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【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈14〉老婆に教わる探偵術

〈14〉老婆に教わる探偵術

 その日は金曜だったので、普段だったら夜遅くまで探偵小説を読みふけるのであるが、今日に限っては、それより楽しい時間がすごせるはずだ。もちろん、ラクガキ犯の推理を進めるのである。

 理緒は部屋のカーテンを閉めきると、例のメモ帳を薄暗い机の上に開いた。やっと手に入れた極秘情報である『七つ首学園の怪事件』の借り手、つまりラクガキの容疑者の名が、ここには記されているのだ。カチッとひねった取調とりしらべ室みたいなライトが、五つの名前を闇に浮かび上がらせた。

「さいとうまゆ
 だにえる
 たかはしゆういち
 篠原詩織
 佐々木知高」

 これが、『七つ首学園の怪事件』を借りた五人の名前である。理緒は興奮ぎみに叫んだ。
「容疑者は絞られた!」
捜査は確実に進展している。事件の深い闇へ、ぐんぐん迫っていることを理緒は実感した。

 理緒はあらためて、五人の名前にじっくりと目を通した。当然、五人とも同じ学校の生徒であるが、中には理緒の知らない名前も混じっている。
 「さいとうまゆ」と「篠原詩織」は女子であるが、斉藤という二年生の子が近所に住んでいるのを知っている一方で、篠原という人は知らなかった。難しい名前を漢字で書いているので、上級生のようだ。

 それ以外の三人は男子だ。もちろん佐々木はクラスメイトなので知っている。あと、気になる「だにえる」であるが、これはこの春アメリカから転校してきたダニエル・パーカーだ。五年生の男子生徒で、学年こそ違うが、外国人は珍しいので、理緒も彼のことは顔もふくめてよく知っていた。まだ日本語に不慣れで、カタカナで名前が書けなかったのだろう。

 そして、残る三人目。たかはしゆういち。これは理緒にとって、名前も顔も知らない男子だったが、この名前を見て、理緒は運命めいたものを感じずにはおれなかった。
 理緒は図書カードに書かれていた文字と、ラクガキの赤い文字を頭の中で重ねながらつぶやいた。
「こいつも高橋か…」
 ラクガキにその名を記された『七つ首学園の怪事件』の犯人と、この本の三人目の借り手。その二人が同じ高橋なのである。よくある苗字だし、偶然と言えばそれまでだが、またしても現れた高橋という人物に、理緒は強く引きつけられるのであった。

 さて、今後の捜査の流れは、この五人の容疑者を一人ずつ洗っていくことになるわけだ。同じ学校の生徒なのだから、話を聞きに行くことは簡単だし、知らない生徒も、調べればすぐにみつかるだろう。
 しかし、理緒の心には、なおもぬぐいきれない不安が渦巻いていた。
「取り調べなんて初めてだし、私にうまくやれるかな…」
これからの捜査では、直接、容疑者と関わりあう。それは、目の前の相手が、事件の犯人かもしれないということを意味する。
 理緒は、犯人と対峙たいじする名探偵の姿を思い浮かべた。ホームズ、ポアロ、明智小五郎…。理緒が敬愛する探偵たちは、どんな凶悪な犯人と向かい合っても、全く動じることなく、堂々とした態度で捜査を進める。むしろ、犯人を震え上がらせるほどだ。それは、探偵見習いの小学生女子にマネできる芸当ではない。

 どうしたものかと悩む理緒の頭に、またしても名探偵の姿が浮かんできた。昼間あらわれたのは優雅にパイプをくゆらすホームズだったが、今度は編み物をしながら椅子に腰かける、どこにでもいそうな老女の姿だった。そう、世にも珍しい、お婆さん探偵のミス・マープルである。

「理緒、どうしたの?落ち込むなんて、あなたらしくないわ。」
「ミス・マープル。私、明日、事件の捜査に行くんだけど、うまく取り調べできるか不安でしょうがないの。」
「あら、どうして?」
「だって、初めてのことだし…。とても、名探偵みたいに堂々としていられないよ。」
「まあ!堂々?そんな必要ないじゃない。」
「え?どうして?犯人の前で緊張してるようじゃ、探偵失格だと思うけど。」
「ふふ。あのね、理緒。いいこと教えてあげる。探偵ってね、堂々としてないほうが、有利なこともあるのよ。」
「どんなこと?」
「容疑者だって人間ですもの。相手が名探偵だって思ったら、そりゃあ警戒するわ。警戒した人間は、そう滅多めったにボロを出さないものよ。でも、もし相手がヨボヨボのお婆さんだったらどうかしら?油断してしまうと思わない?ね、探偵と悟られないほうが得なこともあるでしょ?」

 マープルはとても頭の切れる人だが、見た目はふつうのお婆さんなので、犯人はうっかり油断してしまう。それでつい、思わぬことを口走ってしまうのだ。
 「そうか。あんまり探偵だってことを相手に知られないほうがいいのか。ごくふつうの小学生でいればいいんだ。ありがとう、マープル!」
それを聞いた頭の中のマープルは、ふふっとイタズラっぽく笑うと、下げていたメガネをかけなおし、再びやりかけの編み物の針を動かしはじめた。

目次〉〈次回

#創作大賞2023

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山田星彦 小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。