【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈6〉朝の会で大騒ぎ
〈6〉朝の会で大騒ぎ
担任の友光先生は30才くらいの女の人で、ちょっと厳しいところもあるが、まじめできちんとした性格の、いかにも先生らしい先生だった。小学校なので全ての科目を教えるが、その中でも、とくに国語の授業がおもしろかったのは、本人がかなりの本好きだからである。
「みんな揃ってる?」
ザッと教室を見渡した先生だったが、その時、先生の声をかき消すように、教室の扉がガラガラと開いた。そして、それより遥かにうるさい声で、
「間に合ったー!良かったー!」
と叫びながら、一人の男子が教室に滑り込んできた。
その子は刈りたてのようにキレイな坊主頭で、朝なのに、もう制服のシャツを泥だらけにしている。先生が呆れた声で遅刻少年に言った。
「岡くん、もう朝の会はじまってるよ。」
少年は真顔で弁明した。
「しかたないんだよ、先生!オレ、さっき田んぼでトノサマガエル見つけて、それ捕まえてたんだから。」
「それが遅刻の理由になると思ってるの?」
とんでもない遅刻の理由を申し立て、教室に笑いを巻き起こしたこの岡という男子は、クラスで一番のやんちゃ坊主だった。いるとうるさくてしかたないが、いないとちょっと寂しい、そんな存在だった。
「また、岡くん叱られてるね。」
小春が理緒に笑いながら話しかけた。
「しかたないよ、岡はバカだから。」
理緒も笑った。
だが、教室に入ってくる岡の姿を見た時、探偵である理緒は、岡の不自然な両手を見逃さなかった。岡は、おにぎりを握るみたいに、両手を胸元で丸めているのだ。
「ん?岡のやつ、何か持ってるのかな?」
岡は自分の席に向かう途中、小春の側を通った。両手はやはり握ったままにしている。しかし、その去り際、
「はい、小春。」
と言って、その丸めた両手を、小春の机の上でパッと離した。
岡の手の中から、何かがボトッと落ちた。小春は不思議そうにキョトンとしていたが、理緒には岡の意図が瞬時に分かった。岡は手にあるものを隠していて、それを今、小春の机に落としたのだ。
岡が手にしていたものなんて、名探偵でなくとも、すぐに推理できる。話の流れからして、アレしか考えられないではないか。そう、春になると、どこからともなく田んぼに現れて大騒ぎをはじめるアレである。
小春の机の上で、緑色をしたアレが元気よく鳴いた。
「ケロ!」
そう、カエルだ。あざやかな緑色がいかにも春らしい、立派な雄のトノサマガエルだった。
理緒の推理は的中していた。岡は田んぼで捕まえたカエルを、あろうことか教室に持ち込んだのである。次の瞬間、カエルと目があった小春の悲鳴が、教室に響き渡ったのは言うまでもない。
その後の喧騒も想像の通りである。泣き叫ぶ小春、カエルから逃げ惑う生徒、おもしろがって集まってくる生徒。数分間、パニックは収まらなかった。カエルが「ケロ」と鳴くたびに、教室中が大騒ぎである。
理緒は小春に泣きつかれたので、表向きは彼女を慰めていたが、一瞬で教室を混乱に陥れた岡とカエルの鮮やかな犯行には、正直、舌を巻かざるをえなかった。
「なんてみごとな計画犯罪なんだ!!」
やがて、ようやく騒ぎが収まったあとで、岡は先生にギュウギュウに絞られた。岡はグスグス泣きながら、小春をはじめクラスメイトみんなに謝った。泣くくらいなら、はなからやらなければよいと思うのだが、それはイタズラ好きの性で止められないのだろう。明日にはケロっと忘れて、また似たようなイタズラをするに違いない。
理緒はいつか必ず、岡の犯行を事前に防いでやろうと思いながら、岡の謝罪を何かワクワクするような気持ちで眺めていた。そう、イタズラ犯と探偵は永遠のライバルなのである。
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