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【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈21〉漢字が導きだす犯人

〈21〉漢字が導きだす犯人

 理緒は『七つ首学園の怪事件』を取り出した。犯行、つまりラクガキが行われた場所は、この本の中にある。まさに、この事件の現場だ。
「なにか小さなことでも、ヒントが見つかるかもしれないぞ。」
 理緒は本の表紙をめくり、再び「犯人は高橋」というラクガキを見つめた。この乱雑な赤い文字は、何度見ても心が痛むし、怒りがフツフツと込み上げてくる。犯行現場には、犯人の邪悪な心が染み着いているようだ。常に事件と向き合う探偵というのは、実に気の滅入めいる仕事である。
 そんなことを考えながら、理緒は虫メガネを通して、「犯人は高橋」というラクガキをのぞき込んだ。赤い色鉛筆の線が、グッと大きく拡大される。文字が一つずつ虫メガネに映し出されて、その丸の中に収まる。理緒は目を見開いてレンズを凝視ぎょうしした。

 すると、いきなりだった。
「おや?」
理緒は、書かれた文字に、そこはかとない違和感を見つけた。
「あれ?この「犯」の字、なんかおかしいな。」
そもそも、ふざけた筆跡で書かれているので、きれいな文字ではない。しかし、上手い下手の問題ではなく、ラクガキの「犯」の字は、どこかおかしい気がしたのだ。
 理緒は、さらにグッと文字に近寄った。そしてすぐに、その違和感の正体を突き止めた。
「あ!犯の「けものへん」が「てへん」になってる!」

 それは、実に微妙な違いであった。そもそも、「犯・狐・狸」などの獣偏けものへんと、「指・打・探」などの手偏てへんは形がよく似ているし、これは乱雑に書かれた文字だから、なおさら判別はつきにくい。
 でも、やっぱりおかしいと思った理緒は、もう虫メガネにまつげが付くほどに近づき、目を何度もパチパチさせて、「犯」の字の一画目に注目した。
「やっぱり、これは手偏てへんだ!一画目の書き方がそうだもん!」
一画目、獣偏けものへんは左下に向かって書くが、手偏てへんは右上に向かって書く。この「犯」の字の一画目は、右上に向かって、はらうように書かれていた。「犯」は獣偏けものへんの漢字なのだから、これは明らかな間違いだ。

 探偵でなければ、この犯人のミスも、ただの覚え違いか、あるいは書き方のクセくらいにしか考えなかったかもしれない。しかし、理緒は捜査において筆跡というものがどれだけ重要か、よく心得ていた。
 理緒はドクドクと心臓が鼓動を打つのが聞こえた。
「これはラクガキ犯が現場に残した手がかりだ…」
興奮で震える虫メガネ。レンズに映し出されるいびつな「犯」の字。その向こうに、真相への道筋がぽっかりと開いたのが、理緒にはハッキリと分かった。
「これは重大な手がかりだぞ!これで犯人が特定できる!」
 「犯」の字を手偏てへんにしてしまう人などそうそういない。これは犯人を絞り込む決定的な証拠になりうる。ついに理緒は、その名に与えられたもうひとつの文字「いとぐち」を、虫メガネを使って、みごとに見つけだしたのである。
 理緒は、何かを悟った修行者のように、カッと目を見開いた。
「ラクガキ犯は、「犯」の字をちゃんと書けない人だ!」

 これまで闇の中に隠れていた犯人のシッポが、ついに理緒の前に姿を現した。捜査は新たな段階に突入したと言っていい。
 しかし、いちど火のついた理緒の推理が、ここで留まることはなかった。理緒は、目の前にちらつく犯人のシッポを、ここぞとばかりつかみにかかった。
 「そうだ!」
理緒は何かを思いつくと、机の引き出しを開け、ホコリをバンバンまき散らしながら中をひっかき回し、その奥から、一冊の子供向け漢字辞典を取り出した。
「これだ!」
 どうやら理緒は、辞典で「犯」の字を調べるつもりらしい。バラバラとページをくって、「犯」の字をその分厚い本の中から探し出した。そして、再びサッと虫メガネをかざして、小さな文字が並ぶ紙面をレンズに拡大した。

 そこには、漢字辞典らしく、「犯」の字の意味や成り立ちが書かれていたが、今、理緒が知りたいのは、そういう情報ではない。子供用の漢字辞典だからこそ記載されているはずのある情報を、理緒は探していたのである。
 「あった!「犯」は小学五年生で習う漢字!」
そう、理緒が知りたかったのは、「犯」を習う学年だ。
「ちゃんと授業で習ってたら、字をまちがって書くはずないんだ。ということは、ラクガキしたのは、「犯」をまだ習ってない人。五年生がもう「犯」を習ったかどうか分からないけど、すくなくとも六年生は「犯」を習ってる。犯人は六年生じゃない!」
理緒は再びメモ帳を見た。

(2年)斉藤・・・・ラクガキなし。難しくて読めず。
(5年)ダニエル・・ラクガキなし。漢字読めない。
(?年)高橋・・・・所在不明
(6年)篠原・・・・ラクガキあり。漢字の勉強好き。
(4年)佐々木・・・ラクガキあり。捜査について相談。

 「ラクガキ犯は、ダニエル・高橋・篠原に絞られてたけど、さらに、篠原さんも除外できるぞ!彼女、六年生だから「犯」を習ってる。それに、あの人、漢字の勉強が好きだって言ってた。字をまちがえるはずないよ!」

 さらに、勢いづいた理緒は、篠原のある発言を思い出し、さらに推理を進めた。
「篠原さんが犯人じゃないとすると、彼女が言ってた「ダニエルくんは一年生の漢字も読めない」というのも本当だろうな。」
たしかに篠原はそんなことを言っていたし、ダニエル自身、あの本は難しくて読めなかったと言っていた。
「一年生の漢字が読めないダニエルくんに、あの本が読めるはずがない。二年生の斉藤さんでも無理って言ってたもん。まして、本のラクガキを漢字で書けるわけがない!ダニエルくんも犯人じゃないぞ!」
 これで、斉藤・佐々木に続き、あらたに條原・ダニエルも容疑者から除外された。漢字が事件を紐解ひもとく大きな鍵となったのである。

 すると、残る容疑者はただ一人。五人のド真ん中に位置する人物だ。
 理緒はメモ帳に記されたその文字をにらみつけた。そこには、ひらがなが八つ並んでいる。理緒はその文字に向かって高らかに言い放った。
「ラクガキを書いたのは三人目の「たかはしゆういち」!犯人はお前だ!」

目次〉〈次回

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山田星彦 小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。