【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈9〉警部に報告
〈9〉警部に報告
昼休み、理緒は本のラクガキについて、いちおう友光先生に報告しておくことにした。本は学校の備品なので、先生に知らせておくのが筋だと思ったのだ。理緒は本を持って先生の元へ向かった。
「あの、ちょっといいですか?」
ただでさえ、かつて自分を「警部」と呼んだ変人生徒である理緒が、真顔ですたすたと歩み寄ってきたのだ。先生は恐怖で身構えた。
「え!?なに?」
怯える先生に追い打ちをかけるように、理緒はスッと例の恐ろしげなタイトルの本を机に差し出した。
先生は本をジロジロ見つめ、しばらくは強ばった表情を崩さなかった。しかし、突然、「あっ!」と声をあげると、その険しかった顔をほころばせた。
「これ、『七つ首学園の怪事件』だね!懐かしい!」
「えっ!?懐かしい!?」
理緒は驚いた。まさか先生がこの本のことを知っているとは、夢にも思わなかった。
「読んだことがあるんですか?この本。」
「うん、あるよ。ずっと前、私が小学生のころにね。」
先生は、なおも本を見ながら懐かしがっている。当時を思い出しているのか、すっかり先生の顔はいつものにこやかな表情に戻っていた。
しかし、理緒は不思議に思った。この本は、この春、図書室に入荷したばかりの新刊だったはずだ。先生が子供のときとなると、20年ほど前の話である。ぜんぜん辻褄が合わない。
ただ、これには先生が明解な解説を加えてくれた。
「私が読んだ時とは、本のデザインが変わってるから、最初、ぜんぜん分からなかったよ。これは最近出た新装版なんだね。」
「なるほど、新装版…」
どうやらこの作品は、先生が子供のころに出版され、その後、時を経てなお読みつがれている名作らしい。それでこの度、新装版が出たのだ。
納得して頷いていた理緒に、先生が話しかけた。
「ところで、この本がどうかしたの?」
理緒はハッと我にかえった。思いもよらぬ話の流れになってしまったが、新装版に納得している場合ではない。先生にラクガキを見せなくてはならないのだ。
理緒は本を指さすと、先生に向かって、厳かに言った。
「先生、表紙をめくってみて下さい。」
急にそんなことを言われ、先生はちょっと不審そうだった。しかし、
「え?いいけど…」
と言うと、そっと本に手をかけ、おそるおそる表紙をめくった。
そんな先生の顔を見ながら、理緒は思った。「次の瞬間、先生はあの心ないラクガキを目にすることになるのだな」と。先生は驚くだろうし、悲しみもするだろう。それを思うと、理緒は先生に申し訳なくて、急に胸が痛む気がした。
「なにこれ!?」
ラクガキを見た先生が短い悲鳴をあげた。やはり先生は、昨夜の理緒がそうだったように、全身が凍りついたように固まって絶句している。理緒は、まるで自分が悪いことをしてしまった気分だった。先生だって本好きである。このラクガキを見て悲しむ気持ちは、理緒にもよく分かるのだった。
しかし、先生はさすがに大人だった。理緒みたいに取り乱したり、本棚に向かって熱弁をふるったりしない。先生はパタンと表紙を閉じると、ひとつため息をついてから、なんだかすごく申し訳なさそうに理緒に言った。
「ひどいことする人がいるね。せっかく借りたのに、つまらない想いをさせちゃったね。」
かえって理緒は慰められたのだった。
理緒は慌てて答えた。
「いえ!悪いのは犯人ですから。ただ、読めなかったのは、ちょっと残念だったなと…」
それを聞いた先生は、すこし安心した様子だった。理緒が傷ついて落ち込んでしまったのではないかと、心配していたようだ。
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