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【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈15〉そろばんかかえて初尋問

〈15〉そろばんかかえて初尋問

 翌日、理緒は昼ごはんに好物のうどんをかき込むと、メモ帳、手袋、虫メガネなど、探偵道具一式をカバンに入れて家を飛び出した。
 このカバンというのは、赤いチェックの手提げカバンで、もともとは、そろばんを入れるためのものだった。サボりがちだったそろばん教室のカバンを、理緒は探偵カバンに流用したのである。だから、カバンには、そろばん教室の名前と電話番号が印字されていた。

 しかし、このカバンを使うことにしたのは、単に大きさが手頃だったというだけではない。理緒には、れっきとした思惑があった。
「これなら、私が探偵だってバレないぞ。」
 そろばんを持ち歩く探偵など、世界に彼女くらいのものだろう。誰が見ても、そろばん教室に通う普通の小学生にしか見えない。これは、身分を隠すという意味で、実にうまいカムフラージュだ。理緒は、「探偵と悟られないほうが得」というマープルの教えを、忠実に守ろうとしたのである。もちろん、そろばん本体もカバンから顔を出していて、理緒が歩くたびにチャカチャカと音を立てた。

 理緒は公園のベンチに座り、本日の捜査の計画を立てた。理緒は、今日のうちに五人の容疑者全員を取り調べるつもりでいた。みんなこの町に住んでいる。難しいことではない。
「五人のうち、斉藤、ダニエル、佐々木は家も知ってる。まずはこの三人から当たろう。高橋と篠原は知らないけど、もしかしたら誰かが知ってるかもしれないから、ついでに聞いてみなくちゃな。」
 理緒は探偵カバンから、『七つ首学園の怪事件』を取り出した。
「よし、ちゃんと証拠品も持ってる。この本を見せながら、自然な流れで話をすればいいんだ。くれぐれも私が探偵だって悟られないようにしなきゃ!」
理緒はベンチから腰を跳ねあげた。
「よし。まずは、斉藤さんのとこだ!」

 斉藤の家は、公園の近くのアパートだった。理緒はドキドキしながらチャイムを鳴らした。
「さりげなく。さりげなく。探偵と悟られないように…」
 すると、すぐに扉が開き、斉藤本人が出て来て、理緒を見るなりこう言った。
「あー!探偵のお姉ちゃんだ!」
「な!」
「ねえ、どうしたの?事件?」
「いや、その…」
 斉藤は理緒の顔を見るなり探偵と見抜いた。どうやら、理緒の探偵マニアぶりは、他の学年の子にも知れ渡っているらしい。理緒の思惑はもろくも崩れ去った。

 隠すまでもなく身分を見破られた理緒は、しかたなく、ふつうに話を聞くことにして、探偵カバンからメモ帳と本を取り出し、斉藤にたずねた。
「あのね、斉藤さん。私この『七つ首学園の怪事件』を図書室で借りたんだけど、斉藤さんも、この本、前に借りてたよね?読んでみて、どうだった?」
 あまりに唐突な質問に、斉藤はちょっとポカンとしていたが、やがてニコニコはじけるような笑顔で答えはじめた。
「うん。その本かりたよ!だけどね、ちょっと難しかったから、読めなくて、すぐに返しちゃった!」
「そうなんだ…」
斉藤は二年生である。この本には漢字もたくさん出てくるし、推理ものなので内容もややこしい。読まずに返してしまっても無理はない。

 「じゃあね、もうひとつ教えてくれる?斉藤さんが借りたとき、本にこんなラクガキあった?」
理緒はそう言って、表紙をめくって斉藤にラクガキを見せた。斉藤は紙面を覗き込むように見ていたが、すぐ首を横に振った。
「ううん。なかったよ。わたしその本、いちばんに借りたから、きれいだったよ。」

 理緒は最後にもうひとつ斉藤に質問した。
「あとね、斉藤さん。学校の生徒で、高橋くんか篠原さんって人、知らない?」
斉藤は、しばらくじーっと遠くを見つめ、何やらいろいろ考えているみたいだった。が、やがて首を振った。
「ううん。知らない。」
「そっか。」

 ひととおりのことを聞いたので、理緒は斉藤への取り調べを終えることにした。
「ありがとう!斉藤さん。助かったよ。」
斉藤は嬉しそうに言った。
「うん!わたしも探偵ごっこ楽しかったよ!ありがとう。またやろうね!」
「はは…」
 理緒はマープルに相手を油断させろと言われていたが、油断させるどころか、感謝までされてしまった。探偵としてはどうか分からないが、面倒見のいいお姉さんとしては上出来だろう。

目次〉〈次回

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山田星彦 小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。