【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈12〉図書室の支配者
〈12〉図書室の支配者
「本を借りた人間を洗うべし。」
こんな当たり前の金言をホームズから授かった理緒だったが、いざ、それを実行しようと思うと即座に疑問が湧いた。
「どうやって、それを調べるのさ?」
いつの時代もそう。偉い人の言葉に現場は翻弄されるのである。
頭を抱える理緒のそばを、一人の男子生徒が通り抜けた。その生徒は、入口そばにあるカウンターに一冊の本を提出した。どうやら本を借りるらしい。
この図書室の貸出方式は、昔ながらのカード式である。本に貼り付けられた封筒に図書カードという紙が入っていて、本を借りたい人は、そのカードに自分の名前を記入して係りの人に渡すのだ。その本が返却されたら、係りの人が、図書カードを封筒に入れ、それから本棚に戻す。
男子生徒が図書カードに名前を記入する姿を見て、理緒は思った。
「そうか!図書カードに借りた人の名前が書いてあるぞ!」
この方式であれば、カードにその本を借りた人が一覧になって記録されているはずだ。理緒はバーコードとかを採用していない、古めかしい図書室に感謝した。
ただ、理緒の目の前にある『七つ首学園の怪事件』には、図書カードは入っていない。理緒が借りた時、自分の名前を書いて係りの人に提出したからだ。
「ああ!惜しいことしたな。あれがあれば、誰が借りたか全部わかるのに。今から見せてくれるかな?」
理緒は入口のカウンターを眺めた。そこには、上級生だろうか、メガネの女子生徒がいて、借りられた本のカードを箱に収めたり、返却された本にカードを戻したりしている。その姿は、デキる秘書ように理知的であり、また本を手際よくさばくその姿は、図書室の支配者のようでもあり、ちょっと怖かった。
「うわ、本マニアって感じだな。友達すくなそう…」
あっちからしたら「お前が言うな」であるが、やはり彼女は、手元の仕事が終わってもなお、厳しい目つきで図書室を見渡している。しかし、図書カード以外に、この本の借り手を調べる方法は思い当たらない。理緒は意を決して、彼女に話しかけてみることにした。
かくして理緒の探偵としての初仕事は、図書カードの中身を盗み見るという、探偵というよりはコソ泥の子分がやるような仕事となったのである。
その人は六年生で、名札に「尾崎文」と書いてあった。理緒が、「あの…」と声をかけると、尾崎はメガネをキラリと光らせ、鋭い目で理緒を見上げた。
「なにか?」
その圧に押され、理緒は何も言えなかった。
「うわ!しくじった。ちゃんと何を言うか考えてくるべきだった…!」
こういうとき人は、たいてい距離を縮めようとして、むりやり相手をほめるものである。
「あの…そのメガネ、ステキですね…」
それは理緒による渾身のお世辞だったが、尾崎はひとつも笑わない。理緒をなおも鋭い目で見上げている。
理緒は明らかに話題の選択をあやまった。メガネなんて、尾崎にとってみたらどうでもよかったのだ。
理緒は考えた。相手は本マニアである。それならばと、本に関する話題を選ぶことにした。
「ええっと。尾崎さんは、どんな本が好きなんですか?」
相手の好みそうな話題を持ちかけ、気分よく話をさせて情報を聞き出すのは、探偵の基本テクニックだ。探偵見習いの理緒にしては、上出来の作戦である。
しかし、尾崎は言った。
「私の好きな本は、ドストエフスキーやトルストイといった近代ロシアの文豪。それから、『こころ』など、漱石の後期昨品。あと俳句を少々。」
理緒の趣味とは、1ミリもかすっていなかった。
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