【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈28〉撃沈の新人探偵
〈28〉撃沈の新人探偵
「『七つ首学園の怪事件』の犯人、高橋じゃないぞ。」
理緒の推理ショーを一瞬で終幕させるほどに、鷹羽のそのひとことは、あまりにも衝撃だった。理緒はオウムみたいに、鷹羽のセリフをそのまま繰り返すことしかできなかった。
「『七つ首学園の怪事件』の犯人が…高橋じゃない?」
鷹羽は顔色ひとつ変えずに言う。
「そう。高橋じゃない。」
いったいどういうことなのか。理緒には全く信じられない。
「そんな!うそでしょ!」
「ほんとだよ。」
「でも、ラクガキに「犯人は高橋」って書いてあるじゃん!?」
「知るかよ!とにかく、高橋じゃねーんだよ!」
「そんな、バカな…」
もし、鷹羽の言うことが本当なら、これは事件が根底から覆るような重大事実である。しかし、理緒にはどうしても、鷹羽が苦し紛れの言い逃れをしているようには見えなかった。理緒は自分の足元がガラガラと崩れ落ちていくように感じた。
鷹羽はランドセルに次々と荷物を詰め、留め具をパチンと閉めた。そして理緒に言った。
「お前、この本ちゃんと読んでないだろ?俺はちゃんと最後まで読んだから、高橋が犯人じゃないって知ってる。もし俺がラクガキの犯人なら、「犯人は高橋」なんて書かねーんだよ。真犯人の名前を書くからな。」
鷹羽はカバンを背負って立ち上がると、理緒をその鋭く小さな目で見据えた。
「おい、おまえ。さっきから探偵みたいに推理披露したり、正義のヒーロー気取って偉そうなこと言ってるけど、人を犯人あつかいする前に、肝心の本くらいちゃんと最後まで読め。バーカ。」
そう言って鷹羽は歩きだし、理緒に一瞥もくれることなく、教室の外に消えていった。
取り残された理緒は、呆然と呟いた。
「犯人が、高橋じゃない…?」
理緒はまるで時間が止まったみたいに、しばらくその場から動けなかった。
「うそでしょ…」
太陽はもう、山の陰に沈みかけていた。
そんな理緒が家に帰ったのは、それから何十分もたってからだった。鷹羽がいなくなり、一人ボーッとしているところを教師に促され、トボトボと帰路についたのだった。
帰宅後、自分の部屋に入った理緒は、カバンから『七つ首学園の怪事件』を取り出し、1ページ目から読みはじめた。
物語は、カッコいい高橋の登場にはじまる。と言っても、高橋は頭や見た目が良いだけではない。教師の横暴に意見したり、親友の土田をいじめから守ったりと、とても正義感の強い男なのである。
そして、タイトルにもあるように、ほどなくして学園で奇妙な事件が巻き起こる。事件はいくつか立て続けに起き、学校中が不安と混乱に包まれるのだが、やがて、高橋の親友である土田が、他の生徒たちから犯人疑惑を持たれるようになる。犯行現場に彼の所有物が落ちていたのだ。土田は気が弱く、自分は犯人ではないと強く否定できないでいるうちに、生徒たちはだんだん彼に対する疑惑を強めていくのだった。
みんなが土田を追い詰め、いよいよ彼が無実の罪を着せられそうになった時、物語は急転直下、あの高橋が犯行を自白する。これには土田も含めて、みんな驚愕した。あの正義感の強い高橋が犯人とは、にわかには信じられなかったのである。しかし、本人がそう言う以上、それが事件の真相なのだろうということになり、やがて他の生徒たちは、高橋を善人の仮面をかぶった悪人だと断罪し、高橋に猛烈な非難を浴びせるようになるのだった。
理緒は思った。
「なんだ、やっぱり高橋が犯人じゃないか。」
しかし、物語には続きがあった。高橋はたしかに一旦は犯行を自白した。しかし、それにはわけがあった。高橋は、窮地に追いやられた土田を救うため、わざと犯人のふりをしたのである。それは気の弱さゆえに犯行を認めかねない土田を救うための、苦肉の策だった。
その後、高橋は毎日みんなから非難を受けながらも、その裏で、ひとり捜査を進めた。もちろん、真犯人を暴くためである。やがて高橋はある人物が犯人である証拠を突き止めると、その真犯人を逆に追い詰め、とうとう犯行を認めさせた。そうやって、高橋はみごと事件の解決を成し遂げると同時に、自らの汚名も晴らすのだった。
これが、『七つ首学園の怪事件』の筋書きである。子供向けにしては、なかなか手の込んだストーリーだ。
読み終えて、理緒は机に伏した。
「私はなんてことをしてしまったんだ…」
鷹羽の言うとおり、『七つ首学園の怪事件』の犯人は高橋ではなかった。それ自体が衝撃だったが、重要なのは、そのことを知っていた鷹羽が、「犯人は高橋」と書くはずがないということだ。それは鷹羽本人も言っていた。
理緒の目からは、涙が止めどなく流れてきた。
「私はちゃんと本を読みもしないで捜査して、無実の鷹羽くんを犯人あつかいしてしまったんだ。」
『七つ首学園の怪事件』は、まさにこの事件における最重要の証拠品である。理緒はそれを読まずに捜査していたのだ。ちゃんと本を読んでいたら、鷹羽を犯人と誤解することもなかった。理緒は証拠品の調査という、探偵として当たりまえの仕事を怠って、その結果、無実の鷹羽に濡れ衣を着せてしまったのだ。
それに気づいた理緒は、気がふれたように叫んだ。
「こんなこと絶対に許されないよ!どうしたらいいの!?」
冤罪。
その重い罪を背負うには、理緒の背中はあまりに小さすぎた。
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