【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈8〉理(ことわり)と緒(いとぐち)
〈8〉理(ことわり)と緒(いとぐち)
先生がみんなに向かって言った。
「他に、漢字の意味を教えて欲しい人はいますか?」
すると、それに応えて、あるひとりの生徒が真っ先に手を上げた。それは意外にも、理緒の隣に座る小春だった。
これには、クラスの全員が驚いた。おとなしい小春にしては珍しい行動だし、そもそも、小春の漢字については、あまり説明する必要がなさそうだ。先生も少し驚いたように小春を指した。
「小春の意味が知りたいの?」
小春は首を横に振り、こんなことを言った。
「いえ、私が知りたいのは、理緒ちゃんのことです。私、理緒っていう名前はすごくステキだなと思っているんですが、字が難しくて、どういう意味か分からなかったから、知っておきたいなと思って…」
理緒は驚いて小春を見た。ありったけの勇気をふりしぼったのだろう、小春は、ちょっと恥ずかしそうに俯いている。
理緒は嬉しくなった。まさか、自分の名前を推薦してくれるとは!小春がそう言ってくれたのは、何もカエルから守ったからだけではあるまい。ふだんから、そう思ってくれていたのだろう。
先生は小春の行動にえらく感激したらしく、漢字辞典を引く間も小春をほめちぎっていたが、いちおう、ちゃんと理緒の名前も調べてくれた。
「理緒の「理」は、ことわりという意味です。頭で何かを考えることや、その考えの道筋を表しています。理由とか、推理という言葉に使われているよね。」
そう言って、先生はクスっと笑った。理緒も「推理」という、探偵にまつわる言葉が出てきてドキッとした。
さらに先生は続ける。
「理緒の「緒」は、いとぐちという意味です。いとぐちは糸の端っこのことで、そこから、するする糸を引っ張るみたいに、複雑に絡み合った物事をひもとく、手がかりのことです。」
これには教室中が「おお~」とどよめいた。「緒」にもまた、探偵にまつわる意味があったのだ。事件の糸口なんて、まさに探偵が虫メガネで血眼になって探しているものではないか。
小春が理緒に言った。
「すごいね、理緒ちゃん。名前からして、探偵さんだね!」
理緒は照れていたが、内心、こんなに鼻が高い思いをしたことはない。理緒は思った。
「すごいぞ、私の名前!「理」はことわりで、「緒」はいとぐちだって。これ以上、名探偵にふさわしい名前があるもんか!江戸川コナンよりすごいぞ!だいいち彼のは偽名だし。」
自分の名前に酔った理緒は、思わず「ぐふふ」と口元に、だらしない笑みを漏らした。残念がらその顔に、コナン君のような知性は、みじんも感じられなかった。
それから、先生は黒板に「元」「気」「知」「高」「理」「緒」をはじめとして、生徒の名前に使われている漢字を書き出していった。他にも、「正」「勇」「美」「優」「実」など、いかにも名前に使われそうな、好感度の高い漢字が並ぶ。
「みんなの名前に使われている漢字を並べてみました。どれも美しい漢字ばかりだよね。みんなの名前は、良い漢字で作られてます。」
たしかに、黒板に並ぶのは、適当に二つ組み合わせてみても、人の名前になりそうな漢字ばかりである。
さらに先生は続けた。
「でも、漢字の中には、悪い意味を持ったものもあります。たとえば、「弱」「悲」「闇」。こういう漢字は、もちろんみんなの名前には使われていません。それは、そういう漢字が名前に使われてしまったら、その子が悪いもののように、周りから思われてしまうからです。それに、そういう言葉は使っているうちに自分の心まで汚くしてしまいます。」
そんな先生の話を生徒たちはマジメに聞いていたが、理緒はひとり苦笑いを浮かべた。
「殺」「盗」「血」「罪」「狂」…
理緒が好む探偵小説に踊り乱れる漢字たちは、とても人の名前に使えそうにないものばかりであった。
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