェンダー平等に取り組んでいるのです」
白河さん「以前、オードリー・タンさんが紹介されていた、ジェンダー比率を公開するプラットフォームが素晴らしいと思いました。日本の国会議員に向けて、日本もこの仕組みを導入しようと提案したこともあります」
回答「このプラットフォームは現在も運営しています。現在500項目ほどの重要なジェンダー統計が集まっており、クロス検索も可能です」
▼プラットフォームに関する詳細はこちら
森澤恭子さん(品川区長)からのご質問

森澤品川区長「四つ質問させてください。まず、日本では、ジェンダー平等が推進されるなか、“女性によって地位が脅かされている”と感じる男性もいます。台湾では、そうした男性からの様々な懸念をどのように受け止め、理解を得ているのでしょうか。
第二に、同性婚に関してですが、日本では伝統的な家族の価値観が依然として根強く残っており、反対意見も多いです。台湾はこの状況にどのように対処しているのでしょうか。
第三に、日本では男性の家事や育児への参加が奨励されており、関連制度も整備されています。しかし家事分担に関しては、ステレオタイプが根強く残っており、克服したり変えたりするのは簡単ではありません。台湾はこの点にどのように対処しているのでしょうか?
第四に、台湾のジェンダー平等会のような組織は非常に重要だと思いました。海外には他にも同様の組織はあるのでしょうか?」
回答①「ご質問いただいたような状況は、どれも社会構造や文化が生み出すもので、台湾にも存在します。まさにジェンダー不平等そのものです。台湾の行政院が推進する一連の動きの中で、ジェンダーのステレオタイプとジェンダー差別の撤廃を重要政策に位置付けているのはそのためです。
各省庁や地方自治体、家庭や学校から社会、宗教的な監修から風俗的な習慣といったあらゆる側面におけるジェンダーステレオタイプや差別の撤廃を目指し、行政院からのトップダウン型の政策アプローチで推進しています。
女性だけでなく、男性の参加を促すことに取り組んできたのも重要な焦点です。そして現在、私たちが最も重視しているのは、教育とアドボカシー活動を通して、一般市民の暮らしに影響を与えることです。
台湾には、そのために中心的な役割を果たす重要な法律がいくつかあります。例えば、学校教育においては「ジェンダー平等教育法」、職場においては「ジェンダー平等工作法」があります。こうした法律や政策を通じて、政府機関が講じるべき様々な措置を包括的に実施しています。
家事分担は、現代社会で働く女性にとって、仕事と家庭の両立を困難にする大きな要因となっています。台湾では、女性の家事分担の実態を把握するため、定期的に調査を行なっています。
以前は女性と配偶者の家事分担の量の差が3倍もありましたが、最新の調査ではその差が大幅に減少していることが明らかになっています。
政府も家事分担の重要性を訴えることを業務に組み込むよう指導しています。さらに行政院は毎年電話調査を実施し、家事は主に女性の責任であるかどうかを含め、市民のジェンダー平等に対する認識の変化を把握しています。長期的な観察で得た調査結果から、台湾における家事分担の認識に関するジェンダー格差が徐々に縮小していることが分かっています。
私たちは引き続き、様々な分野における家事分担の推進と固定観念の撤廃に取り組んでいきます。今後は、男性の参加の重要性を強調することに重点を置き、根本的な社会構造的要因に取り組むことでこの現象を変えていきたいと考えています」
回答②(多様性担当者より)「台湾では、2019年5月に同性婚姻を合法化する法案が成立しましたが、同性婚合法化の主張や、反対意見はそれ以前から存在していました。政府は同性婚への反対意見に対して、ヒアリングや説明を繰り返し、差別や偏見を取り払おうとしてきました。また、同性婚が合法化された際にも不安に感じる人々もいましたから、公教育や政府内での教育訓練にも、同性婚についてやLGBTQの人々の権利についての内容を取り入れました。
2019年には、EUと台湾でLGBTQの権利の保障についての意見交換会が行われました。
先ほども紹介があった通り、台湾政府が行った電話での民意調査で、「同性パートナーには合法に婚姻する権利がある」と答えた人は、2018年の37.4%から、2024年には69.1%まで上昇しています。
「同性パートナーらも養子を迎える権利がある」と答えた人の割合は、2018年の53.8%から2024年には76.9%まで増えています。
同性婚法案通過後、台湾では同性婚をしたパートナー同士が養子をもらうことのできる法律を追加したり、外国籍のパートナーと結婚できる法律も成立しました(参考日本語記事)」
回答③「台湾には、私たちのように台湾のジェンダー平等推進を担う政府の専門組織のほか、ジェンダー平等というよりは、もっと具体的な権利や概念を推進する団体が数多く存在します。台湾では、民主的な参加体制を用いて、政府、民間、そして専門家からなるワーキンググループで協力しようと考えているため、政策を推進する際に、国民の声を政府に届けることができます。
他の国にも同じような体制があるかどうかは分かりませんが、台湾はワーキンググループを作って民間の参加を求め、効率よく民間の声を政府に取り入れるようにしています」
高山健司さん(一般社団法人WE-Next共同代表、西部ガス・カスタマーサービス株式会社 顧問)からのご質問

