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初めての「文学」はロックから始まった

文学とか文芸って何だろう。

即答できる中学生っているのかな。
僕は関東郊外のベッドタウンでゴロゴロしていた平凡な中学生だった。
同じクラスの橋本さんって女の子を毎日眺めて「すげぇ可愛い・・」とぼんやりしたり、同じクラスの平木と「俺たちでもグーパンチを顔にお見舞いしたら痛いのかな」とお互い試しで殴りあってしてた。
グーパンチの結論だが、確かに顔は痛い。それよりも鍛えてないこぶしはむちゃくちゃ痛いと学んだ。

そんなアホ中学生に文学文芸の意味なんて分かるわけがない。
本はそれなりに読んでいた。
小3の頃、怪人二十面相を学校の図書室で読み耽り、先生に早く帰れと言われた時の窓の外の暗さ。あの闇の中には怪人二十面相が絶対にいる。確信して半べそではなく、大泣きながら誰もいない校舎を走り、信号はすべて無視し、足をもつれさせながら帰った。
中学に入り、父の本棚にある北杜夫とか開高健とか柳田邦夫とか、芥川龍之介を適当に読んでいた。芥川はまだ生きていて自分の名前を賞にしちゃうヤバイ奴だと思っていた。
(読んでいた芥川が新版だったのか、本がきれいだったからかも知れない)

文学とか文芸とかそんな意味自体考えたこともなかった。

音楽は聴いていた。
夜のヒットスタジオとかザ・ベストテンとか。
中森明菜に怒られたらマジでやべぇなとか平木と話していた。
「グーパンチじゃないよな」
「蹴りだな」
「平手のほうが絵になるんじゃね?」
「ナイフは?」
「お前、刺されたいの?」
「小泉今日子にニコッと刺されるならそれでいい」
「お前にはついていけない」

そんな中に現れたのが尾崎豊だった。なんだかうっとおしいほど暑苦しい、いや、熱い。今まで聞いたものとは明らかに違う。

でも、一つ引っかかる詩があった。

校舎の影 芝生の上 すいこまれる空 幻とリアルな気持 感じていた

「卒業」尾崎豊 

いきなり情景が浮かんだ。サボった男の子が校舎の芝生に寝転んで自分の行き末をぼんやりと思う。でもそこは学校の中。
で、引っかかるの。これ、どっかで読んだ。

不来方のお城の草に寝ころびて 空に吸われし十五の心

石川啄木

親父の本棚だったか、教科書か。どっかで目にした気がしたんだ。
尾崎豊と石川啄木。同じ世界観だよ、これ。
たぶん尾崎はこの歌の世界観をなぞったんだ。
石川啄木は明治。石川啄木の世界が尾崎を通じて僕の目の前に現れたのだ。
石川啄木と尾崎豊と僕はその時つながった。

僕も啄木と尾崎と同じように芝生に寝転ぶことにした。
しかし公立中学に芝生なんか無い。おまけに学校で寝転ぶのは気恥ずかしい。なので近所の公園の雑草の上で寝転んだ。
見た目にはわからなかったのだが、草の下には前の日の雨ががっつり溜まっていた。学ランがぐちゃぐちゃになって終わった。

それから日本のロックの「詩」に興味をもった。でもあそこまで表現力豊かなものはなかなかない。
平木が僕にテープを渡した。
「これ、聞きにくいけど、おもしろいぞ」

やがて若くてきれいな君の夢も アンティークなリズム色奏で始める

「COME SHINING」佐野元春

昔のピンナップは壁から外して捨ててしまった

「NEW AGE」佐野元春

めちゃくちゃかっこいいじゃん。
佐野元春のアルバム『VISITORS』。
メジャーレーベル系ミュージシャンとしては初となる日本語を取り入れたラップと言われている。

これは比喩表現ってやつか。啄木も尾崎もそうだったのか。
比喩表現ってやつは人の心に「くさび」みたいなやつを打ち込むのか。
さらに燦然と輝くフレーズが僕の前に現れた。

鋼のようなWisdom 輝き続けるFreedom

「Young Bloods」佐野元春

鋼のようなWisdom(知識)を打ち破るのは、輝けるFreedom(自由)が必要なのか。それとも、鋼のようなWisdomを得なければ、輝き続けるFreedomにたどり着けないのか。
たぶん後者なんだろう。

もう、ザ・ベストテンには戻れない。
高校生になっていた俺は一週間、通学一時間「鋼のようなWisdom 輝き続けるFreedom」とブツブツつぶやきながら学校に行った。
これがどのような意味なのか、100%確信はもてない。でもそれを一週間想像できるフレーズとはいったい何なのか。

もしかしたら、これが文学ってやつか?悲しいことを悲しいっていってもそりゃ文学じゃねぇ。たぶんそうだろ。たぶん。
僕の初めての文学が窓を開けた気がした。

読む本が少し変わった。
既に読んでいた開高健の小説を読み直す→→開高健になんか似た雰囲気のヘミングウェイ→→ヘミングウェイといちゃいちゃしたり絶交したり忙しいスコット・フィッツジェラルド→→フィッツジェラルドが大好き村上春樹→→村上春樹が若かりし頃経営していたジャズバーに足を運んだ村上龍。
彼らが醸し出す表現の世界にどっぷりハマる。
そしてみんなkeep questionだった。先人が作りだしたもの、そして自分が作り出したもの、全てにkeep question。

この世界に生まれて「世の中と合わないな」って感じたら、キミは新しい何かを創造するために生まれたってことなんだ。

プリンス

しびれるだろ、創作界隈。
史上最強の天才ミュージシャン「プリンス」が言っていることは僕が読んだキレキレの小説家と同じスタンスだ。音楽も小説も文学に変わりはない。
今の何かに違和感を感じてそこから想像力を駆使して生み出すものは文学だ。小説も短歌も俳句も詩、エッセイ、脚本、漫画、ありとあらゆる創作物、そして「歌詞」。

ポピュラー音楽のソングライターこそが現代の詩人だと思っています。

ザ・ソングライターズ 佐野元春

僕は地下鉄サリン事件に遭遇した。幸いにして被害は受けていない。何本か遅かった。その僕が乗った地下鉄千代田線が国会議事堂前の駅に入る前に車掌さんがアナウンスで吠えた。
「窓を閉めてください、窓を閉めてください!」
駅のホームにオレンジ色の防護服がいくつか動いている。車窓一枚隔てたそこは僕らの想像をはるかに超えた異世界があった。
世界を友とする様な、世界に寄りそう様な、そんな粒子を一切寄せ付けない「のっぺり」としたものだった。

サリン事件のオウム真理教を取材した村上春樹がこのような意味の話をしている。

小説を読んだことはありますか、と聞くとだれ一人読んでいなかった。

簡単になんか言えない事だけど、様々なことを示唆している気がする。

結局のところ、周りにどれだけ良くしてくれる人がたくさんいようとも、僕らは暗夜を一人で歩くしかないわけですよ。その暗闇の中のわずかな、ほんのわずかな光が文学ってやつなんだろうな。

夜の闇に打ち放つ 僕らの銃声は
見えない壁を一瞬で突き破ろうとして
街にただ 響いただけ

「夜明け前」スガシカオ





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