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ミック・ジャガー83歳、追いかけていないイエモンが続くだけで安心する|自キュン96

あなたは、新曲もライブも確認していないのに、
好きだったものが続いているだけで安心したことはありませんか。

「いつでも戻れる」「今は見ていない」
「でも、なくなるのは困る」。
好きでいることは、追い続けた量だけでは測れないのかもしれません。

2009年、心理学者のジェイ・デリックらは、
お気に入りのテレビ番組が、登場人物との疑似的な関係を通じ、
所属している感覚を支える「社会的代理」の可能性を示しました。

ならば、長く見ていないバンドや漫画が開き続けていることも、
触れていない時間まで帰る場所を守ってくれるのでしょうか。

今回の主人公は、田島 朋美(43歳)。

ミック・ジャガーが83歳になるという記事をきっかけに、
吉井和哉がライブで語った「もう一生解散しません」という言葉を思い出します。

少し、彼女の夜を覗いてみましょう。



「ミック・ジャガーって、何の人だっけ」

「そこから?」

朋美が電話で尋ねると、大学時代からの友人は呆れた声を出した。

「ストーンズでしょう。ローリング・ストーンズ」

「そうだと思った。83歳の記事が出てきたから」

「イエモンが好きだった人の確認とは思えないな」

「私にとっては、ストーンズの人というより、吉井和哉が近づいていく先の人なんだよ」

スマートフォンには、ステージに立つミック・ジャガーの写真が表示されていた。八十代まで歌い続ける姿を見ても、自分がそこへ至る道は想像できない。何歳で何を始め、どこを鍛え、何を諦めなければ、あの地点に立てるのか。人生のロードマップとしては遠すぎた。

それでも、吉井の姿を間に置くと、少しだけ距離が縮まる。

「復活したあと、吉井さんが言ってたんだよ。もうイエモンやめねぇから、みたいなこと」

「みたいなこと?」

「言葉は正確じゃない。でも、ライブの動画。民放ではなかったと思う」

検索すると、2016年のさいたまスーパーアリーナで語った「THE YELLOW MONKEYはもう一生解散しません!」という記録が見つかった。

「これだ」

「十年前じゃん」

「十年たっても安心する」

「そのあとの新曲、聴いてる?」

「追ってない」

「ライブは?」

「行ってない」

「YouTubeで検索は?」

「今日までしてない」

並べられると、ファンと名乗る資格を一つずつ失うようだった。再結成を喜んだのに、再結成後の活動へほとんど参加していない。売上にも再生数にも貢献せず、ときどき思い出したときだけ、昔好きだった曲へ戻る。

「じゃあ、何に安心したの」

朋美は答えようとして、リビングの端に積んだ『ONE PIECE』へ目を向けた。実家を出てから読まなくなり、自分の中の物語はヤマトが出る少し前で止まっている。結末を知らないまま終わるかもしれないのに、ゲームセンターのフィギュアやニュースでネタバレしないよう、今も目をそらしてしまう。

「ほぼ日と同じなんだと思う」

「急に糸井重里?」

「ほぼ日刊イトイ新聞。いつでも開いてるけど、全然見てない。たまに思い出して開くと、やっぱり好きだなって思う」

「店に入らない常連みたいだね」

「そう。入らないけど、閉店したら困る」

「困るって、何が?」

「もう戻れないでしょう」

言葉にすると、ようやく安心の正体が見えた。新しいものをすべて受け取る場所ではなく、昔の自分が知っている入口を残してくれる場所。イエモンも、ほぼ日も、『ONE PIECE』も、朋美が見ていない間に先へ進んでいる。それでも終わっていなければ、今日から追うかどうかを自分で選べる。

「見ない自由は、開いている場所にしかないんだよ」

「閉じたら、見ないじゃなくて見られないになるから?」

「たぶん、それ」

デリックらの研究はテレビ番組を対象とし、お気に入りの番組を思い浮かべることが、孤独感や関係を脅かされたときの反応を和らげる可能性を調べた。イエモンや漫画を追わない行動へ、その結果をそのまま当てはめることはできない。