高山さん「私は福岡でジェンダー平等による女性の活躍やD&I推進を行なっているのですが、高齢者の中にあるジェンダーの固定的役割の認識が依然として強いように感じています。どのようにしていけば良いか、何かアドバイスがあればお願いします」
回答「そのようなジェンダー・ステレオタイプは社会や文化の変化に根ざしており、台湾も同じ問題に直面しています。私たちが毎年実施している電話での民意調査から、年齢と教育水準の2項目に傾向が見出されました。高齢者や教育水準の低い人は、一般的にジェンダー平等に対する理解が低いことが示されたのです。これらの調査結果に基づき、関係機関に対し、教育・啓発活動を推進する際、この層に重点を置くよう指導しました。これは私たちの主要な優先事項の一つです。生涯学習や高齢者教育など、様々な年齢層への教育を推進する教育部(日本の文科省に相当)などの関係機関が、特に、比較的高齢層を対象としたジェンダー問題に関するコミュニケーションを強化することが期待されます。
また、ジェンダー概念の受容を高めるための広報活動においては、この層への適切なアウトリーチ(筆者補足:専門家や関係機関が一般社会に対して教育普及や啓発活動等の働きかけを行う活動、あるいは公的機関や文化施設などによる地域への出張サービスのこと。出典:Wikipedia)により、具体的な啓蒙を行っています。その層の人々が通常どこで活動しているのか、どのように情報を入手しているのかといったことを参考にしています。
例えば、行政院は、短編動画を使った5部構成のプロモーションを実施しました。孫を持ちたいと考えている高齢者にとって、娘より息子を好むという伝統的な考え方に固執しないことが大切だと訴えるような内容も盛り込まれました。こうした共感性の高い動画コンテンツは、ジェンダー観の変化を徐々に受け入れるための指針となるでしょう。
結婚式や成人式といった文化的慣習に関する意識改革にも、かなりの努力が払われています。特に結婚式は、伝統文化にジェンダー不平等が内在することもあります。内政部はハンドブックを制作し、これらの慣習の意味について新たな解釈を提示しました(「民眾向行政機關引用CEDAW指引及案例(民眾版)」p13「第5條:改變性別刻板印象與偏見 5-2 文化、習俗與社會觀念」)。
例えば、結婚時に両親に別れを告げることはこれまで育ててくれたことに対する感謝の気持ちを表すことであり、女性と家族とのつながりを断つことではありません。こうした情報は、私たちの日々のアウトリーチ活動において重要な資料として活用されています。
▼ 下記は筆者による補足資料(行政院で案内されたものではありません)

