【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈26〉あこがれの晴れ舞台
〈26〉あこがれの晴れ舞台
「犯人はおまえだ!鷹羽秀一!」
このセリフを言い終えて、理緒の全身は快感に震えた。推理小説ではお決まりの、探偵が犯人を名指しするクライマックスだ。これこそまさに、探偵にとっての晴れ舞台。すべての探偵マニアが憧れるカッコいいシーンである。
しかも、理緒は形だけを真似ているのではない。自分で事件を捜査し、苦労の末に割り出した犯人を相手に言っているのだ。その喜びは、ひとしおである。
そんな理緒の胸に、この数日のできごとが去来した。思えば、ここに来るまで、とても長い道のりだった。四日前の木曜日、あのラクガキを目にしたその時から、理緒は探偵としての歩みをスタートさせ、人知れず、途方もない苦労を味わってきたのである。
図書室で尾崎に震え上がりながら図書カードを見せてもらったこと。ダニエルとの珍妙な会話。何度も行き詰まった推理。そして、幻の高橋を追い求めた日々。
辛いこともたくさんあったが、この栄誉を思い描けばこそ、理緒は長く険しかった道のりも、あきらめずに歩んで来れたのだ。そして今、その最高の晴れ舞台に理緒は立っている。
さらに、理緒の頭には、まるで映画の予告編のように、数々の名探偵のダイジェスト映像が、吹き替え音声付きで流れだした。
「ムッシュ。あなたの犯行は、このポアロがすべて解き明かしました。」byエルキュール・ポワロ。
「もう諦めたまえ。この帝都に、君のような野蛮人の居場所はないのだよ。」by明智小五郎。
その他にも、先日、理緒に薫陶を授けたホームズやマープルはもちろん、ジッチャンの名にかけた孫とか、真実はいつもひとつの見た目は子供とか、古今東西、名探偵という名探偵が躍動するフィルムが、理緒の頭のスクリーンに続々と映しだされたのである。
映像の探偵たちは、みんなスーパーヒーローみたいにカッコいい。しかし、理緒は小学生ながら、そんな名探偵たちの仲間入りを果たそうとしているのだ。理緒には、それがとても誇らしかったし、このフィルムを見ていると、はじめて犯人に立ち向かう自分の背中を、歴代の名探偵たちが後押してくれているように感じられた。
その万感の思いを胸に、理緒はもう一度、高らかに言い放った。
「犯人はおまえだ!鷹羽秀一!」
古びた放課後の教室に、白々しいまでの理緒の声が響いた。しかし、鷹羽はそう言われてもなお、理緒をふてぶてしい表情で見上げている。
「だから、なんの?」
鷹羽は、犯人と言われ、それがまったく何のことか分からないという様子だった。
当然のことであるが、「犯人はおまえだ」と言われ、潔く犯行を認める犯人なんていない。鷹羽もまた、数々の犯人の例に漏れず、まずは知らんぷりをして罪から逃れようとしているらしい。相手がそう出ることは、もちろん理緒も分かっていた。
理緒はコホンと咳払いをすると、『七つ首学園の怪事件』を取り出し、つとめて冷静に、しかし、相手への威圧は緩めることなくこう言った。
「この本に見覚えがあるでしょ、鷹羽くん?知らないとは言わせないよ。」
鷹羽は本を見て答えた。
「ああ、知ってるよ。『七つ首学園の怪事件』だろ?図書室で借りたよ。」
実物を見せられても、鷹羽はまるで動じない。なかなか肝が座っている。
理緒は、それならばと本の表紙をめくり、「犯人は高橋」という赤い文字を鷹羽に見せつけた。
「そう。あなたはこの本を図書室で借りた。そして、こんなラクガキをしたんだ!」
さらに間髪いれず、理緒は鷹羽を問い詰める。
「これ書いたの君でしょ!」
しかし、鷹羽は罪を認めない。
「知らねーよ。そんなの俺が借りたときにはなかったぞ。」
「まだしらを切るつもり?犯人は、君しかいないんだ。」
「知るかよ。なにを根拠に言ってんだ?」
すると、理緒はその言葉を待ってましたとばかり、口元に不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「ふふ。わたしは探偵だよ。ちゃんと根拠があるんだからね!君が犯人ってこと、これから私が証明してやる!」
いいなと思ったら応援しよう!
小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。