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【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈29〉ほんものの探偵とは?

〈29〉ほんものの探偵とは?

 自らが犯した罪に打ちひしがれ、しばらく机から離れられなかった理緒だったが、やがて、ふらふらと立ち上がり、床にひざまずくと、探偵小説が並ぶ例の神棚の前に、あたかも懺悔ざんげの告白をするかのように平伏ひれふした。
「私はとんでもないことをしてしまいました。」
 誰しも、最後にすがるのは自分が一番尊敬していた人物なのだろう。理緒は本棚の名探偵たちへ、息も絶え絶えに訴えた。
「探偵さん…私は基本中の基本の捜査を怠って、無実の人を犯人あつかいしてしまったんです。それは許されないことです。」
そう言って理緒は両手を床につき、はらはらと涙を流しながら、名探偵の言葉を待った。
「…」
しかし、本棚からは何も聞こえない。名探偵は沈黙している。
 理緒はもう一度、本棚に向かって叫んだ。
「私は、ろくに捜査もせず、罪のない人を犯人あつかいしてしまったんです!どうしたらいいんですか!?」
「…」
それでも、名探偵は何も言わなかった。

 その時、理緒の耳に、さきほどの鷹羽の言葉が聞こえてきた。白く染まった教室の風景とともに、鷹羽の声が生々しくよみがえる。
「探偵みたいに推理披露。」
「正義のヒーロー気取り。」
「バーカ。」
次々襲いかかってくる言葉に、理緒は耳を覆った。
「ああ!私はほんとにバカだ!どうしようもない大バカだ!探偵のマネがしたくて、鷹羽くんを犯人に仕立てあげたんだ!」
「…」
それでも、本棚からは何も聞こえない。
 それもそのはずである。世界の名探偵たちは、こんな初歩的なミスを犯したりしないのだ。捜査は完璧。推理は百発百中。無実の人を犯人にするなど言語道断。だから、ちゃんと本を読まずに捜査を進めた理緒にかける言葉など、彼らは何ら持ち合わせていないのである。

 理緒はグスッと鼻を吸って、涙をいた。それから立ち上がって、もういちど机に座ると、ここ数日の自分の行動を思い返した。
 本のラクガキを見つけたこと、容疑者に尋問したこと、推理したり、手がかりを探したりしたこと。たしかにその最中、理緒は探偵として、犯人にいきどおり、汗水たらしながら捜査に奔走ほんそうしていた。その行動に嘘や偽りはなかったはずである。
 しかし、それでも理緒は、理不尽な推理でもって鷹羽を傷つけてしまった。
「わたし、探偵として何が間違っていたの?」
理緒は、探偵というものが分からなくなってきた。
「探偵って、いったい何なの?」

 今まで何も考えずに楽しんでいた探偵小説。その主人公である名探偵。頭が良くてカッコいい探偵たちに、理緒はあこがれるだけ憧れてきた。しかし、その探偵とは何なのか、何をする人なのか、そこまで深く考えたことは、ただの一度もなかった。
「探偵って、何なんだろう?何をする人?…頭の良い人?…犯人を捕まえる人?…カッコいい正義のヒーロー?」
たしかにそれは、一見すると正しい探偵の定義に思える。そういう姿にこそ、理緒は憧れた。
 しかし、今の理緒には、どれもどこか違う気がした。というか、今回のことで、違うと分かった気がした。たしかに、探偵が悪人を捕まえることはあるだろう。正義のヒーローとしてたたえられることもあるだろう。しかし、それは結果としてそうなっただけで、探偵そのものに与えられた使命ではない。

 理緒は、しばらく頭を空っぽにして、名探偵たちの姿に思いをはせた。探偵としての彼らの行動を、あらためて思い描いてみた。
 今の理緒の頭に、まっさきに浮かんできたのは、探偵が犯人と対決したり、みんなの前で推理を披露したりするような、そんな英雄的なシーンではなかった。むしろ、今はそんなシーンは思い出したくなかった。
 自然と理緒の頭に浮かんだのは、紳士服をほこりまみれにしながら、屋根裏や地下室を探るホームズだった。あるいは、汚い部屋で、逆立ちしたり頭をきむしったりしながら頭をひねる金田一耕助の姿だった。
 よく考えたら、犯人を追い詰めたり、推理を披露したり、そんな華々しい見せ場は、彼らの探偵業のほんの一部でしかない。ほとんどは、今のホームズや金田一のような、決してカッコいいとは言えない、地味で地道な作業ばかり。しかし、今の理緒には、そんな姿にこそ、探偵の本質が宿っているように思えてならなかった。

 その時、理緒は探偵とはなんなのか、なんとなく分かった気がした。

「真実を追い求める人」

 探偵とはなにか?その答えは、実に単純だが、これしかないと思った。彼らが危険な場所へ平気で入っていくのも、うとまれてまで他人を詮索せんさくするのも、すべて真実を追い求めるがゆえの行動である。
 そこには正義も悪もないし、カッコよくも悪くもない。ただひたすら、真実を明らかにするために、探偵は身をにして捜査や推理に奮闘しているのだ。その姿こそ、本当に見習うべき探偵の姿ではないのか。

 理緒は思った。
「私は間違ってた。探偵は、悪人をやっつける正義でも、カッコいいヒーローでもないんだ。でもわたしは、いつからか、そういうものになりたくなって、それで鷹羽くんを悪人として仕立てあげ、彼をやっつけようと夢中になってたんだ。ヒーローになりたいがために、捜査もちゃんとせず、真実をねじ曲げてしまった。そんなの探偵のやることじゃない。いや、そもそも人として最低だ。」
 理緒は真実というものの重みを、その背中に感じた。
「探偵は私情を抜きにして真実を追求しなくてはならないし、その真実を自分の都合のいいように、ねじ曲げてもいけないんだ。」
 理緒の目に再び涙があふれた。
「なのに、私にはそれが出来なかった。捜査もちゃんとせず、自分の願望のために真実をねじ曲げたんだ。探偵失格だよ…!」

 机に伏し、ひととおり泣きはらしたあと、ひとつの決意が理緒の胸に宿った。
「私がこれから何をすべきかなんて、名探偵に相談しなくても分かることだ。明日、鷹羽くんに謝ろう。」

目次〉〈次回

#創作大賞2023

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山田星彦 小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。