「結婚的女兒潑出去的水?!」
台湾の結婚における伝統的な儀式
(一)水をかける:花嫁を乗せた車が出発する際、花嫁の家族が水をかけます。これは元々、花嫁が永遠に夫の家族となり、結婚を固く誓うことを象徴する慣習でした。しかし、後に「嫁いで行った娘は、出て行った水である」と拡大解釈され、花嫁が家族との縁を切ることを意味するようになりました。
(二)扇を投げる:花嫁を乗せた車が出発する際、花嫁は車から扇を投げ、弟や妹に拾わせます。これは少女時代の気まぐれな怒りの感情を夫の家族に持ち込まず、貞淑な妻としての役割を果たすことを意味する慣習です。また、扇を投げる行為は、花嫁が旧姓を捨てることを表しているという解釈もあります。
「結婚的女兒潑出去的水?!」をGoogle翻訳したもの
私たちはジェンダー平等に関するさまざま講座やアドボカシー活動(筆者補足:政治的、経済的、社会的なシステムや制度における決定に影響を与えることを目的とした、個人またはグループによる活動や運動。出典:Wikipedia)を推進しています。例えば、教育部がコミュニティ大学(筆者補足:日本の公民館のような場所)にジェンダー教育をするための補助金や、内政部が行っている宗教団体への補助金制度は、こうした団体が高齢男性、特に退職した男性と関わりを持つ可能性が高いと考えているためです。そのため、私たちはこれらの団体をジェンダー平等推進活動に含めています。
これらのチャネル以外にも、私たちはアドボカシー活動にCEDAW(女子差別撤廃条約)の精神を取り入れることの重要性を強調しています。CEDAWが唱える重要な概念に、これは女性に特別な特権を与えることではなく、長年にわたるジェンダー不平等を是正する取り組みであるというものがあります。つまり、私たちは過去の不平等な状況について話しているだけで、男性にとってこれは脅威ではなく、不平等が徐々に改善されていると感じてもらえるのです。
例えば、私たちが最も頻繁に遭遇する対立は、意思決定への参加におけるジェンダー平等に関するものです。例えば、組織の意思決定者の少なくとも3分の1を女性にすることを求めるとします。しかし、「女性を3分の1にすることを義務付けることは、女性に特権を与えることだ」と捉える人もいるかもしれません。そこで私たちは、CEDAWの概念を用いて平等を推進します。以前は、意思決定層における女性比率が3分の1未満、あるいは10%に満たないこともありました。そこで私たちはCEDAWの概念を通して“是正的なアプローチ”であることを強調し、男性に「これは特権ではないこと、特権どころか平等すら達成されていない状況であること」を理解してもらいます。
もう一つ、ジェンダー平等の利点を強調することで、様々なジェンダーの人々にもこの運動への賛同を促していくことができます。例えば、現在の労働力不足と女性労働者の増加は、国の競争力と経済発展に有益です。また、ダブルインカムで家族の収入が安定するため、家庭にとっても有益になり得るのです。私たちは、ジェンダー平等を推進することが男性と女性の双方に利益をもたらすだけでなく、社会と国全体にも利益をもたらすということを強調しています」
塚本薫さん(株式会社 きらり.コーポレーション代表取締役)からのご質問

塚本さん「私は、日本の行政の方たちと一緒に仕事をする民間企業の立場です。台湾で官民連携を成功させているポイントがあれば、教えてください」
回答①「まず、政府は国民の声を重視しています。例えば、行政院ジェンダー平等会において、政府と民間はほぼ半々の人数で、対等な立場にありますから、政府は市民の声を聴くことができます。こうした体制より、社会の民衆たちは政府が自分たちの提案を検討し、解決に向けて努力してくれると信じられるようになりました。また政府は、民間団体の活動支援にも主に金銭的な補助を投入しています。政府のリソースが不足する場合には、民間団体が支援を行い、政府は民間団体に対して補助金や人員などの資源をサポートする、こうしたパートナーシップが存在します。もう一つ、最近花蓮の洪水で被災した地域に多くのボランティアが訪れて話題になりました。台湾ではこうした自発的な取り組みが非常に強く、これは草の根の力と言えるでしょう。(参考日本語記事)」
回答②「私の個人的な見解ですが、行政院ジェンダー平等会や、その前身である行政院婦女権益促進委員会が設立された背景には、当時、選挙や政務委員などの意思決定層に、女性があまりにも少なかったことがあると記憶しています。民間の女性団体らが、女性の権利を強化し、政府の政策に影響を与えたいと考え、声をあげたたからこそ、行政院婦女権益促進委員会や行政院ジェンダー平等会が設立されたのです。そして、それらの委員会で民間代表委員に選出されると、団体の代表者は提案を提出することになり、その提案を通すため、一定数の署名が必要となりました。こうして、それぞれの団体はお互いの提案を支持する同盟を結成するようになったのです。この同盟は、政府の政策への影響力を高めること、そして団体間の戦略的同盟関係を構築することを目的としていました。
彼女たちは、自分たち民間団体が互いに連携せず、意思疎通や調整をしなければ、政府側は誰の意見に耳を傾けるべきかを見失い、結局何もしないことを選択することを危惧しています。彼女たちは、政府の政策が停滞することを望んではいないので、民間団体は互いに連携しているのだと思います。
私たちはお互いの合意形成に向けて議論を行い、行政院ジェンダー平等会の体制を通じて解決策を見出すことで、台湾のジェンダー平等政策を前進させています」
以上、この辺りで時間がオーバーしてしまったので、白河さんより最後の挨拶で終了しました。


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