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【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈25〉暴かれた高橋の正体

〈25〉暴かれた高橋の正体

 それから間もなくして授業は終わり、それと同時に、理緒は教室を飛び出した。
「もしかして、もしかして…!」
理緒は階段を駆け上がり、図書室へ向かう。
「わたしは、とんでもない勘違いをしてたのかもしれない!」

 図書室に飛び込んだ理緒は、はずんだ息を整えることなく、カウンターの向こうに座る尾崎にこう言った。
「『七つ首学園の怪事件』のカード見せてください!」
理緒の剣幕に押された尾崎は、さすがにいつもの冷静な表情を失った。
 そして、
「お願い!確認したいことがあるんです!」
とわめく理緒に言われるまま、本のカードを探し、机の上に差し出した。
 理緒は胸ポケットから虫メガネを抜き取ると、差し出されたカードにサッとかざした。拡大したのはもちろん、その三番目に記された「たかはしゆういち」の文字。理緒は並んだ八文字のうち、その中でも「ゆ」の文字にレンズを重ねた。そして、何かを確信して声を上げた。
「やっぱりだ!微妙に「ゆ」が小さい。これは「ゅ」だったんだ!」

 なんのことかさっぱり分からず、戸惑いながら様子を見ている尾崎に、理緒はカードの「たかはしういち」を指さして、立て続けに聞いた。
「この生徒、知ってる?何年生!?」
尾崎は言った。
「え?ああ、その子、ときどき本を借りに来るよ。たしか三年生だったかな?三年三組。」
 それを聞いた理緒は人差し指を丸めてグーを作ると、その手でドンとカウンターの机を叩いた。
「ありがとう!」
そして、唖然あぜんとする尾崎をおいて図書室を出ていった。

 「廊下を走るな」

 その貼り紙の前を、理緒は全力で駆け抜けた。目指す先はもちろん、三年三組である。
「急がなきゃ!早くしないと、家に帰っちゃう。」
理緒は走りながら考えた。
「私はずっと勘違いしてたんだ。そもそも、あのカードには高橋なんて書かれてなかった。カードに書いてあったのは、全部ひらがなだ。」
 理緒は階段を駆け降り、三年生の教室がある二階へ辿り着いた。
「私は「犯人は高橋」ってラクガキの文字に引っ張られて、それで、ラクガキ犯の苗字までも高橋だと思い込んでしまったんだ。この学校に、高橋なんていないのに。」
 三年三組はこの階の端っこにある。理緒は最後の直線を加速した。
「私は、いもしない高橋を頭の中に生み出してしまったんだ。いないんだから、いくら探したって見つかるはずない。私は小さい「ゅ」を大きい「ゆ」だと思ったあげく、弁慶読みみたいに、区切るところも間違えてたんだ。私はずっと、「たかはし/ゆういち」だと思ってたけど、そうじゃなくて、本当は、「たかは/しゅういち」だったんだ。犯人の苗字は高橋じゃない。「たかは」なんだ!」

 理緒の視界に三年三組の教室が見えた。
「あそこだ!」
理緒は教室の前で急ブレーキをかけると、キュキュッと上履うわばきの底で甲高い音を立てて止まり、勢いそのままに教室の扉をガラッと開けた。理緒は中を見渡した。教室は西日が差して、まぶしいくらいに白っぽい。帰りじたくをする生徒が何人か残っていて、楽しげな笑い声をあげている。
 理緒は弾む息を整えながら、ふと、壁に貼られた習字の作品を眺めた。そこには、「警察官」とか「美容師」など、おそらくは将来の夢を書いたであろう職業の側に、「児玉健太郎」とか「吉川彩」とか、書いた生徒の名前が小さな字で記されていた。
 そして、その中の一枚、あのラクガキと同じくらい汚い文字で書かれた「裁判官」のそばに、理緒は「鷹羽秀一」という名前を見つけた。
「これだ!」
やはり、理緒の推理は的中していた。「たかは/しゅういち」は実在した。漢字で書くと「鷹羽秀一」であり、この三年三組の生徒だったのだ。

 理緒は近くにいた生徒に、
鷹羽たかはくんいる?」
と尋ねた。その子は、
「あの窓際の席に座ってる子だよ。」
と教えてくれた。
「ありがとう。」
 理緒は、窓際に座るその男子生徒の姿を眺めた。その生徒は、男子にしては少し髪が長く、前髪で目が隠れるくらいだった。小さくも鋭いその目は、頭の良さそうな面影をかもし出していたが、鼻や口先は上向きにとんがっていて、いかにもずる賢くて生意気そうな顔をしていた。
「まちがいない。犯人はアイツだ。」
理緒は直感した。

 理緒はツカツカと鷹羽のもとへ歩み寄った。その高らかな足音とはうらはらに、理緒の心臓は破裂しそうなくらい激しく脈打ちはじめた。犯人と対面する。遂に探偵としての最大の山場が訪れたのだ。平常心でいられるはずがない。
 理緒は鷹羽の背後に立った。胸の鼓動は最高潮に達している。このまま何も言わずに引き返してしまいたい。理緒はそんなふうにさえ思った。しかし、犯人を目の前にして逃げ出す探偵など、もはや探偵ではない。ラクガキ犯だって、立派な悪人なのだ。正義を貫くためにも、理緒は鷹羽に立ち向かわなければならない。
 理緒はスーッと呼吸を整えた。そして、キッと毅然きぜんとした表情を眉間みけんに作り、その高鳴る心には、悪に立ち向かう正義の炎を灯した。

 鷹羽の前に歩みでた理緒は、荷物をまとめていた鷹羽の動きを制するように、低くドスのきいた声でこう言った。
「まだ、あなたを帰すわけにはいかないよ。鷹羽くん。」
鷹羽は理緒を見上げた。
「は?なんだよ?」
驚いた様子ではあったが、やはり鷹羽の口振くちぶりは実に生意気だった。いかにも狡猾こうかつな犯人という印象である。
 理緒は、なおも心に渦巻く不安を振り払うように、バッとシャツの袖をはためかせると、理緒を不審そうににらむ鷹羽へ、ビシッと右手の人差し指を向けた。そして、今まで何度も何度も小説の中で読んできたあのあこがれのセリフを、遂にみずからの口から発した。

 理緒は言った。

「犯人はおまえだ!鷹羽秀一!」

目次〉〈次回

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山田星彦 小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。