【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈13〉尋問される探偵
〈13〉尋問される探偵
尾崎は理緒の下手な誘導に乗るどころか、さらに警戒心を強めたらしく、さっきから理緒のことをメガネの奥からジーッと見つめている。もはや理緒は、探偵気分を味わうどころか、尋問される犯人の気分を味わっていた。
しびれを切らした尾崎が、
「あなたさっきから何なの?何か用があるの?」
と理緒を問いつめた。震えあがった理緒は、ついに、
「いや、今借りている本の、図書カードを見せてもらいたくて…」
と、全てをケロッと白状してしまった。こんなに簡単に口を割るようでは、探偵どころか、コソ泥の下っぱも勤まらない。
理緒の素直な供述を聞いた尾崎は、
「図書カード?どうして?」
と、当然ながら、目の前の不審者をさらに追求する。
「いや、その…」
捜査と言えるわけがない。理緒は何の理由も用意せずここに来た自分を恥じた。
絶体絶命のピンチに陥った理緒に救いを差しのべたのは、壁に貼られたポスターだった。そこには、「読書感想文募集!」という文字とともに、「あなたの感想を聞かせてください」というお願い文句が記されていた。
理緒は「これだ!」と思い、しどろもどろになりながらも、尾崎へ釈明をはじめた。
「あの!私、読書感想文を書こうと思ってるんです。この『七つ首学園の怪事件』について。でも、自分の感想だけじゃなくて、他の人の感想を聞いてみたいと思って。あの、その、参考としてですね…。それで、図書カードに名前が書いてあるかなーって思って来たんですけど…。ダメですか?」
人間、追いつめられると、思わぬ力を発揮するらしい。急場しのぎにしては、なかなか上手くやったほうである。
それでもなお、しばらく尾崎は理緒をうさんくさいものを見る目で眺めていたが、
「ふーん。読書感想文ねぇ。」
と、呟くと、図書カードが入っている箱を開けながら言った。
「まあ、それならいいでしょう。」
と、ツンとした態度は崩さずに言った。理緒は「よし!」と心で拳を握った。
尾崎はパラパラとカードをめくり、その中から、やたら白くきれいな一枚を取り出した。
「あった。『七つ首学園の怪事件』。」
理緒はドキッとしたが、何も言わず黙っていた。
「ふーん。この春の新刊ね。どうりでカードがきれいだと思った。でも、すでに何人か借りてるよ。」
そう言って尾崎は、理緒の前にカードを差し出した。
理緒はドキドキしながら、カードに目をやった。ついに目的の情報に辿りついたのだ。ここに名前のある人が、いわばこの事件の容疑者である。名前が書いてあるだけなのに、犯人と対面しているような緊張が走り、理緒の体は小さく震えた。
そこには、借りた本人の文字で、名前が六つ並んでいた。上から順に、理緒はじっくりと目を通した。
「さいとうまゆ
だにえる
たかはしゆういち
篠原詩織
佐々木知高
小寺理緒」
何よりもまず、理緒はその五番目の名前に目を奪われた。
「あ!佐々木くん!」
そう、理緒のクラスメイトの佐々木知高である。
「私の前にこの本借りてたの、佐々木くんだったんだ。借りたときは、ぜんぜん気づかなかった。」
佐々木は頭がよくてカッコいい男子だ。そんな佐々木と同じ本を借りていたというのは、趣味が合ったという意味で、理緒にとっては喜ばしいことである。
しかし同時に、ここに名前があるということは、佐々木も容疑者の一人ということを意味する。
「いやまさか、あの佐々木くんが、ラクガキなんてするわけ…」
そう思いかけて、慌てて理緒は首を振った。
「ダメだダメだ!先入観を持っちゃいけない。佐々木くんだって、立派な容疑者だよ。」
それから、理緒はポケットから小さなメモ帳を取り出し、自分以外の五つの名前を全て書き写した。そして、それが済むと、やっぱり理緒をうさんくさそうに見ている尾崎から逃げるように、図書室を退散した。
「ふぅ、怖かったけど、なんとかなったぞ!これで容疑者は五人に絞られたんだ!大成果だよ!」
厳しい現場をひとつくぐり抜け、理緒は探偵として、ほんのちょっと成長できた気がした。
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