ただ、実際に会う関係だけが所属感を作るわけではないという見方は、朋美の安心を考える手がかりになる。好きだった作品や場所が続いていることは、毎日訪れなくても、自分が戻れる世界の一部を残してくれる。

「でも、ファンからしたら都合がよすぎない?」

「誰に許可をもらうの」

「ちゃんと追ってる人」

「その人たちはその人たちで、現在のバンドを支えてる。朋美は昔の自分が帰れる場所として好きなんでしょう。同じ好きじゃなくていいんじゃない」

「解散したときは、終わったと思ったんだよ」

「実際、終わったでしょう」

「うん。だから、戻ってきて『もう一生解散しない』って言ったのが、すごく安心した。もう一度好きになり直せじゃなくて、見てなくてもここにいるから、みたいに聞こえた」

朋美はライブ動画を再生した。若い頃に記憶した吉井より年齢を重ねた声で、観客へ「人生のBGMとして仲間に入れてください」と呼びかけている。

「やめねぇって、すごいよね」

「何が?」

「続けます、より逃げ道がない。うまくいくとも、毎年新曲を出すとも言ってない。ただ、やめないって決めてる」

その宣言の先にも、活動できない時期や病気、変化はある。続けるとは、同じ速度で走り続けることではない。止まったように見える期間があっても、帰る場所を閉じないことなのかもしれない。

朋美には、83歳の自分が何を作っているのか想像できなかった。デザインを続けているのか、この文章を書いているのか、まったく別の仕事をしているのかも分からない。

「私には、もうやめねぇって言えるものがないな」

「今、無理に決めなくていいでしょう」

「ミックはどうやって83まで来たんだろう」

「一日で83になったわけじゃないよ」

「当たり前のこと言った」

「でも、ロードマップってそういうことでしょう。83歳の姿から逆算すると遠すぎるけど、今日やめないことなら決められる」

電話を切ったあとも、朋美は新曲を検索しなかった。代わりに、昔いちばん聴いた曲を一曲だけ再生した。十年前の宣言を知ったからといって、急に勤勉なファンになる必要はない。

曲が終わると、次の動画へ移る前に画面を閉じた。

明日も開くとは限らない。それでも、次に思い出した夜にも同じ入口がある。そのことだけで、朋美は少し安心して眠れた。

次の話では、やめたいのに日課へ戻される呪いを。

この話では、新曲もライブも追っていない女性が、ミック・ジャガーの83歳と吉井和哉の宣言を通して、好きな場所が続いているだけで得られる安心を確かめました。

次の話では、ドラクエウォークをリリース日から続ける女性が、新しいおばけ退治を知った瞬間、また攻略情報を確認して日課へ戻るまでを描きます。

ドラクエウォーク7年目、柴Pの生霊に日課を増やされている|自キュン97

https://note.com/yagiwooo/n/n7566a9795708



あとがき

新作を追っていないのに、続いていてほしいバンド、漫画、サイト、店はありますか。「ファンと名乗るほどではないけれど、なくなると困る場所」があれば、コメントで教えてください。

ミック・ジャガーが83歳までステージに立ち、THE YELLOW MONKEYが再集結後に活動を続けている。追いかけていなくても終わらないことに安心する感情は、社会的代理や所属感の観点から考えられます。

今回の学術メモ

Derrick, Gabriel, Hugenberg(2009)は、好みのテレビ番組が所属感を支える「Social Surrogacy Hypothesis」を四つの研究で検討しました。本稿ではテレビ番組についての結果をバンドやウェブサイトへ直接一般化せず、「好きな文化的対象が利用可能であることが安心を与える」という物語上の手がかりとして用いています。

制作メモ(公開前に削除)


#自キュン #ミックジャガー #THEYELLOWMONKEY #音楽 #心理学


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