書評|『アメリカの時計』アーサー・ミラー全集5 ――就職氷河期世代に読んでほしい
観劇から2年たった今も、折にふれて思い出す舞台があります。
アーサー・ミラー作『アメリカの時計』です。
初見では複雑で難解に感じました。
なにしろ登場人物が膨大なうえにストーリーらしいストーリーがなく、途中で眠くなってしまったことを覚えています。
しかし観終わった後はなぜか長く心に残り、今もなお私を励まし続けている作品です。
あらすじ――世界恐慌に翻弄された人々の物語
アーサー・ミラー作『アメリカの時計』は、1929年の世界恐慌に翻弄されたアメリカの人々を描いた群像劇です。
銀行の取り付け騒ぎ、企業の倒産、農民の流浪。アメリカの“夢”はたやすく崩れ去り、人々は日常を生き抜くことさえ困難になっていきました。
その混乱の中で描かれるのが、二人の主人公です。
主人公のひとり、リー・ボームは高校生。
父親の事業が傾いたため大学進学をあきらめ、働きに出ます。
修理工、蒸気船の船員、ガイドブック作成の仕事――。
何度も失業の憂き目にあいつつ、必死に次の職を探して働き、やがて念願のジャーナリストへと歩みを進めていきます。
もうひとりの主人公は、実業家のアーサー・ロバートソン。
恐慌の混乱を利用して巨万の富を築きますが、冷酷な守銭奴ではなく、周囲に警告を発したり慈善活動に力を尽くしたりする一面も。
善悪で割り切れない登場人物たち。
音楽と読書を愛した母、破産した父、転落した投資家達、農民や執事――。
リーの同級生の将来も様々です。
大学に進学で来た友人は最終的に自殺しました。
一方、家賃を免除してもらうために大家の娘と交際を始めた友人は、彼女と幸せな家庭を築きます。
彼らが必死に生き抜いた時代を、50代になったリーが静かに回想していきます。
リーと私――就職氷河期の記憶
私がこの舞台に惹かれるのは、リーの姿に自分を重ねてしまうからかもしれません。
リーが高校生のころ世界恐慌が起きたように、私が高校生のころにバブルが崩壊しました。
リーと異なり私は大学に進学できましたが、卒業時には就職氷河期が待ち受けていました。
景気回復を待とうと大学院に進学したものの、卒業時には状況はさらに悪化。
最終的に零細企業に就職し、紆余曲折を経ながら今は当時目指していた職種に就いています。
リーもまた、進学の夢を断たれながら腐らずに働き続け、自分の道を切り開きました。
私は彼のようにコツコツと実直ではありませんでしたが、リーの姿を見ると、「私もここまでよく頑張ってきた」と救われるような気持ちになるのです。
矢崎広さんが演じる”光”のリー
この物語でリーを演じたのは、俳優の矢崎広さん。
『薄桜鬼』沖田総司や『鬼滅の刃』煉󠄁獄杏寿郎など2.5次元舞台から、『マクベス』の主演、そして『ハリー・ポッターと呪いの子』ロン役まで、幅広く活躍する実力派です。
脚本のト書きには「(50歳代なのに)なんとなく幼さが残る顔立ち」「光の輪のそとに出ていく」とあります。
イケメンなのにかわいらしい言動をする”光属性”の矢崎さん。
まるで当て書きされたかのようです。
実は映画『ストレージマン』で、彼は“光属性の俳優”としてオファーをもらい、出演しています。
そんな彼が演じるリーは、まさに逆境の時代においても光を失わず、周囲を照らす存在。
『鬼滅の刃』で煉󠄁獄さんに抜擢されたのも納得です。
どの作品でも、矢崎さんの演技は私を励ましてくれます。

観劇した日が刻印されています
矢崎さんつながりで『鬼滅の刃 無限列車』のことなど
東條チカさんという漫画家さんが、Xで鬼滅の刃の初見感想をつぶやいています。
昨日は無限列車についてでした。
#寝る前にアニメ鬼滅の刃初見感想
— 東條チカ (@yooochika) August 24, 2025
劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 その3
劇場版本編感想です。
アマプラでもう一度劇場版を視聴しつつ感想を綴っています。
長いので注意👺
※煉獄さんについては前回、前々回の感想で詳しく書いています。
◆アバン… pic.twitter.com/lBcSKqYigO
そこにも書かれていますが、誰しも、チャンスを与えられても活かせなかった経験や、努力しても挫折してしまった経験があると思います。
主人公の炭治郎たちも大きな挫折を味わいますが、煉󠄁獄さん自身もまた、これまでに数々の挫折を経験してきたことが、会話の端々からうかがえます。
映画の公開はコロナ禍の真っ只中。
暗い世相の中で、光属性の煉󠄁獄さんの言葉が人々の胸に強く響いたからこそ、あれほどの社会現象になったのでしょう。
まとめ
『アメリカの時計』は、恐慌によって生活も夢も奪われた人々が、それでも生き抜こうとした物語です。
成功した者もいれば、夢破れた者もいる。
善人も悪人もいない。
ただ必死に“時代を生きた人々”の姿があるだけです。
この物語を読むたびに、就職氷河期世代の私は彼らの苦しみや再生の歩みに深く共感し、自分の人生を励まされるような気がするのです。
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