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森のはずれで薬草店始めました 第一処方#風のちびっこー寝たいのに眠れない時のおすすめ処方ー


森のはずれで、小さな薬草店をはじめた。
棚には、乾かした葉っぱや花。
瓶の中には、名前を覚えきれないくらいの薬草。
窓辺の少し高いところには、大きな黒猫。
いつからいるのかは、よくわからない。
気づいたらいた。

今日も私は、いつものように薬草をすりつぶしていた。

ふわり。

窓から風が入ってきた。
吊るしていた薬草が揺れる。
紙が一枚、ひらりと舞った。
「……ん?」
顔を上げると、
小さな緑色の子がいた。
ほんとうに小さい。
私の手のひらにも乗れそうなくらい。
葉っぱを重ねたような服を着て、
髪まで風に揺れている。

「これなに?」
「え?」
「これは?」
「それは――」
「いい香り!」
「それはね――」
「葉っぱしわしわ!」
「乾燥させてるから……」

もう聞いていない。
次の瓶を覗き込んでいる。
「あれは?」
「あれは――」
「猫ちゃん!」
今度は窓辺へ走っていった。
「おっきい!!」
「…………」

黒猫と目が合う。

「ねぇねぇ!猫さんずっとここにいるの?」
「だいたいいるねぇ」
「なんで?」
「なんでかなぁ?」
「わかんないの?」
「うん。」
ほんとうに知らないのだ。
おばあちゃんから譲り受けた薬草店。
おおきな猫なのに気付いたらいたんだよね。。

「へぇー!」
少し考えて、
「それでいいの?」
「いいんじゃない?」
「ふわふわ!」
もう聞いていない。
……忙しい子だなぁ。


しばらくすると、
さっきまであんなに動き回っていた小さな子が、急にぺたんと座った。
「……疲れた?」
「つかれた!」
そうだろうね。
少し休んでいるのかと思ったら、
すぐに立ち上がった。
そして、また瓶を覗く。
……もう復活。

「そういえば」
私は聞いてみた。
「今日は、どうしてここに来たの?」
小さな子の動きが止まった。
「…………」
「?」
「あ!」
何かを思い出した顔をする。

「眠れない!」

「……それを言いに来たの?」
「そう!」
忘れてたんだ。
「夜になっても?」
「ねむれない!」
「横になっても?」
「ねむれない!」
「ずっと?」
「ずっと!」
そこまで一気に喋って、
また、ぺたん。

「……つかれた」

うん。
見ていて、なんとなくわかった。
身体は疲れているのに、
中の風だけが、まだ走り回っているみたいだ。
私は小さな器を取り出した。
そこへ、オイルをほんの一粒。
「これ、つけてみる?」
「なに?」
「オイル」
「なにするの?」
「ちょっとだけ、ゆっくりする」
「ゆっくり?」
「うん」
小さな手に、ほんの少し。
くるくるとなじませる。
「…………」
「どう?」
返事がない。
見ると、小さな子のまぶたが少しずつ落ちていた。
「眠い?」
「……ねむく、ない……」
そのまま、ふらふら。
窓辺の黒猫のところまで歩いていって、

ぽす。

黒い毛の中に埋もれた。
「…………」
黒猫が小さな子を見る。
しっぽが、ゆっくり動く。
とん。
……とん。
しばらくして、
小さな寝息が聞こえてきた。

「……寝ちゃった」
あれだけ賑やかだった店が、急に静かになる。
私は小さな寝顔を覗き込んだ。
「静かになったね」
黒猫を見る。
「…………」
……猫さん、優しいんだよね。
今日はもう、お店はおしまいかな。

なんだか私まで、眠くなってきた。


翌朝。
店を開けると、
昨日の小さな子がいた。
「おはよう!」
「……おはよう。眠れた?」
「ねた!」
元気いっぱいだ。
昨日より、さらに元気な気がする。
……大丈夫かな。
小さな子は、何かを大事そうに両手で持っていた。
「これ!」

ことん。

カウンターの上に置かれたのは、細い小枝だった。
その先に、銀色の小さな実が三つ。
朝の光を受けると、
銀色の中に、ほんの少し青や紫が混じって見えた。
見たことのない実だった。
「……なに、これ?」
「おれい!」
小さな子は、枝の後ろで胸を張る。
「くれるの?」
「うん!」
「ありがとう」
「じゃあね!」
「え、もう帰るの?」
返事はない。
窓辺を抜ける風と一緒に、
もういなくなっていた。

カウンターに残された小枝を見る。
銀色の実が、朝の光の中で静かに光っている。
「……なんだったんだろう」
窓辺を見る。
「知ってる?」
「…………」
黒猫は、何も答えない。

まあ、いいか。
私は小さな瓶をひとつ空けて、
銀色の実のついた枝を挿した。

少しだけ、不思議なものが増えた。



今日の処方箋



おまけ。

銀色の実を、小さな瓶に挿す。

さて。

今日も店を開けよう。
そのとき。

カラン……

扉が開いた。
「いらっしゃ……ぃ……ませ。」


…………。

え。

かっこよ。


それでは、今日はこのへんで。

また疲れたときには、いつでもどうぞ。
……あ。
次のお客さまが来たみたいです。

いつも森のはずれで、お待ちしています。

-店主-


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