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【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈10〉高橋の意外な一面

〈10〉高橋の意外な一面

 先生への報告も済んだので、理緒は自分の席へ戻ろうとした。しかし、先生はなおも本の表紙を見つめながら、ボソッと思いがけないことをつぶやいた。
「でもね、小寺さん。この本、読まなくて良かったかもしれないよ。」
「えっ?」
それは、あまりにも意外なひとことだった。本が好きで、いつも先生は色んな本を読むよう、生徒にすすめていた。それに、先生はこの本を読んだことがあると言っていたではないか。さっきの懐かしがってる様子からは、ちょっと想像できない発言だ。
 とまどう理緒へ、先生は言った。
「実はね、さっきは小寺さんがこれからこの本を読むと思って言わなかったんだけど、私、この本あまり好きじゃなかったんだ。」
「ええ!?」
理緒は驚くとともに強く興味をそそられた。これはちょっとしたミステリである。

 先生は生徒をしかる時いつもそうするように、鼻から息をフゥと吐くと、眉間みけんにしわを寄せ、眉毛をちょっとハの字にして、「やれやれ」という顔で話しはじめた。
「この小説で起きる事件ね、たしかにラクガキにあるように、高橋って男の子が犯人なんだけど、その高橋がとんでもない男なの。」
「とんでもない男…」
理緒は、「犯人なんだから、そりゃそうだろ」と思いつつ、いちおう先生に話を合わせた。
「そうなんですか?」
 先生はもう一度、鼻から息をフゥと吐いた。
「うん。実はね、この高橋って男の子、はじめは、すごく優しくてカッコいいんだ。」
「えっ!?」
「犯人なのに意外でしょ?高橋は背が高くて、頭も良くてね。それに、イジメられてる友だちを、体を張って助けたりもするんだ。正義感もある人なのよ。」
「そうだったんですか…」
 たしかに、それは理緒にとっても意外だった。理緒は高橋に対し、極悪犯罪者のようなイメージを持っていたからだ。

 先生は続ける。
「だけど、それはみんなおもての顔でね、実は学校で起きる事件は、みんなこの高橋って男の仕業しわざなのよ。裏で悪いことをいっぱいしてたの。それってさ、要するに、みんなをだましてたわけじゃない?」
「た、たしかに…」
「まあ、事件じたいは、物が盗まれたとかその程度のことなんだけどね。それでも、元がマジメな人だと思ってたぶん、私は読んですごく不愉快になったな。読者を驚かせたいのは分かるけど、ミステリだからって、誰が犯人でもいいって訳じゃないと思うんだよね。読者が納得できなきゃダメでしょ?だから、小寺さん、この本読まなくて正解だったかもよ。」

 理緒は、「ミステリだからって、誰が犯人でもいいって訳じゃない」という言葉に、ミステリオタクの痛いところを突かれたみたいで、たいへん身につまされる思いがした。が、すぐに先生の言うことに同意した。
「それはたしかに、そうかもしれませんね…」
「でしょ?」

 なおも自分の前に突っ立っている理緒に、先生が言った。
「どうする?この本。読まないなら、先生が図書室に返しとこうか?」
理緒は我に帰り、あわてて首を横に振った。
「いえ!大丈夫です。自分で返しますから!」
 そう言って、理緒は本を机から取り上げると、足早に自分の席へ帰っていった。
「危ない危ない。貴重な証拠品を失ったら、捜査に支障をきたしちゃう。そんなヘマはしないぞ。」

 理緒は本を大事に抱えながら思った。
「でも、この本について、たくさん情報が得られて良かったな。やはり、聞き込みって重要だ!」
探偵らしいことができて大満足の理緒を、先生は遠くから、可愛い生徒を見守る優しさと、「あの子、やっぱ変な子ね」という不信感が入りまじった目で見つめていた。

目次〉〈次回

#創作大賞2023

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山田星彦 小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。