【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈18〉ふたりの男子の共通点
〈18〉ふたりの男子の共通点
理緒は神妙な面持ちで町中へ歩を進めた。
「必ず犯人を見つけ出してね!」
篠原の言葉が耳に繰り返される。まさかあんなふうに、自分の推理を涙ながらに期待する人が現れるとは思わなかった。
しかし、ラクガキ犯を憎む気持ちは、理緒も篠原も変わらない。心ないイタズラに傷ついた篠原のためにも、必ず、犯人を見つけ出さなくてはならないのだ。理緒の肩には、ずんと重い責任が積まれたような気がした。
理緒は団地から町中へ歩きながら考えた。
「あとは佐々木くんか。」
帰りがけに篠原に聞いたが、やはり高橋という生徒のことは知らないという。そうすると、残る容疑者はクラスメイトの佐々木だけだ。佐々木は駅の近くのマンションに住んでいる。
理緒は歩きながら、ふだんの佐々木のことを思い出していた。佐々木は頭がよく、優しくて、かっこいい男子である。とても、あんなラクガキをするようには思えない。
しかし、まさに『七つ首学園の怪事件』の犯人・高橋がそうであるように、一見、いい人そうに見える人が犯人というのは、ミステリの世界でよくあることだ。
「先入観を持っちゃいけない。佐々木くんにも、ちゃんと話を聞かなきゃな。」
理緒は、いつもの佐々木のイメージを振り払うように、強く足音を鳴らしながら、駅前のマンションへ向かった。
理緒を出迎えた佐々木は、青いチェックのシャツに、白いズボンをはいていた。いつもの制服姿とは違う気軽な服装だが、それでもきちんと清潔感があるのが佐々木らしい。
そんな爽やかな佐々木は、はじめこそ理緒の訪問を驚いた様子だったが、すぐにニコニコ笑いながら尋ねた。
「どうしたの?うちに来るなんて珍しいね。」
「いや、ちょっと聞きたいことがあって…」
理緒は歯切れが悪い。本を借りた一人とは言っても、やはり級友をいきなり容疑者あつかいするのは気が引けるのである。
そんな理緒に、佐々木は冗談のつもりでこんなことを言った。
「まさか事件の捜査?なんでも協力するよ。」
佐々木は言った後も、まさかそうとは考えてなくて、理緒を見ながら笑っていた。だから、
「実は、そうなんだ。」
という理緒の返事に、心底驚いていた。
理緒はカバンから本を取り出し、それを佐々木に見せながら言った。
「この『七つ首学園の怪事件』のことで、ちょっと話を聞きたくて。」
その本を見て、佐々木は即座に反応を見せた。
「あっ!その本!僕が何日か前に借りた本だ。小寺さんも借りたんだね。じゃあ、あのラクガキも見たの?」
やはり、佐々木はラクガキのことを知っていた。前に借りた篠原がラクガキを見ていたのだから、佐々木もラクガキを見ているのは当然だ。
理緒は答えた。
「うん、見たよ。私、そのラクガキ犯を探してるんだ。」
佐々木は腕組みをしながら言った。
「そうだったんだ。そのための捜査なんだね。それにしても、ひどいことする人がいるよね。本にラクガキするなんてさ。それにミステリって、犯人が分かっちゃったら、読む気なんてなくなるよ。あのラクガキ、そういうのを狙ったイタズラなんだろうけど、とても許せないよ。」
やはり、佐々木は正義感の強い男だ。ラクガキ犯に並々ならぬ怒りを感じているらしい。
相手が佐々木ということもあり、理緒は自分がしている捜査について、彼の意見を聞いてみることにした。
「あのさ、佐々木くん。私、このラクガキを書いた犯人を探してるんだけど、やっぱりこの本を借りた人が怪しいと思うんだ。佐々木くんはどう思う?」
佐々木は理緒の考えに同調した。
「そうだろうね。長い作品だし、借りずに読んで、ラクガキまでするのは難しいだろうね。」
さらに理緒は、捜査の状況を詳しく佐々木に伝えた。
「この本、私の前に五人が借りてて、今日、それをひとりずつ当たってたんだ。ひととおり話は聞けたんだけど、どうしても一人、見つからない子がいて。高橋って男なんだけど、佐々木くん知ってる?」
佐々木はしばらく考え込んでいたが、やがて頭を横にふった。
「高橋か…知らないな。僕は他の学年も含めて、学校の生徒の名前はみんな覚えてるけど、そんな人、男子にも女子にもいないよ。」
「そうなんだ…」
「もしかして、偽名を使ったのかな。借りるときに適当な名前を書いたのかも。何のためかは分からないけど。あと、その人の名前が、ラクガキに書かれた名前と一緒というのも気になるね。」
さすが賢い佐々木である。事件の要点を掴むのが早い。理緒は話したいことが山ほどあって、すこし興奮気味にまくし立てた。
「そう!たしかに本には高橋って男子が出てくるんだよ!で、そいつが犯人なんだけど、高橋は頭がよくて、かっこよくて、正義感が強くて、そう、まるで…」
そこで理緒はハッとして、口をつぐんだ。興奮して話す勢いそのままに、「まるで、佐々木くんみたい!」と言ってしまいそうになったのである。
理緒は口に急ブレーキをかけた。おかげで、面と向かって恥ずかしいことを言ってしまうのは避けられたが、その代わり、顔が沸騰したみたいに熱くなるのを感じた。
「いや、なんでもない!」
ひとり騒ぐ理緒を、意味のわからない佐々木はポカンと見つめていた。
理緒は、
「それじゃ!わたし帰るから!」
と唐突に叫んだ。なんともこの場にいづらくなったのである。
とうぜん佐々木は、
「え!?帰るの?」
と、驚いていたが、そんな佐々木にお礼も挨拶も言うことなく、まるで理緒は逃亡する犯人のように、佐々木の元から猛スピードで立ち去った。
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