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【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈27〉華麗なる推理ショー?

〈27〉華麗なる推理ショー?

 よく探偵が推理のシーンでやるように、理緒は背中の後ろで両手を組むと、鷹羽の周りを二三歩ずつ右へ左へ歩き回りながら、実にもったいぶった口調で自らの推理を語りはじめた。
「えー、まず探偵の基本として、私はこの本を借りた人間を調べました。借りたのは五人。斉藤・ダニエル・篠原・佐々木。そして、鷹羽。この本は春に入荷した新刊だし、他に本を借りたのは私だけ。だから、ラクガキ犯はこの五人の中にいることになる。」
なかなかスムーズな語りだしだ。探偵小説を読み込んだ成果が表れている。
 ここで理緒はいったん立ち止まり、すこし目を泳がせながら続きを語った。
「それから私は容疑者への取り調べを行いました。その中で、二番目に借りたダニエルくんがラクガキを見てないと言ったので、最初に借りた斉藤さんは容疑者から除外できる。また、四番目に借りた篠原さんはラクガキを見たと言ったので、五番目に借りた佐々木くんも除外できる。ふぅ。」
ここはとてもややこしい部分だ。理緒は間違えずに言えて、ちょっとホッとした。

 しかし、推理にはまだ続きがある。理緒はもう一度、鷹羽の周りを歩きだした。
「私は現場検証の結果、あることに気づいた。それは、ラクガキの「犯」の字が間違っていること。「犯」は獣偏けものへんのはずなのに、このラクガキでは、手偏てへんになってる。これを見てよ。」
理緒は鷹羽の目の前に、本のラクガキを突き出した。
「ほら。ほら。」
鷹羽は鬱陶うっとうしそうに本を振り払いながら言った。
「だからなんだよ。」
 理緒はフッと意味もなく笑い、話を再開する。
「学校で「犯」の字を習うのは小学五年生。篠原さんは六年生だし、ダニエルくんに漢字を教えるほど勉強してる。そんな篠原さんが「犯」の字を間違うわけない。さらに、ダニエルくんは、そもそも漢字が分からない。分からなけりゃ、本も読めないし、あのラクガキだって書けない。これで、篠原さんもダニエルくんも容疑者から除外された。」

 理緒は再び、鷹羽をキッと見据えた。鷹羽は立場の危うさを感じているのか、固く唇を噛んでいる。
「もう何が言いたいか分かったよね、鷹羽くん?本を借りた五人のうち、斉藤さんも佐々木くんも篠原さんもダニエルくんも犯人じゃないことが分かった。だったらもう、一人しか残ってないんだよ!まだ「犯」を習ってない、三年生の鷹羽くん!」

 「犯」の文字を習ってない鷹羽が犯人。理緒はそんな正確無比な理論を展開し、罪を認めようとしない鷹羽をいよいよ追い詰めた。もうこれ以上、言うべきことは何もない。理緒の推理ショーは、ここにみごと完結したのだ。
 理緒は思った。
「この推理にすきがあるもんか。1ミリも議論の余地はないよ。だって他に考えようがないじゃないか。やっぱ、私って名探偵だな!くふふ!」

 そう信じて、あとは鷹羽の降参を待つだけと思ってる理緒へ、じっと黙っていた鷹羽はひとこと、こう言った。

「いや、俺、「犯」書けるし。」

 鷹羽がそう言い終わった時、ちょうど午後四時を告げる鐘が鳴った。西日はいっそう強さを増していた。

 「えっ?「犯」を書ける?」
それは理緒が全く想像してないひとことだった。
「そう。書ける。」
「どういうこと?」
「いや、どうもこうもねーよ…。お前の言うとおり、「犯」を間違えて書くやつが犯人だとして、なんでそれが俺になるんだ?俺、「犯」書けるんだけど。」
 理緒は混乱しながらも、なんとか、ほつれかけた理論の糸を結び合わせた。
「でも、君、三年生でしょ?「犯」習ってないじゃん。」
「習ってなくても書ける奴いるだろ。」
理論の糸は、あっさり切れた。西日が容赦なく理緒の顔を照らす。

 思わぬ反撃に合い、一瞬うろたえた理緒だったが、犯人によるこのくらいの言い逃れは日常茶飯事だ。正義を貫くためには、こんなところで相手に言いくるめられてはいけない。
 理緒は冷や汗まじりに言った。
「でも、他に犯人はいないんだよ。本を借りてない人にはラクガキできないし。図書室の係りの尾崎さんは借りずに読めたかもしれないけど、彼女、六年生だから「犯」間違えないだろうし。うちのクラスの岡は、たしかにイタズラ好きだけど、そもそも本読めないし。それに…えーと、えーと。えー、それに、君、なんか犯人っぽいし…」
 鷹羽は最初、理緒の言うことを黙って聞いていた。しかし、だんだんあきれたように頭をいたり、眉間みけんにしわを寄せたり、あげくの果てには、しきりに溜め息をもらすようになった。

 「それに、私は正義を貫くべき探偵として…」
理緒が苦し紛れにそう言った時だった。それを遮るように、鷹羽が声をあげた。
「あのさぁ、ひとついいか?」
「なにさ?」
「おまえの言うこと意味わかんないし、もう俺を犯人と決めつけてるみたいで、何言っても無駄だろうから、もう、そう思いたいなら、そう思っとけばいいよ。ただな、おまえ、根本的にひとつ分かってないことがあるから、俺が教えてやるよ。」
理緒はムッとした。年下のくせに、なんとも生意気な態度である。

 そんな理緒のイラ立ちなど気に止めず、鷹羽は言った。

「『七つ首学園の怪事件』の犯人、高橋じゃないぞ。」

目次〉〈次回

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山田星彦 小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。