【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈33〉消えた幽霊と浮かんだ犯人
〈33〉消えた幽霊と浮かんだ犯人
その日の夜、理緒は自分への失望と、いつまでも消えない引っ掛かりのおかげで、ぜんぜん眠ることができなかった。そのせいで、翌朝はひどい寝不足だったが、理緒はなんとか起き上がり、寝ぼけた顔でランドセルに荷物を詰めた。
その中に、あの『七つ首学園の怪事件』もあった。理緒は本を手に取った。
「ああ、この本、今日図書室に返さなきゃいけないんだった。」
図書室の貸し出し期間は一週間。理緒が本を借りたのが木曜日で、今日が水曜日だから、今日が返却最終日の七日目なのである。
すべての事件の発端となったこの本。それを返すというのは、名実ともに、理緒がこの事件の捜査から身を引くということを意味する。理緒にはその覚悟ができているつもりだったが、本を見れば見るほど、未練が湧いてくる。そして、あの引っ掛かりが頭の中で甦り、理緒をこの事件から逃すまいと、警鐘を鳴らすのであった。
「ああ!何なんだろ?何かが引っ掛かってるんだけど…分からない!」
理緒はすべてを振り払うように、次から次へと荷物をカバンに入れた。教科書やノートでランドセルが埋まっていく。が、その時、カバンの中に、昨日返してもらったスケッチブックが入っていることに気づいて、理緒は声をあげた。
「そうだ。スケッチブック返してもらったんだった。これは持っていかなくていいや。」
理緒はカバンからスケッチブックを出したが、先生のコメントのことを思い出し、ふと荷物をまとめる手を止めた。
「そう言えば、先生のコメントがおかしかったんだっけ。」
理緒はスケッチブックを開いた。
「うまい!おじいちゃん描いたんだね」
やはりそこには、優しさあふれる手書きの文字で、ただならぬコメントが記されている。
「昨日は、他の人へのコメントを間違えて私のスケッチブックに書いたのかと思ったけど、それはありえないよな。絵のすぐそばにコメントしてるんだから。」
改めて絵を見ても、おじいさん本人はもちろん、おじいさんに見えそうな箇所もぜんぜんない。年老いた猫が、縁側で丸くなっているだけだ。
まるで幽霊のようにあらわれたおじいさん。怖くなった理緒は、何かの間違いではないかと思って、もう一度、先生のコメントをよく眺めた。
「おじいちゃん描いたんだね」
先生のきれいな字が並ぶ。
しかし、そのうちのある文字に理緒は違和感を感じた。そして、その文字をじっと見ていると、ふと、少し前の感覚が甦った。
「あれ?この感じ、なんかに似てるな…」
その時だった。
理緒の頭の中で、何かが弾けたような、ひらめいたような、そんな甲高い音がした。それは、探偵もののマンガやドラマなどで、名探偵が事件の真相を解明した瞬間に鳴り響く、「ピーン!」とか「カーン!」とか「コテリン!」というような、なんとも言葉にしづらい効果音だったが、たしかに理緒の頭の中でそんな音が鳴って、火花が散ったように光が舞った。
「あ!?この字って、もしかして!」
理緒はスケッチブックを手に取り、もう一度、先生の書いた字を見つめた。
「やっぱり!そういうことか!そうだよ、幽霊のおじいちゃんなんていないんだよ。え!?でも、ちょっと待って…ということは…」
理緒の頭は混乱している。本人も何がなんだか、よく分かってない。
「いやいやいや!え?でも…」
しかし、混乱しながらも、理緒の推理は留まることなく先へ先へ進んでいく。
「でも、たしかに、これは、あれと一緒だから、これがこうなってるってことは…」
理緒はあることに気づき、近所に聞こえるような大声をあげた。
「ええ!?」
理緒は頭が真っ白になった。推理が突き進んだ先に、紛れもない真実があったのだ。
「うそでしょ…まさか…」
その時、ずっと「しこり」のように引っ掛かっていたあの謎も一気に解けた。今度は理緒の頭で、「スッパーン!」とでもいうような、とても気持ちのいい音がした。
「ああ!そうだ!ずっと、引っ掛かってたの、そういうことだ!」
理緒の頭の中で、すべてがひとつに繋がった。こんがらかっていた引っ掛かりはみごとにほどけ、今や光輝く一本の糸になって、事件の底に沈んでいた理緒を真相へと導いている。
ただ、その行き着いた真相というのは、理緒にとって、とてもすんなり受け入れられるものではなかった。あまりに衝撃的すぎて、理緒は背中を氷でなぞられたような戦慄を感じた。全身に鳥肌が立った。
「そうだよ…。『七つ首学園の怪事件』の犯人は高橋じゃないんだよ。だとしたら、あの人のあの時の発言は、明らかにおかしいじゃないか。」
スケッチブックが理緒の手からドサリと落ちた。理緒の体は小刻みに震え、目はこぼれ落ちそうなくらい大きく開いている。
理緒は小さく声を漏らした。
「分かっちゃった…ラクガキの犯人…」
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